第8話 帝都





ネルソンに案内されながら街に向かう途中、討伐した魔物を【空間収納】に仕舞っていく。





「まさか、それは無属性魔法の収納ですかな?」



「そうだ」



「いやはや、伝説級の魔法ですな。あれ、しかし、アルネミナ様は何歳でしたかな?」



「私も淑女ゆえ、年齢は秘密だ」



「ははは。これは失礼しました」





ネルソンは笑っているが、今の空間収納や先程の戦いで攻撃魔法を使用しているのを見ている。

15歳の成人の儀式前に魔法が使えているのを知られてしまっただろう。


別にどうしても隠したい訳ではないので構わないのだが、ネルソンは魔法についてそれ以上聞いてこなかった。



代わりに、他の質問をされる。






「アルネミナ様。馬車はどちらでしょうか?よろしければ安全な駐車場を確保し、誘導いたしますが」



「いや、結構だ。馬車はないからな」



「は、はあ。馬もないようですが・・・、そういえば、護衛や侍女など、他の従者はどちらですかな?丁重に持て成しませんと」



「うむ。私は1人で来た」





ネルソンは歩みを止めると、一度私の顔を見つめ、私の後ろも確認する。

誰もいないことを確かめると、大きく深呼吸をして、空笑いをした。




「なはははは。もう、何でもありなのですじゃ。恩人ですし、詮索もしませんぞ」



「ああ、助かる」





それから歩いて街の入口である大きな門を潜ると、多くの民が道を埋め、建物の2階や3階の窓からも顔を出し、私に向かって歓声を上げた。









救い主様ーーーーーー!!




街を助けて下さり、ありがとうございましたーーーーーー!!




ご尊顔を拝ませて下さいーーーーーー!!




殲滅の姫君様ーーーーーー!!







辺境ではあるが、王国との玄関口にあたるこのゼルダンには、数万の民が暮らしている。

その民が全て集結したのではないかという程、道は隙間なく人で埋まっており、中に進むことができない。






「いやはや、参りましたな」



「進めそうにないな。ならば、私はこのまま帝都まで行こうと思う」



「しかし、戦いの後ですぞ。少し休まれませんと」



「いや、疲れはないから問題ない。それに、早く帝都にいる父上、母上にも状況を知らせねばならないしな」






ネルソンはこめかみに手を当てて考え込むと、いったん私を入口にある検問所に連れて行き、少しだけ待つようお願いされた。



時間にして30分程だろうか、衣服が乱れたネルソンが戻って来ると、2通の手紙を手渡された。




1通はこのゼルダンの辺境を治めている辺境伯のもので、もう1通はネルソンが書いたものであった。




「この手紙を帝都に着いたら皇帝様に渡して下され。アルネミナ様が1人で1,000匹の魔物に立ち向かい、街を救った証明になるでしょう」



「これは助かる。収納から魔物の死体を出すのは避けたいからな」




1人で帝都に向かったとしても、私が1,000匹近い魔物を討伐したことを誰も信じないだろうからこの手紙は有り難かった。





「本当は、辺境伯様自らこの検問所に来ようとしたんですがね、人の波に襲われて駄目でした。がはははは」



「確かに、ネルソン殿の衣服の乱れ具合から、人の波は手強そうだ」





ネルソンは初めて衣服が乱れていることを認識し、慌てて直していた。





「では、私は帝都へ向かう。後、もし可能であれば、サラビアの辺境伯邸に顛末を知らせてもらえないだろうか」



「魔物も討伐してもらいましたし、報せを向かわせるくらい容易いことですわい」



「感謝する」



「それで、帝都までの馬車は・・・、いや、なんでもない。がはははは」





私に帝都まで馬車を用意することを伝えようとして、ネルソンは首を横に振ってから気持ち良さげに高笑いをした。




追求や無理に馬車を用意しようとしないネルソンに感謝しつつ、私は帝都に向かった。







流石に帝都までは通常、馬車で2週間はかかる工程のため、身体強化魔法の【アップ】を使ってもその日中に到着することは出来なかった。



疲れた体に【ヒール】を使い、再度【アップ】で走り続けていたため、日が暮れた頃には身体中が重く、眠気も襲ってきていた。





街道を外れ、木々に覆われ目隠しされた場所を見つけると、地面をならして【空間収納】から簡易的なテントを取り出す。



大人1人がぎりぎり寝れる程のテントを設営すると、屋敷で作り置きしていた『魔牛のシチュー』と『パン』を【空間収納】から出し、もの凄い勢いで食べた。






「うまい」




ゼルダンまで走り、魔物を1,000匹近く倒し、また数時間走り続け、お腹は限界までに減っていた。



テントでの食事は前世の冒険者依頼だが、やはり外で食べるご飯は格別に美味しく感じる。


日が暮れ、やや肌寒くなった気温の中で温かな食事を取るだけでこうも違うものなのだ。





食事終えると、結界を張った上で、水と火魔法でお湯を作り、土で固めた浴槽でお風呂に入った。


お風呂から上がると、力尽きたように朝まで1度も起きることなく眠り続けた。






翌朝、軽い食事を終え、身支度を整えると帝都に向かって昨日同様、走り出した。



そして、日が暮れ出した頃に帝都に辿り着くことができたのだが、門番に辺境伯とネルソンからの手紙を預けてから待ちぼうけを食った。



2時間待ちぼうけを食い、ようやく皇城への入場許可が下りたのだった。






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