第2話 懺悔の時間
私が目を開くと、天井と天井の木目が視界に入った。
どうやら、無事、転移したようだ。
あの後、神のマリーに聞いた話では、私は12歳の辺境伯令嬢に転移しているはずだ。
「ステータス」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前:アルネミナ・ドゥーエ・サラビア
年齢:12歳
ライアスノード王国・サラビア 辺境伯令嬢
Lv1
HP:1,200
MP:10,500
攻撃:2,800
防御:1,600
魔力:5,000
『加護』
・神の遣い
・魔法の才
『スキル』
・魔法全種類創生
・料理スキル
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「本当に、見れるのだな」
ステータスの見方も、マリーに聞いたものだ。
それにしも、前世は貴族とも男性とも無縁だった私が辺境伯令嬢とは・・・。
誰もいない部屋で、思わず一人で笑ってしまう。
コンコンッ
「アルネミナ様。お目覚めでしょうか?」
扉をノックする音と共に、外から女性の声が聞こえてきた。
私は自分の左手に握られていた『漫画』を開き、その人物の確認を行う。
ページ序盤に、毎朝、私を起こしに来て、そして罵られている専属メイドが描かれている部分があった。
彼女の名前は、ララーナ。
「ララーナ、入ってくれ」
「は、はい」
返事の後、部屋に入ってきたララーナは、漫画で見た姿のままだったが、漫画のように白黒ではなく、現実は色味があり、肩まで伸びた茶色の髪が綺麗な女性だった。
ララーナは部屋の窓際まで移動すると、カーテンを開いてからベッドの上にいる私の側までやって来た。
側に来たララーナは毅然としてはいるが、どこか怯えているような、そんな表情を見せている。
毎日、私にいびられていれば、当たり前だろうな。
「ララーナ、おはよう」
「は、はい。おはようございます」
「早速で申し訳ないのだが、着替えたら直ぐに調理場に向かう」
「ちょ、調理場ですか?朝食の準備であれば、シェフ達が行なっておりますが・・・」
ララーナは私の癪に触るのではないかと、躊躇いながらそう言った。
「少々、作りたい物があってな。それと、1時間後に全ての使用人達を食堂に集めてくれ。父上、母上には私から言っておく」
「わ、分かりましゅた!!」
使用人を集めると言った時点で、ララーナの顔は真っ青になり、噛んでしまうほど明らかに同様していた。
私ではない私がした事とはいえ、ここまで怯えさせてしまっていることに、申し訳ない気持ちが広がる。
着替えを終え、ララーナに調理場へ案内してもらうと、広い調理スペースに10人のコックコートを着た料理人達が横一列に並んでいた。
料理人は男性6人、女性4人おり、1人の年配の女性が一歩前に出て、私に挨拶をして来たのだが、案の定、顔色は真っ青だ。
「アルネミナ様。本日はどの様なご用件でこのような場所へ・・・、いいえ、いつ来ていただいても問題はないのですが・・・」
シェフとは、辺境伯邸での料理長を指している。
この女性シェフも私に料理の味について散々嫌味を言われてきているので、かなり警戒されているようだ。
シェフの名前は、確か・・・
「サザミア。突然申し訳ない。今日の朝食は私に作らせてもらえないだろうか?」
「えっ?お嬢様が?」
「無理は承知しているが、どうしても使用人達の朝食を作りたいのだ」
「我々の朝食を!?」
サザミアは好意として素直に受け取れないようで、まるで毒でも盛られるのではないかと狼狽えている。
そんなサザミアのことをいったん視界から外し、調理台に置かれている食材を見た。
朝食用だろうその食材は、卵、玉ねぎ、ソーセージなど色々置かれており、昼食用なのか切り分けられた鶏肉と鶏骨が廃棄用にまとめられていた。
材料を視認した私の頭の中に、『調理スキル』の恩恵で多くのレシピが羅列される。
「うむ。良い朝食が作れそうだ。すまない、小麦粉はあるか?」
「は、はい!!」
小麦粉を受け取ると、まずは『パン』作りを開始する。
レシピの中にある『酵母』とやらは今すぐには作れそうにないが、『促進』魔法を使うことで美味しくなり、且つ時短にもなると書かれていた。
手渡された小麦粉を見ると、頭の中で『×』と表示され、奥にある他の小麦粉を見ると『○』と表示された。
どうやら小麦粉にも種類があり、奥にあるものがパンには相応しいらしい。
「すまない。奥にある小麦粉で頼む」
「も、申し訳ありません!!す、直ぐに!!」
苦笑いしながら小麦粉を受け取ると、レシピ通りに砂糖、塩、牛乳、バターを加えて混ぜ、この世界に来て初めての魔法を使う。
【促進(グロウ)】
私の手元が光り輝くと、パン生地に光が流れ出し、静かに包んでいく。
初めての魔法だったが、加護の『魔法の才』のお陰で違和感なく使え、成功した。
念願の魔法を使えたことに対し、飛び跳ねて喜びを表現したいところだが、グッと我慢する。
顔はきっとニヤニヤしてると思う。
「ま、まさか、魔法・・・」
「そんな、まだ成人前なのに・・・」
この世界では、15歳の成人の儀式で加護やスキルを授かり、そこで初めて魔法などの恩恵に肖ることができる。
ただ、私は神のマリーから既に加護もスキルも貰っており、使えるのは当然なのだ。
驚かれるとは思ったが、これからのことを考え、近しい人には能力を隠さないと決めていた。
顎が外れそうなほど口を大きく開き、驚いているサザミアにパン生地をオーブンに入れるよう指示すると、次にスープを作る。
鶏骨を鍋に入れて煮込み、【促進】魔法を使い、鶏ガラスープを作り、ソーセージや野菜を入れて煮込む。
「と、鶏の骨を使うなんて・・・、やはり、我々に嫌がらせを・・・」
「よせ、聞こえるぞ!!」
聞こえてはいるが、聞こえなかったふりをする。
この世界で鶏骨は廃棄すべきものらしいので、私の行動は嫌がらせと思われても仕方がない。
それにしても、『料理スキル』のお陰で包丁で流れる様に野菜を切ることができ、思わず鼻歌を歌ってしまう。
包丁捌きに驚きながらも廃棄物を食べさせられると顔を引き攣らせている料理人達と、嬉々として鼻歌を歌う私。
カオスな空間の中で、全ての料理を作り終えた。
メニューは、『鶏ガラスープのポトフ』『チーズオムレツ』『できたてのパン』。
「さぁ、懺悔の時間だ」
辺境伯邸ということもあり食堂はかなり広く、料理人、メイド、執事、庭師など、使用人が50人程いたのだが皆、座ることができている。
ララーナに集められた使用人達は、お通夜の様な雰囲気で、会話する者は誰もいない。
私は使用人達の前に立つと、深々と頭を下げた。
「今まで、ぞんざい、不遜な態度をとってしまい、本当に申し訳なかった」
その瞬間、使用人達から騒めきが起こる。
「私も12歳となり、成人まであと3年となった。これからは、辺境伯令嬢として相応しい態度をとり、行動をして行く。可能であれば、これまでのことを許してもらい、これからの私を見て欲しい」
騒めきは大きくなり、隣同士で顔を合わせ、どう反応すべきか相談しているようだった。
「お詫びとして、ささやかではあるが朝食を作ってみた。よければ、食べてくれ」
使用人達は目の前に並べられた料理に反応を示すが、戸惑いの方が大きのか、誰も手をつけようとしない。
カチャン
そんな中、ララーナがスプーンを手に取り、スープを掬った。
手が震えている所為で、スプーンと食器が触れて音が鳴り、皆の視線が集まる。
震える右手を左手で抑えながら、ララーナはスプーンを口に運んだ。
「お、美味しい・・・」
ララーナは目を見開くと、パンをちぎって口に運ぶと更に目は大きく開かれ、オムレツを食べると無限のループが始まり、手が止まることはなかった。
「美味しい、美味しいです。今まで食べた料理で1番美味しいです!!」
「ほ、本当に美味しい・・・、これが、あの鶏骨からとったスープなのか、信じられない旨味だ」
ララーナに続いてサザミアも食べ始めると驚嘆の表情を浮かべる。
2人が口にしたことで他の使用人達も一斉に食べ始めると、皆、笑顔に包まれた。
これで今までの行いが無くなる訳でも、心に負わせてしまった傷が無くなる訳でもない。
それでも、私にとっては、大きな第一歩。
異世界での生活が始まったのだ。
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