第9話 皇帝と皇妃






帝国騎士数十名に囲まれながら皇城に入ると、中は王国の王城よりも広く、1階部分は天井まで20メートルと高く開けた空間で、調度品が飾らせ中央には上階に繋がる階段があった。



階段を上がり、2階にある会談室の一室に通されたのだが、その部屋も広々としていて中央にテーブルとソファーが置かれていた。



ソファーに座ると、案内してくれた騎士達は下がり、代わりにメイドが5人入ってきて手早く紅茶を淹れ、お菓子が乗せられた3段重ねのスタンドが運ばれて来た。





時刻にして、夜の20時は過ぎているだろう。

今日も昨日同様、走り続けてまともに食事をしていないため、正直、お菓子よりご飯を食べたかった。



20時過ぎに入場が許され、こうして接待してくれるのだから文句はいえないのだが・・・。





「すまない。父上、いや王国のエドゥアール様とローズ様に直ぐに会うことはできるだろうか?」



「申し訳ございません。只今、エドゥアール様とローズ様、並びに皇帝様、皇妃様がアルネミナ様にお会いになる準備を進めておりますが、今しばらくお時間がかかるかと」



「そうか、ありがとう」





予想通りだ。

皇城に入るまでに2時間かかったのだから、謁見となればそれなりに時間がかかるだろう。



ましてや、20時を過ぎ、寝の時間に入っているタイミングでの謁見準備だから更に数時間を見た方がいいかもしれない。


冒険者であれば、例えギルドマスターと急ぎで会う場合も寝巻きのままだったな。




貴族社会はなんとも面倒だ。






「時間がかかりそうだから、持参した食事を食べても構わないだろうか?」



「食事でしたら直ぐにこちらで準備させますので」



「いや、こんな時間に用意してもらうのは申し訳ないからな、持参したものを食べる」



「畏まりました」





私に接していたメイドが控えているメイドに目配せすると、直ぐに数枚のお皿とナイフ、フォーク、スプーンが用意された。



お礼を言い、【空間収納】からポトフとサンドウィッチを取り出した。


初めて料理した時に作ったポトフと、サンドウィッチはお茶会用に作った時のものだ。






「「食事が空間から??」」



【空間収納】に驚くメイド達の熱い視線を浴びながら食べ始めると、空になった胃袋と心が満たされていった。





「はあ、沁みる。美味い」






ギュルルルルル

ギュルルルルル

ギュルルルルル





何名かのメイドのお腹から誤魔化しきれないほどの大きな音が鳴った。



後ろを振り向くと、メイド達は顔を赤くしてこちらを見ていた。

見ていたというか、お客がいる以上、俯く訳にはいかず、羞恥に耐え、職務を全うしている、が正しい表現だ。





「よければ、一緒に食べないか?」



「いいえ、私達はアルネミナ様に付くメイドでございますので」



「私のメイドというなら、一緒に食べてくれ。ここ数日は1人で食事をする機会が多くてね。是非、一緒に食べてくれ」



「で、ですが・・・」





それから押し問答が続いたが、お腹は正直だったらしく、2回目の大きな音が鳴ったところで私の勝ちとなった。





「お、美味しい!!」



「な、何なのですか、このスープは?スープといえばただの水煮のはずですが、この深い味わいは一体!!」



「パンが、フワフワです!!」



「具材も、これは卵ですか?こちらは、何でしょう、何かを揚げているようですが?」



「はぁ〜、幸せです〜」




食べたら最後、メイドさん5人は陥落した。




調子に乗った私は、『苺のタルト』『苺のミルフィーユ』を振る舞った。




勿論、大好評だった。












「それにしても、噂は当てにならないのですね」





食後に紅茶を飲んでいると、胃袋を掴まれたメイドが微笑みながら話てきた。





「私の悪徳令嬢振りかい?」



「は、はい。今日お会いして、本当に素晴らしい方だと感じました。私達のような一介のメイドに普通に接してくださり、言葉遣いも優しくありましたし」



「そう思ってくれたなら嬉しいな。きっと、これからも世話になると思うから、よろしく頼む」



「はい!!何なりとお申し付け下さい。特に食事の相手は誠心誠意、努めさせていただきます!!」




メイド達5人は、みんな力強く頷く。

そんな状況に笑い合っていると、発動していた【サーチ】に動きがあった。


5人がこちらに向かって近づいてくる。





「おっと、いよいよ準備が整ったようだ」



メイド達5人を急いで後ろに控えさせると、自分以外の紅茶のカップ等は【空間収納】に仕舞った。



食事中、【空間収納】について説明はしたので後ろにいるメイドも初めよりは驚いていない。







コンコンッ






「失礼する。皇帝陛下並びに皇妃様、それとアルネミナ様のご両親、エドゥアール様とローズ様を通します」




最初に入ってきた宰相らしい人物がそう言うと、見たことない2人と見慣れた2人が入ってきた。






「「アルネ!!」」



父上と母上は皇族の前であることを気にもせず、私に走り寄るとそのまま抱き締めてきた。





「よかった、本当によかったわ」



「心配したぞ。お前に何かあったらと考えたら」





前世で80歳まで生きているからか、今世で12歳であることを忘れがちだ。

両親からすれば、12歳の娘が1人で帝都に来たと聞いたらそれは心配したことだろう。





「そろそろ、私達にも紹介してくれないか?」



「おお、すまない。つい感極まってな。アルネ、こちらが皇帝と皇妃様だ」



「相変わらず雑な紹介だな。初めまして、私がトラファート・ゼロ・ベレングエル。ベレングエル帝国の皇帝だ」



「私は妻のアミーヌ・ゼロ・ベレングエルよ。

よろしくね」





皇帝、皇妃ともに金髪の綺麗なサラサラ髪を靡かせ、緑と青色の透き通る瞳が特徴の2人だった。





この2人なら、私の力になってくれるだろう。




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