第3話 お茶会
「お茶会?」
私室でララーナに紅茶を淹れてもらいながら、1枚の紙を渡された。
てっきり貴族の令嬢から送られてきたお茶会の招待状だと思ったのだが、予想は外れた。
それは、私がある侯爵令嬢に送った招待状の控えであった。
内容は悪徳令嬢らしさ全開で、高圧的に書かれており、簡単に言えば「高貴な私がお茶会に招待してあげますわ。有り難く参加するように」といった内容だ。
「はぁ〜、まだ懺悔が必要なのか・・・」
「アルネ様。淑女が溜息を吐いてはなりませんよ」
ララーナは笑顔でそう言うと、紅茶に合わせた焼き菓子をテーブルに置いてくれた。
あの懺悔依頼、使用人達とも大分距離が近くなり、ララーナは私のことを「アルネミナ」ではなく「アルネ」と呼ぶ様になっていた。
「そうは言ってもララーナ。お茶会、ましてや謝罪前提のお茶会なのだぞ」
「ふふふ。アルネ様は本当に変わりましたね。ご自身で催すお茶会で謝罪を考えているんですもの。話し方まで変わっているのは少し不思議ですが」
話し方のことは・・・、あえて触れない。
ララーナ以外の使用人達も不思議に感じている様だが、これまでが令嬢口調とはいえ、常に高圧的だったこともあり、普段はこうなのかな?と納得してくれているようだ。
それよりも、お茶会だ。
やはり、昔の私は貴族令嬢にも高圧的に、時には侮辱的な発言もしていた。
『漫画』で描写を見ているから知ってはいたが、改めて聞くと何とも言えない気持ちになる。
「私達にしていただいたように、誠心誠意、謝罪をすればきっと伝わりますよ」
「だと、いいのだがな」
相手は侯爵令嬢だ。
使用人達のように謝罪を受け入れてくれるかは分からない。
再び、溜息を吐くと、焼き菓子を口に運ぶ。
うむ
不味い
前回、料理を作って謝罪をした後に分かったことだが、この世界の料理は不味い。
鶏骨を廃棄物としていたことでも分かるが、料理に出汁という概念はなく、デザートやお菓子に関しても砂糖を多く使えば良いと考えているようで、死ぬ程甘く、ボソボソだ。
「やはり、謝罪するならばこれしかないか」
「アルネ様。またお料理をされるんですか?食べたいです。私、毒味でもなんでもやります」
「う、うむ。では、味見をお願いするとしよう」
「はい、喜んで!!」
ララーナは、紅茶のお代わりを用意するため、スキップをしながら部屋を出て行った。
その隙に、私は『漫画』を手元に用意して、あるページを探す。
あった。
お茶会のシーンだ。
私、というか主人公が貴族令嬢に指示を出し、自分の席に料理やお菓子を運ばせ、紅茶まで淹れさせている。
腹立たしく、見ていられないシーンだが、私が確認するのは描かれている料理とお菓子だ。
何せ、前世でお茶会など出たこともないのだから、どんな料理とお菓子が必要なのか分からない。
ララーナやサザミアに聞けば良いのだが、昔の私は何度もお茶会を体験しているため、おいそれと聞けない。
「なるほど。食事は軽めで、メインはお菓子なのだな。こんなもので腹が膨れるのだろうか」
漫画の中の料理とお菓子、デザートと言われるものを見ていると、頭の中にレシピが羅列された。
「本当に便利なスキルだな」
「アルネ様?誰とお話になっているのですか?」
「ら、ララーナ、戻っていたのか。いや、なに。独り言だ」
紅茶のお代わりを用意して、ララーナは既に戻ってきていた。
集中して『漫画』を見ていたため、ノックに気づかなかったようだ。
「アルネ様。お茶会の招待状を送られる前にもお話したのですが、やはり、無事に辿り着けるかが1番心配です」
「無事にとは?辺境への街道は整備されていないということか?」
「いいえ。街道は整備されており、馬車で移動が可能です。心配しているのは、道中の魔物です」
「ま、魔物!?」
ララーナの話では、この辺境伯領は魔の森の南側に面しており、森からは魔物が出てくるそうだ。
私兵や冒険者によって討伐はされているが、万全でなないことと、最近魔物が強くなっているため、街道にも被害が出ているらしい。
「魔物の被害があるにも関わらず、昔の私はお茶会に招待したのか」
「昔の・・・?そうですね。今のアルネ様ではないお嬢様は、私が偉いのだからどこへでも来るべきよ、とおっしゃっておりました」
「最低だな。今から中止の連絡はできないか?」
「難しいです。王都からこの辺境伯領に来るには、馬車で2週間はかかりますので・・・」
私は無意識に拳を強く握っていた。
お茶会は3日後。
既に馬車でこの辺境伯領を目指して出発しているだろう。
しかも、余程、昔の私が怖かったのか、招待した侯爵令嬢は参加の意向を示している。
辺境伯と侯爵は同等の貴族位なのだから、断ることもできたであろう。
『漫画』の中では、この侯爵令嬢に「マウント」なるものを取りたいがために、態々、お茶会に招待している。
そんな理由のために危険を冒してまで来てくれるのだから、申し訳なさしかない。
因みに、本来であれば侯爵領から来る予定だったのだが、今は社交シーズンということで王都にある別邸から来るそうだ。
私が出来ることは、安全、安心に来てもらい、最高の料理とデザートを振る舞い、そして無事に帰ってもらうこと。
ならば、まず始めに魔物討伐だな。
この世界に来てから日は浅いが、一度も剣を握っていない。
攻撃魔法を試すのにも絶好の機会だな。
「なんだ。簡単なことではないか。討伐してしまえばよいのだ」
「あ、アルネ様?」
「ふはははは。ララーナよ、剣を用意してくれ」
「はい??」
素っ頓狂な声を上げたララーナに再度お願いし、剣を用意してもらった私は、深夜、1人で屋敷を抜け出した。
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