第11話 神の遣い






神玉に触れた瞬間、辺り一面を光が包み込み、メイド達から悲鳴が上がる。


光が収まると、何が起こったのか把握しきれておらず、困惑する皇帝達と真っ青な顔をした神官長が呆然としていた。



本来、神玉に触れただけで光が発することはない。

なぜ、光を発したのかは、神玉に表れている結果を見れば直ぐに分かるだろう。






「ば、ば、ばかな・・・、そんな・・・」




神官長は震える声で呟くと、神玉の前に立つ私に視線を向けた。





「ま、誠に、申し訳ありませんでした。どうか、どうか命だけはご容赦下さい」




神官長は額を頭に着け、土下座をする。






「ご容赦か・・・。君に家族はいるか?」



「あ、あ、あ・・・、か、家族はどうか、悪いのは私自身ですので。何卒、何卒、恩赦を」



「ふむ。ならば、これからのお前と家族の態度で決めさせてもらう。仮にも神に仕える神官長があのような横柄な態度でいられては私も困るからな」



「は、はいぃぃぃ!!態度を改め、命を懸け、神官業務に精進いたします」





神官長の態度に、私以外の人は呆気に取られ、口を開けたまま固まっている。



私は今の状況を説明するためにも、神官長に神玉で見たものを言うように促した。

神官長はそれはそれは見事な、お手本となるような返事をしてから説明を始めた。



殺気を帯びた目で睨まれたとはいえ、神官長の豹変に少しやり過ぎたかなと、反省した。






「私が神玉で見たものは、こちらにいらっしゃる目見麗しいアルネミナ・ドゥーエ・サラビア様が、【神の遣い】だというこです」



「な、何と!!【神の遣い】だと!!」





皇帝、皇妃、父上、母上、宰相、メイドがその場に跪いた。



この世界では、数百年に一度【神の遣い】が現れると、史実として伝えられている。


【神の遣い】は国の危殆に瀕した場合に現れ、神からのお告げを伝える役割を担い、多くの民が救われてきた。



聖魔法で稀な回復魔法を使えるからと、あくまで総称として呼ばれる『聖女』とは訳が違う。






「顔を上げて下さい。先だって話した通り、私はここにいるエドゥアールとローズの娘であり、アルネミナです。確かに【神の遣い】として使命はありますが、普通に接して下さい」



「そうだな。そうさせてもらうよ」



「はい。父上と母上も、今まで通りで。少し性格は変わりましたが、あなた達の娘、アルネミナが【神の遣い】に選ばれたのだと、そう思って下さい」



「ああ、分かっている。何があっても、お前は私の自慢の娘だ」



「少しお利口さんになりましたね」






父上と母上にも思うことはあるだろうが、今の2人の表情を見る限り、現実として受け入れてくれたようだ。


全てのことを話すにはあまりに酷だろうし、私自身、2人を本当の両親と思っているのたがらこの位の説明でいいだろう。






「それで、先程のお願いは神の意志とも関係していると思っていいんだね?」



「はい。今は全てを話せる時ではありませんが、そう思って下さい」



「分かった。ならば、迷うことはない。願いを叶えよう」



「ありがとうございます」





一区切りついたこのタイミングに、メイド達はすかさず紅茶のお代わりを淹れ始める。

場に呑まれることなく、自分の仕事に徹する所は流石にプロだ。





「それにしても、こんなに大事な話をメイドに聞かせてもよかったのかな?」



「大丈夫ですよ。ここにいるメイド達とは、1度、食事の席を共にして心を通わせていますので」



「ほう、いつの間に・・・。そういえば、この部屋に入って来た時に良い匂いがしたな」



「そうですわ。甘い匂いもして、私も気になっていたのです」




メイド達は上を見たり、横を見たりしながら誤魔化している。


私は【空間収納】から『苺のタルト』と『苺のミルフィーユ』を人数分取り出して配った。






「まあまあ、今まで食べたどんなお菓子より美味しいですわ」



「我が家で、これが毎日食べれるのね」




皇妃様と母上には大評判で、お代わりも出した。





「私にもお代わりを貰えるかな。今日は何だか疲れたから糖分を欲しているし、何より、4つ目のお願いをまだ聞いてないからね」




皇帝は空になったお皿にお代わりを要求すると、覚悟を決めたように最後のお願いを聞いてくる。


そう、私が要求したお願いは全部で4つであり、まだ3つしか言っていないのだ。





「最後のお願いは、帝国騎士学院に在籍させていただきたいのです」



「そ、それは可能だが、最後のお願いとしては少し拍子抜けだな」



「アルネ、その願いを口にしたと言うことは、王立高等学院には通わないのだな」



「はい」





帝国騎士学院は、王立高等学院と同じで13歳から15歳まで通う学院だ。

勉学や貴族作法、魔法など幅広い範囲を薄く学ぶのが王立高等学院で、騎士を育成するための剣術や貴族作法に特化しているのが帝国騎士学院となる。



とはいえ、前世で剣術を極めた私が今更学院で得るものはない。


そのため、目的は通うことではなく、あくまで在籍していた実績が欲しいのだ。





「お願いしといて申し訳ないのですが、私は騎士学院に通うことはしません。あくまで在籍したいのです」



「ふむ。真意は分からんが、卒業はどうするのだ?」



「帝国に赴き、魔物を討伐して実績を出します」



「なるほどな。帝国としてこれ以上ない素晴らしい申し出だ」





帝国は実力主義の文化だ。

学院に在籍中に武勲を上げれば卒業資格は間違いなく得られる。





「だが、良いのか?帝国は確かに助かるが、王国には大きな被害が出るのではないか?」



「心配ありませんよ。民への被害はありませんし」



「ん?どういうことだ?」






私は神のマリーから聞いた一部の話をした。

【神の遣い】の言葉としても、内容的にはあまりにも信じられないもので、流石に重苦しい沈黙が流れた。


結局、辺境に戻り次第、その証拠を見せるということでこの話は終わった。






そして、母上であるローズからこの日、最後の質問がされた。





「王立高等学院に通わないということは、きっと、あなたの婚約者のエメルソン王子に関係があるのよね?」



「はい。お察しの通りです、母上。私の心は彼になく、彼の心も私にありません。ただ、今は3年後に備えなければならないのです」



「分かったわ。アルネの心が王子にないのであれば、何も言うことはありません」





母上はどこか寂しそうな笑みを浮かべると、私の手を握り締めてきた。






昔の私は、エメルソン王子を愛していたのだろうか?



『漫画』では過去の細かな描写はないため、私には知る由もないのだが、母上の表情を見る限り、そうだったのであろう。







それから他愛もない話を少ししてから、この日は解散となった。





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