第三話 硝子

 嗚呼…まただ、また、この夢だ。走っている、私は、走っている。息を切らしていて、周りのものには見向きもせずに、走り続けている。何処まで走ればいいのだろう。いつもぼんやりと、夢の中で意識がある。

 次から次へと湧いて出てくる泉のような、疑問、思考、疑問…思考…絶えることなく湧き出ているのに、解決することは一度だってなかった―――今までも…そして今日もそうだろう。


 それなのに、に変化があったのは、今日からだった。


 私は、レンガ造りのレトロな雰囲気が漂う店の前で足を止めた。大きなガラスのショーウィンドウから覗くと、アンティークショップだろうか、家具やシャンデリアなど、骨董品が棚に並べられている。扉を開けて中へ入ると、感覚はないものの、少し埃っぽいのが感じ取られた。西日が店内をぼんやりと照らしている。夢の中の私はそれらにも興味を示さず、レジの横にあった小さなショーケースへと近づいて行った。


 どくどくと、心臓が早鐘を打つ。痛いほどに、強く、早く。手を伸ばしたそのショーケースの中には、21gの文字が書かれたプレートが置かれ、鍵がかけられていた。


 ふっと意識が遠のく。ぼんやりと視界が歪んで、気が付くと、私はベッドの上に起き上がっていた。


 何、今日の…


 バクバクと、まだ心臓が早鐘を打っている。


 あ…来る……


 途端に、溺れそうになる感覚に襲われる。息ができない、苦しい。水もないし、空気もあるのに、どんどんと深海へ沈められていくようだ。でも、今日はどこか心地よくて、私はそのまま意識を失った。




 続き…だろうか、それとも、さっきのも夢の一部なのだろうか。ぼんやりと、摺りガラスを通してみているような視界の先に、さっきの店が現れた。やはりショーケースの中には何もない。


 いつまで見続けているのだろう、もしやこのままずっと見続けたままなのだろうか。そもそも、何故夢の中なのに意識があるのだろう。


 これは現実か?私は夢を見ていると勘違いして、現実を夢だと勘違いしているのか?では、それならば、私以外の人は何処に?


 記憶の中で、私は何かを食べた記憶がない。生きるために必要なことをしていた記憶が、ない。もしや両方が夢なのか?私は生きているのか?それともとっくに死んでいて、私という存在はもうこの世にないのではないか?


 ぐるぐると思考が入り交じり、もつれ、ほどけなくなっていく。そう、まるでがんじがらめになって、取れなくなったチェーンのネックレスのように…。


 考えてはいけない、キリがない。そう思えば思うほど、考えてしまう。嗚呼、ダメだ、不のループが完成してしまった。諦めて、に集中する。少しでも、何かがわかるものはないか。しかし変化もなく、何の予兆もなく、呆気なく終わってしまった。

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