初めての町「バルトニア」 ②


音のなった方向を見ると、大男がぼろ布のようなものしか来てない女の子を蹴っていた。

女の子をよく見ると頭に角が生えていて、首には服装に似合わない無機質な首輪がつけられている。


「おい、さっさと片づけろよ。このくずが」

「……はい」


大男が女の子に命令している。

その周りにいる大男の取り巻きもゲラゲラと笑っている。

で、女の子は蹴られた場所をかばいながらも、床に落ちた食べ物を拾っている。

はぁ、異世界ってこういうのが普通なんだ……胸糞悪いなぁ。

周りの客も店員も見て見ぬふりをしている。


「はぁ……ちゃんと床まできれいになめろよ、くず奴隷。魔族には人権は無いんだから」


そう言って、大男は女の子を何度も蹴り始める。

見てられんわ。そろそろ止めに行くか。

そう思って立ち上がった瞬間、横にいたアザレアも同じく立ち上がる。

アザレアの顔は怒り狂っているように見える。

そりゃ魔族があんな扱い受けてたら魔王は切れるか。

そして、アザレアの怒りの度合いから、もしかすると今日が僕の命日かもしれない……


ただ意外にも、一番早く動いたのはロイだった。

ロイは蹴っている足を手でとめ、どのような顔をしているかわからないが、大男に話しかけている。


「すみません、この女の子を許してやってはくれませんか。あと、奴隷は禁止されているはずですし」

「あぁ?なんだ、このクソバトラーは。外野は黙っとけ」


大男は女の子を蹴るのをやめてロイの方を向く。

ロイはトーンを一段下げて、もう一度話しかける。


「もう一度お願いいたします。この子を開放してくれませんか?この女の子も痛がってますし」

「うるせえな、この町の長が魔族はどう扱っても良いって許可を出してるんだよ。それともお前が痛い目にあいたいのか?」

「……本当にこの町の長がそう言ったんですね?」


ロイの声色がみるみる下がっている。

何かの逆鱗に触れているようだ。

正直、横で怒り狂って見えるアザレアよりも怖さが勝っている。


「うっせえな。もうお前は黙っとけ!!!」


大男はロイに殴りかかる。

殴りかかって来た手をロイは片手で軽々と受け止める。

そして一言。


「とりあえず……お前ら全員死ぬか」


ロイが剣を抜く。

この時、ロイの顔が見えたが目が見開かれ、頭に血管が浮き出ていた。

どう見ても、ぶちぎれている。

あまりの切れ具合に、横にいたアザレアも少し落ち着きを取り戻していた。

っと、ヤバイ。このままだと本当に殺しかねない。

僕は叫んだ。


「ロイ!待て!!!」

「マスター、てめぇの言うことでも聞けないな。勝手にやらせてもらう」

「お前がそいつを切ったら、もしかするとその女の子も死ぬぞ」

「……どういうことだ」

「女の子の首元に首輪がついている。明らかに危険な香りがする」

「……」


ロイは女の子の首を見る。

その様子を見ていた大男が下卑た笑いを浮かべながらロイに話す。


「その奴隷はこの町からは出られない。なんたって、出たら首が吹き飛ぶからなぁ」

「なんだと!?」

「その解除はこの町の長しかできない仕組みになっているのだよ」


大男と取り巻きはげらげらと笑い始める。

僕は冷静さを取り戻していたアザレアに、こそっと話す。


「アザレア、すまないが、ロイと僕、あの女の子だけでも転移できないか?」

「この町で?それなら行った事ある場所しか行けないわ」

「了解。じゃあ、宿に飛ばしてくれ。あのバカが大男をぶった切る前に」

「わかったわ。今回はあの女の子に免じて特別だからね」


アザレアは詠唱を始める。

僕は女の子に聞こえるように大声で叫んだ。

「そこの女の子!手を頭の上にして小さくしゃがんで!!」


すると女の子は言った通りの対応をしてくれた。

これで安全に転移できるはずだ。


「マスター!準備出来たわよ!!」

「あいよ。店員さん、店荒らしてごめんなさい!またちゃんと謝りに来るから」


ロイは僕たちがやることに気づいたのか、大男に向かって尋ねる。

「おい大男、名は?」

「ドーズだ。まぁ、逃げる腰抜けのお前の名前はいらんがな」


そうドーズが言った瞬間、僕は光に包まれた。

この感覚、異世界に来てから二回目だ……

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