第11話「帝国兵がはびこる町」

 シオンと別れてから、俺はまた道なりに進んでいた。遠くに町が見えてきた。それはこれまでの村よりも大きく、なかなか発展しているように見えた。

 町の中に入るとそこかしこに帝国兵がいた。

 人が多い割に随分とひっそりとした町で、皆萎縮しているのか、声を押し殺している気がした。

「おい! おとなしくしろ!」

 どこからともなく男性の大きな声が聞こえる。声のする方へ向かっていくと、一人の男性が複数の帝国兵に取り押さえられていた。

 地面にうつ伏せにさせられた男性はもがいていたが、やがて抵抗することが無駄だとわかったのか、帝国兵に従って町の外に連れて行かれていった。

 その様子を黙って見ている少年がいた。悲しそうだが、怒っているようにも見えた。

「少年、大丈夫か?」

 俺は気になって話しかけてみたが、少年は顔も合わせず、

「バカだ」

 と、言い放って町の暗い路地の方へ走っていった。

 ここのところ歩きっぱなしだったので、俺は宿屋で休むことにした。

「すみません、空きはありますか?」

「お一人様ですか?」

「はい」

 どうやら泊まれるようだった。それにしても宿屋に提示された金額が破格の安さで驚いた。

 ブヨブヨかガイコツが落とすお金で100回くらい宿に泊まれるぞ。あいつらモンスターの割に金持ちすぎじゃない? まあでも帝国に雇われているようなものだし、そう考えると結構給料がいいのかもしれない。


 翌朝、宿屋を後にすると、町で昨日の少年に出会った。

「やあ、少年。昨日は災難だったな」

「僕に何か用?」

 無表情でぶっきらぼうに答える少年。

「用って言うほどでもないけどさ、昨日のことが気になってな」

 それには何も答えない。

「少年、名前はなんて言うんだ?」

 少し間が空いて、

「言わない」

 と一言だけ。そしてまた沈黙。

「昨日帝国兵に連れて行かれたのは少年のお父さんか?」

「そうだよ」

 少年は顔を合わせないまま語り出す。

「父さんはバカだよ。勝てもしない帝国に刃向かって、連行されて……。おとなしくしていればいいのに」

「少年は勘違いをしているな」

 その言葉に反応し、少年は眉をひそめて俺をじっと見た。

「重要なのは勝ち負けじゃない。かっこいいか、かっこよくないか、だ」

「何を言ってるんだよ。負けたらかっこ悪いじゃないか」

「そんなことはない。負けてもかっこいい時はかっこいいんだ」

「何それ、大人なんだからもっとまともなこと言ってよ」

 呆れたように俺から目線を逸らす少年は、そのまま遠くのどこかを見ていた。

 その時、目の前の屋台で商品を手に取り、お金を払わず持ち去る帝国兵が店主と揉めていた。

「すみません、お代を……」

「何か問題でもあるのか?」

「い、いえ! どうぞお持ちください」

 黙って帝国兵が立ち去ろうとするが、俺はそれを見逃さなかった。

「おい、あんた。ちゃんとお金は払うべきだろう」

 俺の言葉でぴたりと足を止める帝国兵。

「なんだ貴様は?」

「それとも、お金がないのか? だったら、最初のダンジョンに行った方がいいかもな。あんたより金持ちのモンスターがいっぱいいるからさ」

「私を愚弄するとは良い度胸だ。相手をしてやろう」

 そう言って帝国兵は剣を引き抜き、襲いかかってきた。

 素手で十分だ。

 剣を避けつつ、帝国兵の向かっている勢いを利用しながら、顔面にグーパンを叩き込んだ。

 一発ノックアウト。

 騒ぎを聞きつけ、大量の帝国兵が集まってきた。

「あんなの日常茶飯事なんだから無視していればいいのに余計なことをするから!」

 と少年が声を張る。

「安心しろ、少年は逃してやるから」

 俺は少年にそう言って笑ってみせた。少年の表情は緊張と焦りで硬直していた。

 帝国兵達が俺を包囲しようとする中、俺は少年に尋ねた。

「ところで少年。父さんの名前はなんだ?」

「え? なんで今……」

「いいから」

 少年は腰のあたりで拳を握り締め、

「ダン……、父さんの名前はダン!」

 と力強く答えた。

「良い名前だ! 主人公にふさわしい!」

 俺はすぐさま剣を引き抜き、帝国兵達に向かって名乗りを上げた。

「俺の名はダン! 自分の信念のために戦う!」

 帝国兵達は剣を構えつつも少し後ずさりした。

「どうだ? 乗り移っているように見えたか?」

 背後にいた少年にそう語りかける。彼の表情は確認できなかった。

「まあ、ここからは俺オリジナルの戦い方になるけどな!」

 敵に剣を投げて、その隙に近寄ってブン殴る。まず一人目。

 横から剣が振り下ろされるが、これもかわし即座にタックル。

 背後から襲ってきた帝国兵の勢いをそのまま利用し、背中ですくい上げて投げ飛ばす。

 しかし、調子が良かったのもそこまで。直後に背中に急激な重みを感じ、地面に押し付けられた。帝国兵が俺にのしかかる形となり、俺は身動きが取れなくなった。

 その時、横目で少年の逃げていく姿が確認でき、俺はひとまず安心した。


 帝国兵に連れられ、俺は帝国の城の牢屋に入ることとなった。

 石が積み上げられてできた牢屋は薄暗く、外からの光はほとんど差し込んでいなかった。やたらジメジメしており、まるでダンジョンの中にいるみたいだ。

 牢屋の中はそれほど広くはないものの、その暗さから牢屋の中の壁まではよく見えなかった。

 少し牢屋の中で歩いてみる。すると、牢屋の隅に誰かがいるのがわかった。

 壁に寄りかかりながら、うつむいて座り込む男性。彼はもしや──

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