第15話「突撃」

 帝国の城の方へ向かって飛んでいくと、城の周りが真っ黒な何かに囲まれていた。

「あれは……もしかして全て兵士か!?」

「そのようだな」

 さらに空は大量の空中戦艦や航空機が飛んでいる。

 もう帝国は何でもありだな……。一体どういう世界観だよ。

 それにしてもこんな敵の数、さすがに俺とロードでどうにかなる量じゃないぞ。

「やあ、レオンハルト君」

 この声は── 

「世界を変える。これってある意味世界征服なんじゃない? そう考えたら僕の得意分野だよね」

 そう言ってピースをするシオン。彼は大きな翼の生えた4本脚のモンスターにまたがっていた。

「またそうやって似合いもしないピースなんかしやがって」

「そうかい? 僕は結構気に入っているんだけどね」

 シオンは相変わらず爽やかに微笑んでいる。ピースなんかせずに自然体で笑っているだけが一番様になっていると思うけどな。

「それにしてもレオンハルト君。まさか君がロードと知り合いとはね。驚いたよ」

「ロードのことを知っているのか?」

「ああ、僕が魔王だった頃に唯一僕の元に来なかったモンスターだね」

 魔王に従わないモンスター。ということは元々敵同士だったわけか。

「そんなロードがダンジョンでNPCをやっていたと思うと不思議だな」

「それだけ名前を奪うということは効果的なのさ」

 ロードはそれについては何も語らない。まだシオンを警戒しているのだろうか。

「さてと、レオンハルト君。君はあの城に入り込みたいんだろう?」

「そうなんだが、あの敵の量じゃどうしたもんかと悩んでいたところだ」

「僕達が道を開けるから、そこを突き抜けていってくれ」

「気持ちは嬉しいけど、さすがにシオンとそのモンスターだけでは無理だろ」

「僕はこれでも元魔王だよ?」

 後ろを振り向くシオンにつられて俺も背後を見た。そこには地上と空を埋め尽くすほどのモンスターがいた。

「君からシオンという名前をもらった後、『やることがあるから先に行っててくれ』って言ったよね? それは魔王をやめるからモンスター達と話をつけることだったんだ。ただ、モンスター達は皆僕についていきたいって言ってくれてね。それですべてのモンスターに名前をつけていたら時間がかかってしまったよ」

 シオンを敵に回さなくてよかったと俺は初めて思った。ピースの件、今度からは似合っていると言った方が良いかもしれない。

「ちなみに彼の名はジョセフ。良い子だろう?」

 シオンは乗っているモンスターの首元を軽くポンポンと叩く。頭をシオンに擦り付ける。なんだかやたら懐いているようだ。魔王って人徳がないとできないんだろうな。

「僕は全軍を指揮して道を開く。まっすぐ進んでくれれば大丈夫だよ」

「すまない」

「これくらいお安い御用さ。さあ、早くセシリア君を助けるんだ」

「ああ」

 シオンを乗せたジョセフは俺とロードから離れ、空高く舞う。

 それが合図だったのだろうか、後ろから轟音が聞こえる。地上のモンスター達が大地を走る音だ。

 地上をうごめく帝国兵達の黒い影は、真っ二つに分かれていく。その裂け目にどんどんモンスター達が入り込んで、さらに大きく裂けていく。

 空飛ぶモンスター達は、帝国の空中戦艦や航空機に攻撃を仕掛ける。次々と撃墜していき、

 シオンが率いるモンスター達のおかげで、城に向かって敵のいない空間ができた。これなら地上からも空からも攻撃されないだろう。

「いくぞ、レオンハルト」

「頼む」

 ロードは一気に加速した。空を切り裂き、周りの景色が見えない程の速さで飛ぶ。

 あっという間に城の上空にたどりついた。

「レオンハルトよ、セシリアはどこにいるかわかるか?」

「可能性としてはあり得るのは、やはり牢屋だと思う」

「それはどこにある?」

「あの辺りだ」

 過去に俺が入った牢屋がある場所を指差してロードに伝えると、

「了解だ。しっかりつかまっていろ」

 一瞬にして滑空し、直後に衝撃音と岩が崩れるような音が聞こえた。

 そこにはセシリアがいた。檻の前に立っているところを見る限り、ロードは建物の壁を破壊して牢屋に侵入したようだ。

「セシリア、ダイナミックに助けに来たぞ」

「あなた達、私を殺す気?」

 セシリアは最初こそ驚いた表情だったものの、俺達の顔を見るや否や微笑んでいるように見えた。

「すまない。主人公たる者、勢いが大事だからな」

「そういうものかしら? あれ、あなたは確か最初の町のダンジョンにいた……」

「ロードだ」

 ロードは自分の名前をはっきりと答えた。

「そう……、あなたにもちゃんと名前があったのね」

「長いこと忘れていたがな。それにしてもまさかお主が帝国と敵対しているとは驚きだ。町でレオンハルトに稽古をつけている時から不思議だったが……」

「私もレオを見習おうと思ってね。今はセシリアよ」

「セシリアか……。良い名だ」

「盛り上がっているところ悪いんだが、そろそろ皇帝のところに行かないと」

 俺が2人の会話に割って入ると、

「ちょっと待って。武器を取り返してくるわ」

 セシリアは檻を蹴り破り、奥に行き剣を腰につけて戻ってきた。

「レオンハルト、我々がセシリアを助けに来た意味はあったのか?」

 ロードが俺の耳元で囁いた。

「それ、俺も今思った。なんなら前に檻を蹴破って俺のことを助けに来てくれたんだよな。彼女に牢屋という概念は通用しないかもしれない」

「あなた達ボソボソ話してどうしたのよ? 急いでいるんじゃないの?」

「あ、ああ、早く行こうか」

 セシリアによると、皇帝は城の頂上にいるとのこと。

 ロードは俺とセシリアと乗せた状態で飛び始め、

「振り落とされないようにな」

 と言い、皇帝がいると思われる場所に向かって高速で激突した。

 もしかして、ロードは飛ぶのが苦手なのか?

 その真偽はわからないが、おかげさまで壁を破壊して城内に侵入することができた。

 音を聞きつけ、帝国兵と、セシリアの元パーティーメンバーの3人が現れた。

「この先には行かせんぞ!」

 あの大柄の男だ。その横には杖デカ男がいる。杖はもはや大きくなりすぎて、ほとんど丸太に近かった。

 キョロキョロマンはキョロキョロしすぎて後ろを見ている。それ以外は特に変化なし。

「レオ、ここは私に任せて」

 セシリアの声のトーンは低く、その眼差しは力強かった。

「負けっぱなしは悔しいから」

 そう言って、セシリアは腰につけていた剣を投げ捨て、握り拳を片方の手で覆って骨をポキポキ鳴らした。剣士とは思えない仕草だ。しかし、これが彼女の本当の姿なのだろう。

 これは止めたら逆に俺が殴られそうだな。

「私にも戦わせてくれ。彼らには借りがあるんでな」

「借り?」

「かつて私はセシリア含めここにいる4人に捕らえられたのだ」

「え? じゃあセシリアとロードも因縁の相手ってこと? おいおい、ここでは協力してくれよ?」

「無論だ。もう彼女は帝国の人間ではない。彼女はセシリア。主人公だ」

「あら、過去のことは水に流してくれるのね?」

 セシリアは微笑を浮かべながらロードに言う。

「ああ。私は器が大きいからな。ただでさえ出番が少ないゆえ、ここでアピールをして少しでもファンを増やしたい」

 は? 一体何のことだ?

 よくわからんが、ロードもまたセシリア同様スイッチが入ってしまったようで、もう俺には止められそうにない。

 俺はセシリアとロードにこの場を任せて先に進むことに決めた。

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