第3話「お金で解決!?」
相変わらずドラゴンにしばかれ倒されて医務室で寝ている時のこと。職務放棄していると思っていたナースが話しかけてきた。
「あの、装備って揃えてます?」
晴天の霹靂だった。
そうだ、装備が悪いんだ。どうして今まで気づかなかったんだ。気づかないことばかりだけど、そのおかげで毎日が発見ばかりで人生が最高に楽しい。
「あれ? あんなにブヨブヨとガイコツを倒したはずなのにお金が全然ないですね」
俺の財布はぺしゃんこだったのだ。
「そりゃそうですよ。医療費がかかっているんですから」
「え? そうなんですか」
「当たり前じゃないですか。タダなわけありません」
淡々と無表情で答えるナース。お金を払っているのなら、ちょいちょい職務放棄するのは良くないような気がするが、それを本人に言うと二度と看病してくれなさそうなので飲み込んだ。
ひとまずダンジョンでブヨブヨとガイコツを倒してお金を稼いできた。
この町の商人に話を聞いたところ、武器は銅の剣、青銅の剣、鉄の剣の順に、防具は旅人の服、皮の鎧、鉄の鎧の順に高くなるとのこと。
「どれを買うか迷いますね」
「そうですね。人によっては最初のダンジョンでは装備を買わない人もいらっしゃいますが、銅の剣、旅人の服くらいはあった方が安心かと思います」
「それなら銅の剣と旅人の服をください」
「ここで装備していきますか?」
「はい、もちろんです!」
よし。これでドラゴン討伐も間違いなしだ。
早速ダンジョンの最深部(地下1階)に向かう。いつも通りドラゴンが待っていた。
「ドラゴンよ、今回の俺は一味違うぞ! ほら、見たまえ! この鈍く光る銅の剣を!」
そして、俺は銅の剣を抜いて掲げた。しかし、ダンジョンの中は暗く、銅の剣はよく見えなかった。
「い、いや、地上では日光に照らされて光っていたんだ! 俺は悪くない! ここの環境が悪い! こんな穴ぐらにいるお前が悪い!」
ドラゴンの怒りに触れたのか、左半身に痛みが走ったと思ったら、医務室で寝ていた。
実はドラゴンには言葉が通じるのだろうか? これまでずっとドラゴンに話しかけてきたが、あれは道端の猫に話しかけるくらいの本気度で、まさか本当に通じるとは思っていなかった。あ、この世界にも猫はいますよ。
そんなことは今どうでもいい。こんな装備じゃダメだ。この町で一番高い武器と防具を手に入れるぞ。
それから、またダンジョンにこもりブヨブヨとガイコツを狩りまくりお金を稼いだ。というかこいつらはどこからお金を持ってきているんだ?
俺はまたもや商人の元へ行き、鉄の剣と鉄の鎧を購入した。
「いやはや、最初こそどうなることかと思いましたが、順調そうですな」
ニコニコと手を揉みながら商人はそう言った。
「え? どういうことですか?」
「鉄の剣、鉄の鎧を購入するほどですから、てっきりそれなりにダンジョンを制覇されているのかと」
「あ、ああ……、そういうことですか。まあ、ぼちぼちですよ」
進行具合についてぼちぼちなんて言う主人公がこれまでにいただろうか。
「頑張ってくださいね」
笑顔で見送られる先が最初のダンジョンだとは思うまい。
恥ずかしすぎるが、これでドラゴンともおさらばだ。なぜなら、俺は鉄の剣に鉄の鎧、しかもレベル104(実質レベル1未満)だからだ。
字面だけで言ったら最初のダンジョンにはオーバースペックすぎるだろう。
俺は自信満々でダンジョンの最深部(地下1階)に向かった。
「頼もう!」
元気よく叫んだものの、もはやドラゴンは呆れてあくびをしている。
なめやがって……!
「そんな余裕かましていられるのも今のうちだけだぞ! このオーバースペックレオンハルトの力、思い知れ!」
鉄の剣を抜きドラゴンへ走る。鉄の鎧が思ったよりも重く、ほぼ歩いているに等しい気もしたが、ここはかっこよさ重視のため走っていることにする。
「もらったぁぁぁ!!!」
ドラゴンの首元に思い切り鉄の剣を叩きつけた。
確実にいったと思った。これで俺もこのドラゴンから解放される。
良い宿敵だったぞ、さらば。
と思いきや、鉄の剣が砕け散った。
「はぁ! なんだよこれ! 高かったんだぞ!」
ドラゴンと目が合う。
「また来ます」
例の如く左半身に鋭い痛みを感じた後、体がふわっと浮いたような心地がして俺は気を失った。
いつもの天井。いつもの医務室。今回はナースもいるみたいだ。
「こちらどうします? 処分しますか?」
そこにはボロボロになった鉄の剣と鉄の鎧。高かったのに……。
「いえ、もったいないので持っていきます」
ナースはボロボロの剣と鎧をじっと見て、
「そうですか、わかりました」
と答えた。たぶん、「え? こんなの持っていくの?」と思ったはずだ。
壊れてしまったものは仕方ない。元は鉄だから少しは足しになるかもしれない。
俺は商人の元へ行った。
「すみません、鉄の剣、鉄の鎧よりももっと良い装備はないんですか?」
「この町だと鉄の剣と鉄の鎧が最上級装備です。より上の装備が必要な場合は別の町に行かないと購入できないですね」
なるほど、次の町に行って武器と防具を揃えて戻ってくればいいのか。
「失礼ですが、お客様。先日購入した鉄の剣と鉄の鎧はどうされたのでしょうか?」
「それが……」
使い物にならなくなった鉄の剣と鉄の鎧を見せる。
「少々お借りしてもよろしいでしょうか? これほど早く壊れるのは不良品の可能性もありますので」
商人は確認したが、どこもおかしなところはなかったようだ。
「申し訳ありませんが、お客様。こちら不良品ではございませんでした」
商人の言葉が傷をえぐる。
「ですよね……。なんとなくわかっていました」
「どんな装備もその方が使いこなせないとこういった形で壊れてしまいますので、ひとまずは銅の剣や旅人の服がよろしいかと思います」
さらに商人の言葉が傷をえぐる。まあでも、壊したのが世界に一つしかない勇者の剣でなくてよかったとポジティブに考えよう。
ちなみに、壊れた剣と鎧は商人が格安ではあったが買い取ってくれた。
さてと。商人は使いこなせないと武器が壊れると言っていたが、現状他に考えられる策もないし、一縷の望みにかけて次の町に行ってみるか。
町を出ると早速モンスターが出てきた。
お、こいつはブヨブヨの色違いじゃないか。妙に親近感が湧く。
実はドラゴンは後回しにして次の町に行くのが正解だったのかもしれない。
とりあえず、サクッと倒してガンガン進もう。そう思っていたが、ブヨブヨの突進でやられてしまった。
医務室で目が覚めるとナースが怒りながら近寄ってきた。
「最初のチュートリアル的なダンジョンもクリアできないのに、町の外に出たってやられるに決まっているじゃないですか」
「おっしゃる通りです……」
こうして、装備でゴリ押しという選択肢もなくなった。
徐々に追い詰められる主人公レオンハルト。彼はドラゴンを倒して、次のダンジョンを目指し……、えー、それから、何だろう、何があるんだろう。未知の領域すぎてこの先はわからない。
でもわからないからこそ楽しいんじゃないか。まだ見ぬ未来を、俺は手にいれる!
「そこ! ブツブツうるさいですよ」
またもやナースに怒られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます