第14話「その名はロード」
亡霊のように、俺はふらふらと一人で歩き続けた。
そして到着したのは何度も何度も挑戦した最初のダンジョンだった。
皮肉なもんだ。
ここを旅立った時はまだ主人公気分でのんきなものだった。あの時諦めておくべきだった。
それなら、こんな思いにはならず、落武者として戻ってくることもなかった。
ドラゴンのいる地下1階に向かう。
そこには相変わらずドラゴンがいた。懐かしい。
俺に気がつくと体を起き出し、その大きな体で包み込むように俺と向き合った。
「お主は……レオンハルトか。ずいぶんと久しぶりだな」
「戻ってきてしまったよ」
「お主……、ここを出た時よりも弱くなっているように見えるのは気のせいか?」
「いや、あんたの言う通りさ」
沈黙が流れる。その後、ドラゴンが鼻を鳴らし、ダンジョン内が震えた。
「情けないな」
「もう、いいだろ」
その言葉に反応したのか、ドラゴンはますます鼻息が荒くなり、ついに咆哮を上げた。
「そうだな、お主の言う通り、もういいだろう。私が直々に本気で殺してやる」
そして俺は例の如く左半身に衝撃を感じ、宙を待った。
気がつくと俺は医務室のベッドで寝ていた。
ナースは……いない。そうだ、もはや俺を看る必要なんかない。
体は自然とダンジョンに向かっていった。
そしてまた地下1階のドラゴンの前に立つ。
「お主を殺し切るまでいくらでも相手をしてやろう」
怒りが収まらないドラゴンの一撃を喰らい俺はまたもや医務室へ。
もうやめればいいのに、俺は不思議と再びダンジョンに向かう。
「世界を旅して、いろいろなものを見てきたはずだ。それがその程度か?」
「もういいんだ。俺は主人公じゃない」
飛ばされる。医務室で目覚める。ダンジョンに入る。
「骨の髄まで腐り切ってしまったか?」
繰り返す。何度も繰り返す。
「本当のお主を私に見せてみろ」
医務室に着いてそこでやめるという選択肢もあるはずなのに、俺はなぜかまたドラゴンの前にいる。
どうして俺は何度も立ち上がるんだ。なぜ負けるとわかっていて挑戦するんだ。もう主人公じゃないのに、体が勝手に。
そこで、視界が滲んでいることに気がついた。
俺が泣いている。
そうか。頭より、体の奥底で抵抗しているんだな。
罪悪感だろうが何だろうが、俺は主人公になりたい。主人公じゃない人生が嫌い嫌いでたまらなかったんだ。
だから、どんなに辛くても、悪口を言われても、一人になっても、勝てる気がしなくても、自分には主人公が向いていないとわかっていても、何度でも挑戦してしまうんだ。
窮屈な世界が嫌だったから。まだ見ぬ世界を見たかったから。そしてそんな世界に関わりたかったから。あわよくばそういう世界を創りたかったんだ。
これが俺だ。変えられない俺だ。この生き方しか俺にはない。
「申し訳ない。迷惑をかけてしまった。あんたのおかげでようやくわかったよ」
「なら、それを証明したまえ」
左半身に向けてドラゴンの右手が動く。とてもゆっくりと動いているように見えた。この程度なら簡単に避けることができる。
次は、左手が右半身を狙う。これも同じことの繰り返しにすぎない。余裕だ。
それから火を吹く。これは腹の下に潜り込めばなんてことはない。
そして一瞬飛んで尻尾で叩きつけ。これもあっさり回避だ。
もう終わらせようか。このあまりにも長いループを。
「参った」
俺はドラゴンの頭上に乗り、剣を首元に向けた。
「お主、私を殺さないのか?」
「殺すわけないだろ、ロード」
ロードの頭から飛び降りた俺はその顔を見た。人間以外の表情を読み取るのはいまいち難しいが、おそらく彼は喜んでいるようだった。
「それが私の名か」
「そうだ。あんたの壁画が残っていて、それで名前がわかったんだ」
「なるほど。ああ、記憶が流れ込んでくる。これが私であったな」
「さて、ロード。余韻に浸っているところ悪いが、早速一つ願いを聞いてもらいたい」
「お主を立ち直らせるのにも苦労したのに、その直後に頼みとは人使いが荒いな」
「まあいいじゃない。ドラゴンなんだから」
ふん、と鼻を鳴らすロード。ただ今回は怒っているわけではなさそうだ。
「これから帝国の城に向かいたいんだ。できるか?」
「そのくらいお安い御用だ」
「よし! そうと決まれば今すぐ出発だ! 遅れを取り戻すぞ!」
と言ったものの、俺はロードをこのダンジョンから出す術を知らなかった。しかし、ロードにはそれは全く問題ではなかったようだ。
「こんな底の浅いダンジョン、私の力なら容易く脱出可能だ」
そう言ってロードは天井に向かって高速で飛び始めた。その直後、大きな地響きが聞こえたと思ったら、ダンジョンから空が見えていた。
「荒すぎるだろ……」
「ほら行くぞ、レオンハルト」
俺はロードの背に乗った。意外と座り心地が良い。
「主人公レオンハルト復活を祝して、皇帝に直談判だ!」
俺を乗せたロードは空高く飛び立ち、帝国の本拠地へと向かった。
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