筋肉をつけよう

夏木

筋肉をつけよう。


「筋肉つければいいじゃん」


 当然のように言われた言葉に俺は絶句する。


「あ、阿呆かぁ! そんな努力が出来る奴だったら、こんな相談してねぇ!!」

「そう言われてもなぁ。何もせず痩せるって、無理だろ?」

「そんな正論聞きたくない!」

「お前……」


 耳を塞いで頭を何度も横に振る。


「とにかく、プロテインでも飲んでインナーマッスルでも鍛えろ」

「うぐぐぐぐ…………。だから、そういうのが身に付くようなやつなら、こんなに太んねーんだよ……。なんか無いか? もっと簡単に痩せる方法」

「あのな。もしそんな方法知ってたら、俺はとっくの昔に億万長者か、そもそも太ってる奴自体いないかどっちかだ」


 全くもってその通りで。


「はぁ……。いっそ、異世界転移で、レベルアップしたら、一気にしゅっと痩せるとかそういうダイエット方法ないかなぁ~」


 ため息とともに、机に懐く。


「お前……。分かってる?」


 分かってるよ、そんな馬鹿な事言ってないで努力しろってんだろ?


「そんな世界、痩せるための筋肉どころか、戦うための筋肉付けなきゃあっという間に死ぬだろ? お前がやりたくないっていってる以上の努力しないといけない世界だぞ、絶対」

「…………」


 確かに。


「……神は死んだ」

「いや、神のせいにすんなし」


 後頭部をぺしぺしと叩かれるが起き上がる気力はない。

 

「いいか? 食った分、動けばいいんだよ。いっそ、買い食いする金をプロテインにあてたらどうだ?」

「っぜってー嫌だ!」

「なら、地道に頑張れ」

「俺がそんな努力出来るわけねーじゃん。なんで、このご時世、痩せるための薬が無いんだ」

「ああ、もうワカッタ」

「ん?」

「お前が自分で作れ」

「へ?」

「お前が自分で痩せるための薬なり、器具なり作れ! 将来の自分に期待しろ!」


 投げやりになられてしまった。


「……我が儘いって申し訳ありませんでした。一人だと挫折するので、一緒にやってください」


 素直に謝ってお願いすると、初めからそうしろともう一度怒られた。


「で? 今度はどこの誰に惚れたんだよ」


 痩せたい動機もしっかりとバレていた。

 

 その後、お前が惚れてる間に完了しなきゃ、リバウンドすんだろうな、とか、怖い言葉を口にしながら、付き合いのいい友人は、俺のために、筋肉を付けるためのプログラムを考えてくれた。


 そして、半年後。無事に痩せて、告白した。










 帰りに買ったコンビニのフライドチキンは、しょっぱい味がした。




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筋肉をつけよう 夏木 @blue_b_natuki

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