幸とお客さん
ツイッターとインスタグラムにコスプレ写真を上げると、それほど間を置かずに次の撮影の申し込みがあった。レンタルペットが目当てのお客さんよりも反応がいい気がした。コスプレに情熱を燃やしている人達は、ただ蛇と触れ合いたい人よりもずっと熱心なようだ。
幸がナーガ姫のコスプレをする人たちの目に留まってから、予約は倍増した。やはり人気アニメの力は大きい。ナーガ姫というキャラクターもまた、人気が出そうな性格づけがされている。私も暇なときに数回アニメを見てみたのだが、主人公の味方とは言えないものの、単純な敵役でもなく、美しく、気高い姫として描かれている。
見た中に、裏切り者の部下に対峙するという緊迫した場面があった。
「ターラー、おやり!」
とナーガ姫が蛇に命じると、なんと蛇はその男に飛びかかって巻き付き、締め上げて殺してしまった。凄惨な場面であったが、蛇はただの装飾でなく、ナーガ姫の意を受けて働く処刑人でもあると印象付けられる回だった。こんな場面をテレビアニメで流していいのだろうかとも思った。
コスプレ撮影の申し込みは、愛知県内だけでなく中部地区一帯から、時には東京や大阪、またそれ以外の地域からもやってくる人がいた。交通の便が良くなく、写真スタジオのような設備もないこのアパートに、こうやって遠くから来てもらえるとは意外だった。コスプレをした上で蛇と写真が撮れる場所はおそらくあまりなく、ニッチな需要を取り込めたというところだろうか。
メディアでは見たことがあるが、アニメキャラクターのコスプレをする人はずいぶんたくさんいるようだった。やってくるのは大抵は「ナーガ姫」だった。時には同じ作品中の別のキャラクターも来て、並んでポーズを取って撮ることもある。皆、撮影には慣れたもので、体をひねって流し目をしたり、手でさまざまにポーズをしたりしつつ、幸を持ち上げてタイミングよくシャッターを切れる人が多かった。色々な撮影場面が見られて、なかなか楽しかった。
夏が近付き暑くなってくると、コスプレのお客さんはその衣装のせいもあって、かなり汗をかくようになった。この部屋にはエアコンが無い。姉の家から冷風機を借り、水タンクに凍らせた保冷材を入れて涼しい風を送るようにした。しかし、エアコンの威力には程遠い。
「ナーガ姫」以外には、「蛇女」や「メドゥーサ」の扮装をする人もいた。もし私にカメラの腕があったら、お客さんが一人で来ることもでき、さらに私にも撮影料が入る仕事になるかもしれないと思う。
日常的に「蛇 ペット」や「キイロアナコンダ」のキーワードで検索をしているが、ある日「ペットの蛇に付くダニ」の画像を見た。蛇を飼っている人が、飼い方を解説しているサイトだった。蛇に付くダニが三種類ほどいるらしいが、そのうちの一種の写真で、うろこの重ね目に頭を突っ込んで食いついている、スイカの種がふくらんだような形の灰色のダニだった。
蛇のうろこ同士はくっついてはおらず、重ね合わさっているだけで、それは幸が餌を飲み込むとき喉や胴を膨らませるのを見ていればわかる。皮膚が伸びるとうろこは離れ離れになるのだ。皮膚が元に戻ると、うろこも元通り、ぴったりと隙間なく重なる。その様は芸術的ですらある。
ところが写真のダニはその重ね目に頭をねじ込むようにして寄生している。普通ならとても食い込めないだろうと思われる隙間だが、このダニはどうやったのだろう。目が離せなくなって、ぞっとしながらまじまじと見てしまった。
その写真は、サイト主の蛇を撮ったものではなく、他から持ってきた素材だった。しかし「別の種類の赤いダニが飼っている蛇の近くにいて、慌てて殺した、これは自分が外から持ち込んだものだろう」ということを書いていた。幸の場合も、外に出ないのだから、もしダニがいたならそれは外から持ち込まれたものだ。幸をしょっちゅうお客さんに触れさせているので、私がよくよく気を付けて見ていなければならないだろう。あの灰色のダニの写真を思い出すたびに、腕にさわさわと寒気を感じる。
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