第1話 有隣堂異世界店の一日
ある日突然、関内駅の地下街が異世界とつながった。
エルフや獣人のような異世界の住人たちが横浜に訪れる傍ら、我々も異世界を訪問することが可能になった。
お互いの世界を行き来するうちに、それぞれの訪問者向けのガイドブックが作られるようになった。
当然、ガイドブックを扱う書店も地下街にある。そう、その書店こそが有隣堂異世界店である。
有隣堂異世界店は地球人だけではなく、横浜を観光する異世界人も多く立ち寄るようになった。ただし、異世界人が立ち入れるのは関の内側のみ、いわゆる関内だけである。
穏やかな4月の日曜日、この日は異世界も祝日らしく、普段よりも多くの異世界人が関内を訪問していた。そんな有隣堂異世界店は、店長の佐藤さんとミミズクの鳥人ブッコロー主任、アルバイト学生の田無君の三人が勤務していた。
田無君は日本人だが横浜市立大学の異世界言語学科に在籍しており、異世界語をそこそこ喋れるため、ここ異世界店では大変重宝されていた。
「ブッコロー主任、今日は関内美味いものガイドが朝から10冊以上売れてますよ。」
「本当ホゥ、午後には品切れになりそうだホゥ、本店から在庫を回してもらうかホゥ。」
「佐藤店長、本店に依頼をかけてもらっていいかホゥ。」
「ok♪、ブッコロー主任、本店に連絡するから、今のうちに取りに行ってもらってもいいかい?」
「了解ホゥ」バサバサ、店を出て本店に向かって飛んでいくブッコロー主任。
「お疲れ様です。異世界店の佐藤ですが、ガイドブック担当につないでもらえますか?」
「お疲れ様です。先日はありがとうございます。また、試合を見に行きましょう。」
「今日はプロレスの件じゃなくて、ウチの店の関内美味いものガイドが切れそうなんです、でそちらから何冊か回してもらえないかなと思って?」
「そう、20冊くらいあると嬉しいんだけど、今ウチのブッコロー主任をそっちへ向かわせているから、持たせてもらえるかな?」
「了解ー。助かるわ。」
「田無君、今20冊手配したから、届いたらそのまま平積みにしておいて。」
「ついでに他のガイドブックももらえたから、そっちは棚出しかな?5冊以上なら面陳よろしくね」
・・・
「今、帰ったホゥ。こっちが関内美味いものガイドで、こっちが異世界の歩き方ホゥ」
「これ最新版じゃないですか、僕も1冊買おうかな?」
「じゃあ、お取り置きホゥね」
「店長、そういえば、異世界プロレスが横浜でも興行するって本当ですか?」
「田無君も情報が早いね。5月連休に横浜武道館でやるからね。知り合いから融通してもらえるから、チケットが必要なら声かけてね。」
ちょうどその時、美味いものガイドを持ったエルフのお客様が一人、レジに来た。
「「いらっしゃいませ!!」」(異世界語)
有隣堂SF @jalopy
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