一年目 ナツ-2-


「ついたな!」

「……うん、着いたね」

 二人が目的地の街に到着したのは、日暮れ頃。着いた瞬間に二人で喜びを分かち合うように、互いの顔を見て笑いあった。

 街の入り口にある大きな花のアーチを見上げると、『ようこそ、サンガーデンへ!』と看板に書かれていた。

 しっかりと手入れも行き届いており、色さえ失われていなければ来訪者を歓迎する最高のもてなしとなったことだろう。

「色があればすげー綺麗なんだろうな。これ」

「……そうだね」

「って、いけね。夜になる前に宿屋探さないとだよな」

「……うん」

「さ、行こうぜ!」

 

 街には二人にとって見たことの無い建物、人家や店。

 色が失われていても最も目立っているのは、遠目からでも見えるあまりにも大きな円錐状の花壇だ。

「すっげー花壇だなぁ! あんなに花が集まってるの初めて見た!」

「……そうだね、びっくり。思ってたよりもずっと大きいね」

「それにいい香りがするな! これが花の香りってやつか」

「うん。森で感じる花の香りよりも、ずっといい香りだね」

「来てよかったな」

「うん、そう思う」

 二人は宿を取るために街の中を歩く。


「人ってこんなにいるものなんだな、俺知らなかったな。といっても俺、記憶ないけど」

「……そうだね。私は……ちゃんとは覚えてないけど、似たような景色をどこかで見たような……見たことがないような、不思議な感じ」

「そっか。まぁ、これからたくさんのものを見ていくだろうし慣れるだろ、多分」

「……それもそうだね」

 夕暮れ時のせいかすれ違う人はみな脚早だ。家に帰ろうとしているのだろう。

 買い物袋を抱える人、店のシャッターを降ろしている人もいる。数人の子供達が別れ、散り散りになって帰路に帰る様子も見えた。

 街の人々には、老若男女関係なく花の装飾物が身につけられていた。


 街の忙しない様子を見ながら、大通りまでやってきた二人は声をかけられそうな人を探す。

 買い物袋を抱えた女性に、マヒロが声をかける。

「あの、すみません。ちょっといいですか?」

「あら、何かしら?」

「宿をさがしてるんです。この街のどこにありますか?」

「ああ、それならスイートピーっていう宿がこの先にあるわよ」

 女性は、宿のある方向を示して簡単な道筋を二人に伝えてくれる。

「分かりました。教えてくれてありがとうございます」

「……ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして。それじゃあ、私行くわね」

 二人は女性にお礼を言うと、女性はにこやかに返事を返して歩いて行った。

(……綺麗で優しそうな人だったな。いいな、あんなふうになってみたいな。……無理だけど)

 ミヨは、女性の背中が見えなくなるまで見つめていた。


「よし、行くか」

「うん」

 二人は、教えられた宿へと歩き出す。街の作りは複雑では無かったため、すぐに宿が見えた。

 2階建ての大きな建物、看板には『スイートピー』と書かれている。

 入り口や窓台には鉢植えの花が置かれ、扉にも花のリースが飾られている。

「花だらけだな、やっぱり」

「うん、……花の街ならではなんだろうね」

「とりあえず部屋借りて飯食おう。腹減った」

「……私もお腹減った」

 宿の扉を開くとチリンと鈴音が響いた。二人は、宿へと入って行った。


「いらっしゃい」

 すぐに二人は声をかけられる。声の方に目を向けると、穏やかなに微笑む恰幅のいい女性がいた。

「あの、泊まりたいんですけどいいですか?」

「ああ、部屋は空いてるよ。二人と、あと1匹ね。」

「……お願い、します」

 マヒロは物怖じせずに話す一方、ミヨは黒猫を不安そうに抱え、マヒロの後ろに隠れるように立っていた。

 女性は人数を確かめるように顔を動かし、カウンターの宿帳を、開いてペンを置いた。

「一部屋で良いのかい? 二部屋必要かい?」

「あ、そうか。二部屋でおねがいします」

「はいよ」

「名前ね、全員分の名前を書いておくれ。猫ちゃんは書かなくても大丈夫だよ」

「ミヨ、頼むわ」

「うん」

 マヒロは、読み書きが苦手なのでミヨに頼み、ミヨはこくりと頷いて前に出る。黒猫はミヨの肩に乗りニャオンと鳴いた。

 宿帳に名前を書きペンを置くと、女性は書かれた名前を確認し、宿帳をカウンターの端に戻した。

「ミヨさんに、マヒロさんだね。うちでご飯も用意できるけど、外で食べるかい?」

「……マヒロ、どうする?」

「せっかくだし、ここで食べようぜ」

「……分かった。……あの、ご飯お、お願いします……」

「はいよ。食堂は一階の奥にあるよ。準備が必要だから少し時間を置いて来ておくれ」

「はい、ありがとうございます。楽しみにしてます!」

「……ありがとう、ございます」

「猫ちゃんのも作っておくから、一緒に連れておいでね」

「……はい。助かります」

 ミヨは小さく頭を下げて感謝した。黒猫も嬉しそうにうにゃあと鳴いた。それから鍵を女性から手渡され二人は部屋へと向かった。


「いいとこでよかったな!」

「……うん、優しそうな人だったね」

「そういや、ベッドで寝るなんていつぶりだろうな」

「……ずっと野営してたからね。眠れるかな……心配になってきた」

「俺も寝れるかドキドキしてきた。……っと、着いたな。俺がこっちでミヨがそっちな。着替えと荷物整理したら、ミヨの部屋の方行くからな」

「分かった」

「じゃ、また後でな」

「……うん、また後で」

 二人はそれぞれの部屋の前で約束をすると、軽く手を上げ挨拶し、お互いの部屋に入って行った。



『これからも色んな初めてを私は見て、聞いて、感じていく。それは、不安で怖いけど大丈夫って思える、理由はわからないけれど』

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