第一話 霧雨の町

 嗚呼…まただ。


 同じ景色、同じ家、いつもと同じどんよりとした空、しっとりと肌を潤わせるような雨が降り注いでいる。植物は生きる気力がないのか、くたびれた布のようにぐったりとしている。でも、それらに気を配ることなく、私──というべきなのだろうか──は真っ直ぐに続く道を走っている。どのくらいの時間、走っているのだろう。いつも同じ場所から始まり、それ《夢》が始まった時からは走っている。


 何のために走っているのだろう。なんの目的の、ために?


 その疑問は解決される間もなく、それは終わってしまう。それの終わりはいつも不自然で、どこかで立ち止まった時だったり、走っている途中だったり…ただ、それは毎日同じ光景を私に見せているわけでもないらしい。どうやら続きというものが少しずつ追加されていくようだ。初めは終わりが知りたくてたまらなかった。これが何なのか、何を表すのか。まるで小説を読むようにわくわくと胸を躍らせて私はを楽しんだ。しかしふと、恐ろしい考えが脳裏をよぎった。


 憶測だ!ただの夢だ、こんなもの!


 私は部屋に一人、ぽつねんと座ったまま大きな声を上げた。そしてぽとりと零した本音に、身体が震えた。身体中の毛穴の一つ一つが収縮し、ぼこぼこと滑らかな肌に凹凸をつくる。


 そんなわけが…ない。


 最後につぶやいた言葉がまさに本音であった。信じたくない、そうであってほしくない、自分の憶測が、憶測であるように願って出た、だった。

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