初めての町「バルトニア」 ③


気づくと、宿の泊まる部屋に帰っていた。

ロイは剣を構えたまま、アザレアは杖を握って、女の子は頭の上に手をかざして、しゃがんだままだった。

いや、本当に疲れたよ。ご飯食い損ねているし……。


「大丈夫か!!」


ロイは女の子に駆け寄る。

女の子は少しおびえながらも答える。


「……助けていただいてありがとうございます」


消えそうな声で返事をしてくれた。

ロイとアザレアはその返事を聞けて少しほっとしたようだ。

僕も胸をなでおろした。とりあえずは良かった。


そしてとりあえず女の子に自己紹介をする。

ロイとアザレアはさすがに勇者と魔王であることは隠して、

僕のお付きの人ってことになっていた。

いや、僕としてはこんな物騒なお付きの人とか嫌なんだけど。


ただ、アザレアはメイドになりきっているのか、お茶を入れて持ってきてくれた。

魔王にお茶入れさせるとか、勇者より先に椅子に座るとか、命いくつあっても足りない気がするけど、今は気にしないことにする。


「で、あなたのお名前はなに?私も魔族だから気にせず教えてほしいな」


アザレアはカチューシャを取って角を見せる。

なるほど。この世界では角を見せることで魔族って教えるんだ。


「魔族……だったんですね。その姿だったのでわからなかったです。私はマツリと申します」


マツリと名乗った女の子は頭を下げる。

僕たち三人も頭を下げた。

で、アザレアはずっと気にしていたことがあったのか、ロイに向かって話しかける。


「あんた、なんでこの子を助けたの?魔族でしょ?」


そうそう、僕も思った。

あの場で一番先にぶちぎれるのがアザレアだと思ってたから。

ロイはアザレアの方を見ず、マツリの方を見ながら答える。


「俺は……こんな悲しいことを許すために勇者になったわけじゃない」


何を言ってるんだ?意味が分からん。

アザレアも僕と同じく、意味が分からないのか変な顔になっている。


「憎しみあいの無い世界を作るのが、俺の……勇者としての目標だ」

「じゃあ、どうして私を殺しに来たの?」

「お前を殺せば、この人間と魔族の戦争を止められると思ったからだ」

「あんたは本当に馬鹿ねぇ……」


確かに馬鹿だ。そんな簡単に戦争なんて止まるはずがない。

アザレアも同じ意見なのか、大きくため息をつく。

ただ、どことなく顔は少し明るいようにも見えた。


「何が馬鹿だ!!」


ロイは顔を真っ赤にしながら怒る。

その様子をアザレアはクスクスと笑う。僕も顔はにやけていたが。

ただこの中で一人、顔が真っ青になっている人がいた。


「あの……間違っていたら申し訳ないのですが、あなた方は魔王様と……勇者様……だったりするのでしょうか?」


あっ、しまった。確かに話の流れでばれる。

隠せた時間としては3分程度か。

この時間……隠せたといっていい時間か?


ロイとアザレアも話していた内容を思い出し、顔を真っ青にする。

口がパクパクしているだけで声が出ていない。

二人とも、こういうのは弱いんだ。

とりあえず、二人に代わって話そう。


「ごめんね、言ってなくて。ロイは勇者、アザレアは魔王だよ。でもね、気にしなくていいよ。二人ともとっても優しいから」


安心させるために真っ赤な嘘をつく。

僕の頭の辞書の『優しい』っていう意味を書き換えないと。

その言葉を聞いたロイとアザレアも続く。


「ごめんね、俺は勇者もやっている」

「私も言ってなくてごめんね。魔王もやってるわ」


二人の言葉にマツリは目を見開く。

ただ、その顔はさっきよりは緊張が解けていた。


「いえ……少し驚いただけです。魔王様に……勇者様、お助け頂きありがとうございます」


マツリはかしこまってお礼を言いなおす。

ただ、魔王の方にマツリは寄っていく。

まぁ、魔族にとって勇者は敵か。


その様子をみてアザレアは笑い、ロイは少しだけショックを受けているようだ。

ただ、アザレアはマツリに向かって話しかける。


「マツリちゃん。ロイは今、ヴァルのバトラーだから怖くないわよ。だって、マツリちゃんを助けたのはロイだしね」


アザレアはそういうと、ニコッと笑う。

うわ。本当にやさしい。辞書の意味を書き直さなくてもいいかも。

その言葉がロイには嬉しかったのか、マツリに話しかける。


「マツリちゃん、俺は君を味方だから。勇者ではなく、バトラーとして約束するよ」


そして片膝を落とし、頭を下げてスッと手を出す。

いや、立派なバトラーじゃん。自信過剰な勇者成分はどこにいったんだ。

マツリは少し悩んだものの、その手を握る。


「……逃げてすみませんでした。よろしくお願いします」

「いえ、お嬢様。お気になさらず」


そう言うと、ロイもニコッとしてマツリに微笑みかける。

いや、本当に優しい。ここまで行くと、もはや怖い。


そして、その後はアザレアと共にマツリはボロボロの服を取り替えたり、お風呂に入ったり、ご飯を食べたりと色々やってもらった。

もちろん服を着替える所は見ていないが、奴隷として長かったのか、全身が傷だらけであることはすぐにわかった。


いつもは人とは関わるのを面倒だと思う僕でさえ、少し頭に来ていた。

別に、魔族であろうが人間であろうが、こんなボロボロにしていいはずがないと。


マツリは疲れ果てていたのか、ご飯を食べた後、すぐにベッドで眠った。

そして三人での会議が始まる。



「どうやって、この子を助けようかしら」

「とりあえず、この町の長を殴りに行こう。今すぐに」

「ハァ。ロイって思った以上に馬鹿ね」

「なんだと!!」


また喧嘩を始める。

ただ、アザレア知略的で驚く。初めて会った時はもう少し戦闘狂だと思っていた。

と、これ以上二人で話しさせると進まないから止めよう。


「いや、今回に限って言えば、アザレアの方が正しい。結局、どうやってあの子に付いた首輪を取るか考えないといけないから」

「マスター……いや、対等に話したいときはヴァルでいいか。長をとっちめればすぐに解決できるんじゃないのか?」

「確かに可能性としてはあり得るが……最悪、長を殺すと首輪が作動するタイプだったら、あの子も首から上が吹き飛ぶぞ」

「……」


ロイは黙る。

これまで、ロイはボコボコにして物事を解決してきたタイプだったのかもしれない。

まぁ、一応フォローしておこう。


「僕は面倒事が大嫌いだ……。けど、今回の一件は、内心ではぶちぎれているよ。その点ではロイと同じさ」

「……ありがとう」


ロイから感謝の言葉が出る。少し恥ずかしい。

アザレアはじれったくなったのか、僕に聞いてくる。


「ヴァル、そしたらこの後はどうするのさ。何か作戦でもあるわけ?」

「無いね。情報があまりにも足りなさすぎる。さすがにロイは暴れすぎて顔が割れているから、僕とアザレアで情報収集、ロイはマツリちゃんのボディーガードってところかな」


正直言えば、僕がのんびりとこの宿でマツリと話していたいと思うものの、状況が許してくれないからなぁ。


「了解。それでいこうかしら。ロイもそれでいいわよね?」

「俺もそれでいい。この子のためなら何でもする」

「オーケー。ただ、この場所がばれるのも時間の問題だから、三日ですべて片づけるぞ」


僕はそういったものの本当に妙案が出るか、自信がない。

ただ、このベッドで寝ているこの子を助けるためなら……頑張るしかない。


翌日から僕とアザレアは別行動にて情報を集めた。

僕はこの町の酒場や役所などを比較的、平和なところをめぐる。

アザレアは裏路地や長の周りなど、危険な所で情報を集めた。

ロイとマツリは宿から一歩も出ずに、僕たちから食料などを得ながらじっとしていた。


そして三日後、同じ宿にみんなが集まった。

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