其の四
ラドロア国民献身艦隊の突然の侵攻に対して、灯華皇国軍の対応は後手に回った。
渡国基地は緊急回線で州都・萩原に援軍を要請。しかし、当時の萩原には容易に援軍を送ることができない事情があった。
この時、灯華軍は先のヴァスコニア軍と大規模会戦である での雪辱を果たすべく、第一軌道に全部で六艦隊存在する正規艦隊のうちの三艦隊からなる連合艦隊を派遣し、一大決戦を挑もうとしていた。
更に後詰めの戦力として地方艦隊から戦力を集結させ第二陣として派兵することが決定。常和州の駐屯艦隊からも重巡空艦『雷光』と軽巡空艦『雷奮』をはじめ、多くの艦船が引き抜かれていた。
その結果、当時の常和州全ての航空戦力を集結させてもラドロア軍:国民報国艦隊に対抗するには力不足であったのだ。
尤も、皇都・弥生と大規模都市及び国内有数の工業地帯を除けば、どの州も似たような有体であったわけだが。
灯華国内に残されたの正規艦隊のうち二つは で大きな損害を受け、艦船の修復や新たに配属された艦船と元から配属されていた艦船との間で連携がうまく取れず、旧式艦船で構成された予備艦隊に演習で遅れを取るといった体たらくであった。
唯一無傷であった第六正規艦隊は国領の反対側マカジャマニとの国境に展開しているため、応援要請は間に合わない。
連合艦隊はすでに第一軌道に展開しており、未だ灯華国内を航行していると思われる第二陣は、無線封鎖を行っていて、どこを航行しているのか分からない。
中立を謳う天威、グロリアとの戦争で国力の低下したマカジャマニ王国。外交上、大きな軋轢を抱えていなかったリョミル共和国やヴォルケントゥルム連邦などの列強諸国。“凪の時代”と呼ばれた第二軌道の情勢に胡座をかいた結果であった。
侵攻の手を緩めることなく、航路上の島々に執拗な攻撃を加えながら進むラドロア軍国民報国艦隊。
度重なる爆撃を行った為に、爆弾槽を殻にする駆逐艦が続出。補給艦隊からの補給を受けるために後方に下がる艦船が出始め、進撃速度は低下した。
それでも町の全容が見渡せる位置に来れば使いつくさた爆弾の代わりに二〇センチ砲が放たれる。
灯華国内のスパイ網から灯華軍の内情をある程度は聞き及んでいたウンゲルン少将は諌める必要はないと判断た。
国民報国艦隊の眼前に新たな都市が姿を現した。日々野の町である。
市街地から離れた岬の砲台から対空砲が打ち出される。それらの砲弾は先行していたラドロア軍駆逐艦や攻撃艇郡を飛び越えて炸裂、内部に封入されていた拳大の徹甲弾が降り注いだ。対駆逐艦用散弾である。
直撃を喰らった戦闘艇が炎となり、空に爆ぜる。装甲を突き抜けた徹甲弾が人員や機関を損傷させ、航行不可能となった駆逐艦が気流に流されのろのろとした速度で漂流し始める。
中には浮遊筒を損傷し浮遊することができなくなり、空の底へと墜ちていく駆逐艦もあった。
対空砲の砲手が仰角を修正し、散弾を打ち上げようとするが、そこにラドロア軍の戦闘艇が次々と飛来する。ものの十数秒の機銃掃射により沈黙した砲台に向かって駆逐艦の主砲が打ち出した二十センチ砲弾が殺到する。
黒煙が立ち昇る放題群を横目にラドロア軍は日々野の町に攻撃を開始した。駆逐艦の腹から新たに補給された爆弾が次々と投下されていく。
町の中心部に住んでいた人々は防空壕の中で身を寄せ合って、暗闇の中で爆弾が直撃しないことを祈った。
町の外れに住んでいた人々は山の中に避難することができた。しかし、彼らはそこで日々野の町に爆弾を投下するラドロア軍の駆逐艦や何かを早仕立てるような挙動の戦闘艇の姿を目の当たりにした。自分達の住んでいた町が一方的に破壊されていく様をただただ見ていることしかできなかった。
日々野の上空を我が物顔で飛ぶラドロア軍から視線を逸らすと、その奥に青みがかった灰色の船団が見物客のように浮遊している。
その時、ラドロア軍の艦船のものとは異なるプロペラ音が響き渡った。何事かと空を見上げた人々の目に映ったのは頭上を通り過ぎていく戦闘艇の姿であった。
人々は悲鳴を上げそうになった。しかし、その戦闘艇が見慣れた灯華軍の機体だということに気付く。同じ形の影が次々と頭上を通過していく。
見れは、日々野の上空にいたラドロア軍が慌てたように島から離れていく。
その内の一隻が、島の縁を越えた所で何かにぶつかられたかの様にふらついた。その直後、轟音を立てながら爆ぜた。
おい、あれを見ろ。誰かが反対側の山を指差した。
山の影から次々と艦船が姿を現した。そのどれもが黒に近い褐色のをしている。灯華軍の艦船であった。砲艦や駆逐艦だけではない。巡空艦と思われる艦船の姿も見られる。次々と現れる灯華軍の艦船は瞬く間に日々野の空を支配してしまった。
避難していた人々はめまぐるしく変化する事態にただただ唖然としていた。その時、一際大きなプロペラ音が響き渡る。今度は何だ。再び頭上を見上げると、巨大な影が天に蓋をしていた。駆逐艦など比較にならない艦船が人々の頭上を越え、後続する巡空艦を引き連れて、混乱するラドロア軍へと果敢かつゆ悠然と向かっていく。
その艦船こそ、灯華軍大佐・松山健一朗艦長の乗艦、戦艦『祥風』であった。
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