第7話 もう一つの辺境






アレンが命懸けで届けてくれた両親からの文を読んだ。


そこには、ベレングエル帝国の辺境、魔の森の北側に位置する辺境の街ゼルダンで魔物の氾濫があり帰ることができないこと、また同じ魔の森の南側に位置するこの辺境のサラビアにも影響があるかもしれないこと、二つのことが書かれていた。




魔物の氾濫・・・


アレンが怪我を負ったのもきっと氾濫した魔物によるものだろう。



それにしても、隣接する帝国の辺境の街、ゼルダンが襲われている。

辺境とはいえ、王国との玄関口にあたるゼルダンには多くの民が暮らしている。



命の危機に直面しているのだ、やはり助けに行くべきだな。




神のマリーとの約束は、あくまでライアスノード王国を見捨てることであり、ベレングエル帝国を助けてはいけないとは言われていない。





「よし、助けにいくか。帝国兵は王国兵より力強いと聞くし、今行けば民を救えるかもしれん」



私は自分に言い聞かせるように言うと、私室を出て階段を降り、玄関口に向かった。


玄関口ではメイド達が床に着いた血を掃除していた。

アンとアレンの姿はないので、部屋で休んでいるのだろう。



ララーナと執事のアルバロが1階に降りてきた私に気づき近寄ってくる。




私は2人に文の内容を伝え、これから助けに向かうことを告げた。





「アルネ様。それはなりません」



「私も反対です。アルネ様、どうかお屋敷にいて下さい」



2人とも目に涙を滲ませ、真に心配してくれているのが分かった。





「大丈夫だ。私は強い」



「何をおっしゃっているのですか。確かに先程の神聖魔法は素晴らしかったですが、アルネ様はまだ12歳なのです」



「そうです。それに、旦那様と奥様が帝国に行くため、殆どの兵士は同行していて付き添える者がいないんですよ」



「それなら問題ない。1人で行くからな」




「「・・・、絶対、ダメです!!」」





2人から息の合った反対をされる。

少し前まで嫌われていた令嬢だというのに、今はこうして真剣に引き留めてくれるのだ。


素直に嬉しさが込み上げ、思わず笑みが溢れた。





「2人共、すまないな。これは、私、ライアスノード王国、サラビア辺境伯令嬢のアルネミナ・ドゥーエ・サラビアが決めたことだ。許してくれ」




卑怯な言い回しをしてしまったが、2人を説得するにはこれしかなかった。



ララーナとアルバロは、涙を流しながらその場に跪き、両手を胸に当てる。

この行為は忠誠の誓い、または主への賛同を意味している。


私が謝罪をした日、ララーナが今と同じ行動を取って、その意味を教えてくれた。





「いってくる」




涙を流し続ける2人と、心配そうにこちらを見つめているメイド達にそう告げると、私は屋敷の外に出た。









さて、普通は馬や馬車で向かうのだろうが、それでは時間がかかり過ぎるな。






【アップ】





身体強化の魔法を唱えると、私は走り出した。



街道では遠回りとなるため、魔の森を突っ切る形で向かうが、私が討伐している南側には魔物は少なかった。


ただ、国境を超え、帝国側に面する魔の森の北側に差し掛かると、急激に魔物が増えた。



全てを倒しながら進んでいては時間がかかるため、無視してゼルダンの街に急ぐ。




屋敷を出てから僅か1時間程で視界にゼルダンの街が見えきた。

目視だけでなく【サーチ】を使って確認すると、街を囲んでいる石造りの外壁に約1,000体の魔物が群がっていた。



外壁や入口の門は今にも破壊されそうで、外壁の上から兵士が矢を放っているが魔物に殆どダメージを与えられていない。






【ブレイド・ウィンドウ】





群がっている魔物に魔法を放つと、無数の風の刃が首を切り落としていく。





【ブレイド・ウィンドウ】×20





先程よりも大量の風の刃が首を落とすと、魔物達の視線が私に向いた。



外壁から離れ、距離を詰めるため一斉に魔物大群がこちらに走ってくると、私は微かに笑みを浮かべてから魔法を放った。





「喰らえ!!」




【グラン・エクスプロージョン】






私に群がろうとしていた魔物のかたまりに炎を纏った大爆発が巻き起こり、一気に数百匹の魔物を駆逐する。







「魔法とはなんと卑怯なのだ!!」




【グラン・エクスプロージョン】







次々と駆逐されている姿を見て、本能的に恐怖を感じ取った魔物は恐怖の表情で後退りをすると、散り散りに逃げ始めた。



私は魔物達を追いかけると、今度は剣抜き、首を刎ねていく。


逃げる魔物の中にはSランクやAランクの魔物もいたが、お構いなしに切り続けた。




結果的に、100匹程逃げられてしまったが、十分な戦果だろう。






外壁の上から戦況を見ていた兵士達から歓声が上がると、街の門が開き10名ほどの騎士が馬に乗って近づいて来た。






「ご、ご助成、感謝する。私はベレングエル帝国の副騎士団長を務めているネルソンと申す」



「私は、ライアスノード王国、サラビア辺境伯の娘、アルネミナ・ドゥーエ・サラビアだ」



「おお、サラビア辺境伯、ならばエドゥアール様とローズ様のご令嬢なのですな。お二人共帝国にとっての重鎮、アルネミナ様のことも心から歓迎しますぞ」




エドゥアールは父上で、ローズは母上のことだ。

父上と母上は、帝国と隣接する辺境を統治しているため、ライアスノード王国の代表として帝国と多々、会談している。


そのため、帝国側からすれば、ライアスノードの王族よりも重鎮とされていた。







挨拶が終わると、私はネルソンに案内され、街の中に向かった。





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