今話題の悪役令嬢(婚約破棄前提)に、元Sランク冒険者の女剣士が転生するお話 〜神様との約束で、婚約破棄された国は見捨てます〜

いそゆき

第1話 悪役令嬢への転生






舞台に延びる真っ赤なレッドカーペット、白く輝く大理石の床、魔石により演出されている煌びやかなイルミネーション。



私とある2人の人物を囲むように立ち、こちらを睨んでいる貴族と、出入口を封鎖している30名の近衛騎士。





2人の人物、その内の1人が私に向かって、いや、周りにいる貴族達に主張するように高らかに叫んだ。







「ライアスノード王国第一王子、エメルソン・ゼロ・ライアスノードは、悪徳令嬢、●●●・ドゥーエ・サラビアとの婚約破棄をここに宣言する」





貴族達が響めき、嬉々とする者、困惑する者、様々な表情を見せている。




対して、私は表情ひとつ変えることなく、第一王子であるエメルソンの言葉を受け止めた。






「そして、ここにいる聖女、ミツカ・スエナガとの婚約を正式に宣言する!!」





自身に陶酔しているエメルソンは髪をかき上げながら天を見上げ、ミツカは勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる。




貴族達が大きな拍手で2人を祝福する中、私はミツカに勝る勝者の笑みを浮かべる。






「婚約破棄、謹んでお受けします。お二人共、お幸せに・・・」





そう告げると、私は貴族達の間を通り抜け、舞台にいる神官の元へ向かう。





なぜこんな貴族だらけの煌びやかな部屋に神官がいるのかというと、今が【新成人の儀式】の最中だからだ。



15歳になった者、また年内に15歳を迎える者を対象に、神から加護やスキル、魔法の才を受けるのが【新成人の儀式】。





平民は街の教会で粛々と行われるが、貴族の場合は新成人の顔合わせを兼ねて、大々的に行われる。



この【新成人の儀式】の結果如何で虐げられる者、崇められ者が生まれ、家同士の付き合い方まで変わる。


本来であれば、神から個人に充てられた儀式であり、大々的に行うものではない。



実に下らない催しだ。









「では、こちらの神玉に触れて下さい」




神官の前に行くと、直径15センチ程の淡く輝く水晶玉に触れるよう促される。




結果を知っている私は、躊躇うことなくその神玉に触れた。




その瞬間、目を開けていられない程の光が辺りを包み込み、貴族達から悲鳴が上がった。


同時に、悲鳴を掻き消すほどの大声で神官が叫んだ。





「こ、これは・・・!!」















本の世界に引き込まれていた私の前に、紅茶のお代わりが淹れられた。





「お待たせして申し訳ありません」



「いや。こちらこそ、このような漫画なる素晴らしい物を貸していただき、感謝する」



「お気に召していただいて何よりです」





金色の髪を束ね、メイド服を着た美しい女性は微笑みながらお茶菓子をテーブルに置いた。



お茶菓子を左手で口に運びながら、右手で漫画を捲る。



今読んでいる漫画という物は、私が住んでいた世界にはなく、またこのような物語を描いた書物もなかった。




主人公の悪役令嬢は、屋敷の中でメイドに我儘を言い、少しでも気に入らないと「役立たず」と罵り、通っている高等学院でも辺境伯令嬢という立場を笠に様々な令嬢をいびり続け、婚約破棄される。



そう言った話だが、色々と辻褄が合わない部分もあり、紅茶を淹れてくれたメイドの人に聞くと、読み続けると「ざまぁ」という現象が起こると教えてくれた。




それと、この漫画はこれから起こる『のんふぃくしょん』といものらしい。




意味はよく分からないが、早く続きが読みたい私は再び漫画の世界に入ろうとした。


しかし、メイドの方から「準備が整いました」と声を掛けられた。




メイドは私を見ながら微笑むと、指をパチンッと鳴らす。


すると今まで座っていた椅子やテーブルが消えて無くなり、辺りの景色が回転を始め、瞬きをするようなほんの一瞬、光が走った。








「お待たせしました」



先程までいたメイドはいなくなり、代わりに

少女が1人立っていた。


少女は金色の髪に右目が青色、左目が赤色のオッドアイで、少しだけ頬を赤くしている。





「初めまして。私はマリー・アントワネットと言います」



「こ、これはご丁寧に・・・、私はアルネと言います」




椅子が急に消えたことで、空気椅子のような体勢になっていた私は、慌てて真っ直ぐ立ち、一礼しながら自己紹介をした。





「ふふ。その漫画、気に入ってもらえました?」



「えっ?」




マリーの視線を辿ると、私の右手に握られた漫画があった。

テーブルや椅子が消えた時、漫画を握りしめていたために、手元に残っていたようだ。




「す、すまない」



慌てて漫画を差し出し、返却の意思を見せると、マリーは優しい笑みを浮かべた。





「その漫画の世界に、転生してみませんか?」



「はい?」



「漫画に描かれているのは、これから起こる実際の世界です。そして、その世界は魔物によって多大な被害を受けます。何もしなければ・・・」



「魔物!?」





私の魔物という発言を聞いて、マリーは口元を隠しながら笑うと、何もない空間から紙の束を取り出し、読み始めた。





「アルネさん。享年80歳。元Sランク冒険者で最強の剣士。亡くなる80歳まで剣を振り続け、多くの人々を救った」



「そうか、私は死んだのだな」



「ええ。老衰ですが、多くの方に見守られながらの最後でした」





私は自分の手を見つめる。

皺ひとつない綺麗な手だ。


今の私はどう考えても80歳ではないが、確かに自身が死んだ時の記憶がある。

女剣士として生き、最後は私が救った大勢の人に見送られた。




思い出した同時に、先程まで疑問にも思わなかったこの白い空間は死後の世界で、目の前の少女は、きっと神なのだろう。






「正解です。正確には悪神ですが、神様で間違いありません。それで、アルネさん。先程読んでいた世界に、転生してもらえませんか?」



「・・・、やはり神なのだな。心を読まれるとは・・・」





神であるマリーは、クスッと笑いながら首を傾げる。





「転生いただけるなら、アルネさんが憧れていた魔法の才を授けますよ」



「な、本当か!?」



「ええ。あと、アルネさんは料理がまったくできないようですので、少しだけ料理スキルもプレゼントします。野営も増えるでしょうしね」




『料理スキル』はともかく、魔法に関しては柄にもなくこの場で飛び跳ねたいほど嬉しい申し出だ。


前世で剣の才はあったと自負しているが、魔法はどんなに努力しても使うことが出来なかった。





「ふふ。魔法、喜んで貰えたようですね」



「はい、感謝します」




魔法も使え、目的が魔物の殲滅であれば、転移することに微塵の迷いもない。





「転生、了承いただけたようで嬉しいです。ただ、こちらからもひとつ、条件というか、お願いがあります」





マリーの表情は変わらずにこやかだが、剣士として過ごした私の本能が反応する。

微笑みの奥にある大きな怒り、それは私に発せられているものではないが、決して抗ってはいけないと本能が告げていた。







「これから転生する国を、見捨てて下さい」










★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★



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