第10話 私からのお願い
皇帝トラファートと皇妃アミーヌを対面にソファーに座ると、父上と母上は私の隣に座った。
メイド達が紅茶を淹れてくれ、皆が一口飲んでから話が始まった。
「それで、ここに書かれている内容は本当なのかい?」
トラファートは私が持参した辺境伯と副騎士団長からの2通の手紙をテーブルに置いた。
「手紙の内容は分かりませんが、魔物の討伐の件でしたら相違ありません」
「そうか。ならば、帝国の民を救ってくれたこと、心から感謝する」
トラファートが座ったままとはいえ、深々頭を下げると、隣に座るアミーヌも頭を下げた。
「頭を上げて下さい。人が人を助ける。当たり前のことをしたまでです」
「強い上に心まで清いとはな。エドゥアール、お前も黙っているなんて水臭いな」
「いや、実を言うと私自身、信じきれていないのだ。アルネよ。本当に1,000匹近い魔物を1人で倒し、僅か数日で帝都まで来たのか?」
「はい。嘘偽りはありません」
私が真っ直ぐに瞳を見てそう伝えると、父上は優しく微笑み、肩に手を置いてきた。
「私には嘘を話しているようには思えんな。どちらにしろ、民が助けられた事実がある。褒美を与えねばな。アルネよ、何か欲しいものはあるか?」
「・・・」
「ふふふ。私達、エドゥアールとローズとは付き合いが長いのよ。遠慮しないで言ってごらんなさい」
俯き考え込む私に、アミーヌ皇妃が優しく言ってくれた。
この2人なら、私の考えているお願いをしても無碍にはしないだろう。
それにこんな機会はもう訪れないかもしれない以上、覚悟を決めて話すしかない。
「分かりました。私からのお願いは、4つです。1つは、父上と母上に、帝国での爵位を授けて欲しいこと。2つ目は、同じように王国のとある侯爵家にも同じように爵位を授けてほしいこと。3つ目は、王国からの亡命を認めて欲しいこと」
「あ、アルネ!!何を言っているのだ!?」
「アルネ、自分が何を言っているのか分かっているの!?」
私の発言にトラファートとアミーヌより先に父上と母上が言葉を強めて発してきた。
「今、全てを話すことはできませんが、私のお願いは3年以内に必要となることなんです」
「3年って、何を言ってるんだ。未来が分かるとでも言ってるつもりか!?」
「あなた、落ち着いて下さい!!」
父上が今にも掴みかかりそうな剣幕でそう言うと、母上が父上の腰に両手を回して動きを止める。
「アルネよ。確かに何でも良いとは話したが、自身の願いの意味が分かっているのだな?」
「はい」
王国貴族が他国である帝国で爵位を授かることは通常は有り得ない。
確かに、他国に嫁ぎ、稀に成果を上げて叙爵することはあるが、それはあくまで他国に出されているからだ。
私がお願いしているのは、亡命目的で地位の確保と生活基盤を保証して欲しいということになるため、意味合いは全く異なる。
「皇帝陛下、神玉を扱える高位の神官を呼ぶことはできますか?」
「辺境が魔物に襲われる緊急事態だったから神官長が皇城に待機してはいるが・・・、それで私達が納得できるものを示せるのかい?」
「はい」
「よかろう。ロマン、直ぐに神官長を呼べ」
「畏まりました」
ロマンと呼ばれた宰相が部屋から出ていくと、私は項垂れている父上と母上の手を取った。
「私は、父上と母上のことを、本当の両親だと思っています。それに、紛れもなくこの体はお二人が誕生させてくれたものです」
「あ、アルネ?」
「当たり前でしょう。あなたは私達の娘よ」
「はい。私は心からそう思っています」
前世では、物心ついた時には両親はおらず、私は教会で育った。
教会は決して裕福ではなく、治安も悪かった。
神父様や他の子供達を食べさせるため、守るために私は剣を握ったのだ。
その頃に両親と呼べる存在がいたら、どうなっていたのだろうな。
「お待たせいたしました。神官長をお連れしました」
「皇帝、火急の用件とはなんですかな?いくら皇帝といえど、こんな時間に呼び出すなぞ」
「すまないな、神官長。どうしても、神玉で彼女を見てほしくてな」
「何ですと!!神玉は本来、成人の儀か国に危機が迫っている時にしか使えないのですぞ!!」
神官長はそう叫ぶと、私を激しく睨みつけてきた。
「アルネ、神官長は決して悪い人物ではないんだ。許してくれ」
「大丈夫ですよ。それに、これから神官長は私の前で跪くのですから」
「な、何を生意気な!!許さんぞ、神に仕える私に対して何ということを!!」
「ほう、神に仕える・・・。ならば、さっさと神玉を構えろ。神の意志を教えてやる」
「ぐぬぬぬぬ、許さんぞ、許さんぞ!!貴様のような小娘に何があると言うんだ!!皇帝、神玉を使い、何もなければこの小娘を処罰してくだされ!!」
皇帝は困惑した表現でこちはを見てくるが、私が頷くと渋々、神官長の要求を了承した。
「へへへ。さぁ、神玉に触れてみよ。貴様の死罪が下るときだ!!」
神官長は神玉を掌に乗せてこちらに向けてくる。
ソファーから立ち上がった私は1度も動作を止めることなく神玉に触れた。
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