ボボ某ボ・婆ババ【KAC2023/筋肉】

湖ノ上茶屋(コノウエサヤ)

第1話




「某ボボのようになりたいんです」


 ジムのフロント業務をそこそこ長いことやっているが、こんな人が来たのは初めてだ。

 某ボボになりたいってアンタ、ボンボンボンな婆ババじゃないか。某ボボになんて……。

 おっと、心の声が漏れ出しそうだった。危ない、危ない。

「承知しました。でしたら、オススメのコースは――」

「某ボボになれるコースならなんでもいいです」

「え、ええと……。パーソナルコース、がよろしいかと思いますが、い、いかがでしょうか」

「じゃあ、それで」

 パーソナルスペースガン無視の距離感にひよる。

 プルプルと指を震わせながら書類とペンを差し出すと、婆ババはさらさらと文字を書き出した。

 ヘンテコなことを言い出すものだから、ヘンテコな字を書くかと思った。しかし、走る黒は惚れてしまうほど美しかった。心の中でパッチパッチと手を叩かずにはいられない。

「書けましたよ。これでいいですか?」

「えっと……はい。大丈夫です」


 婆ババは毎度真面目にやってきて、ストイックに体を鍛えた。

 ボンボンボンだった体は、どんどん引き締まっていく。

 ある日、婆ババが腹だしウェアを着ていたので、どんな腹なのか気になってちらりと見た。某ボボのように割れていて驚いた。

 あとは肩と腕が問題か?

 まあ、バブリーな服でも着ればそれっぽくなるだろう。婆ババ、世代だから持っていそうだし。


 某ボボになる日が近そうだ。


 10月31日。

 婆ババが某ボボの格好でジムに来た。

 なるほど、このために鍛えたのか。そんなに憧れていたのか。

 某ボボ、嬉し泣きしそうだな。

「仮装、とてもお似合いです。某ボボにしか見えません。素敵ですよ」

「うーん。そうなんだけどね」

「どうなさいました?」

「いやあ、鼻毛を鍛えられなかったの、不満なのよね」

「は、はぁ」

「仕方ないから自力でやるわ。奥義使えるようになったら、見せてあげるわね」


 無理だと思うけど――見たい。

 

 


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