【KAC20235】FIGHT FIGHTER 2023【筋肉】
なみかわ
第1話
「ここはどこだ……」
教室にいたら突然窓から強烈な光がさしこみ、気が付くと砂漠の真ん中にいた。俺は学生服姿でぼうぜんとしていた。
『これから”判定”を行います』
さらに突然、真っ青な空から声が聞こえてくる。何も見えない。これはもしかして、はやりの異世界転移ってやつか。となると、これから俺のステータスの見分がはじまるのか。--いくつか読んだラノベのあらすじを思い出す。
『田中 一郎、17歳、市立第三高校2年B組。初期ステータス、知力6・体力6・時の運6』
この世界でのステータスのパラメータが告げられ、目の前に勝手に開いた下敷きみたいなウインドウに表示される。開け、閉じろと念じるとその下敷きは出たり消えたりした。
『貸与アイテム』
アイテム?
『常闇のフラッシュブレード』
なんだか強そうな名前だ。ひゅうう、ざっ。頭の上から砂にそれは着地した。『常闇のフラッシュブレード』という割には長い剣には見えず、キャンプで使う手提げタイプのLEDランプ、ランタンみたいなかたちで……持ち上げるとちょっと重く、ごつい装飾があり、中央の電球があるあたりに……眼、眼球。
「……うわあああ!」
「投げるな!!」
「…………うわああああああ!!!」
気持ち悪くて手を放そうとしたらそこから弟くらいの年の声がしてまたびっくりした。
「お前にとってたったひとつ、生きるか死ぬかが決まるアイテムなんだからな、ボクは!」
生きるか死ぬかが決まる? なんだって?
『以上です。グッドラック』
そして『天の声』は消える。グッドラックって、なんなんだ?? 脳の整理がつかないまま、ドシャっと、前方で落下音がした。それは大きな石造りの扉だ。砂漠はどこまでも広がっているから、あの扉くらいにしか現状を動かすヒントは無いだろうと、僕は奇妙なカンテラを片手に歩いた。
しかし数歩進んだところで、後方でもう1回、ドシャリという音がする。怖いけど振り向いてみると、無双ゲームとかにいかにもいそうな、筋骨隆々の男がニヤニヤしながら立っていた。その左手には……斧。
「ヒャッハー!! 順調すぎて涙が出るわ! 今回もわしの勝ちじゃ!!」
何が順調なんだ? 俺の疑問には、あの目玉が、きょろきょろ動揺する俺を知ってか、説明を始める。
「さっき言っただろう、生きるか死ぬかが決まる、って! この扉をくぐりネクストステージに行けるのは、ひとりだけだ」
「……は?」
何がどうなっているかまだわからず、俺は何回かあの下敷きウインドウを開いたり閉じたりした。どうもあの男のステータスも表示されるようだ。
『ボルフガン=クラウザー、33歳、傭兵。知力7・体力255・時の運64・貸与アイテム:レジェンドトマホーク』
そういえば手斧の種類にトマホークってあった気がする。……いやそんなのはどうでもいい。とりあえずここまでの情報をまとめると、
・扉をくぐるとよい。
・しかし通れるのは一人だけ。
・下敷きウインドウには「勝利条件:筋肉」と記されている。
・たぶんじゃんけんでは通してくれなさそう。
・相手は手斧もちで、俺は目玉の入ったカンテラしかない。
ということになる。
……詰んだ。
「どけ!! ネクストステージへ進むのは、このわしじゃー!」
格闘ゲームのラスボスの勢いで、おっさんは全力でトマホークをふりかぶる。腕、ぱっつんぱっつんなんですけど。ああ、俺、斧で死ぬんだ……あきらめて目を閉じた時。
”ビュゴッー”
砂の空気じゃない、異様な、冷気のにおいがした。
右手に持っていたアレが、ひゅっと紫の霧を吹いている。
目玉が……一瞬俺の方に「まかせとけこんなやつ」とでも言いたそうに、向いた気がした。
「うりゃー!」
「……」
おっさんの息がかかりそうなほどの距離。だが、ぎりぎりのところで手斧が止まる。明らかにあいつ--目玉に、驚いている様子だった。
「ふっ、人ごときがボクに勝てると思ってるなんて、あさはかだね。この筋肉勝負、もう決着はついている」
目玉は自信ありげに叫ぶ。
「上斜筋・下斜筋、上直筋・下直筋!! そして内直筋・外直筋!!! ボクを取り囲む6つの筋肉は最高に鍛えてある!!」
「なんだってぇえええー!! 6つも?!」
男は手斧とともにその場にくずおれた。
ぎい、と扉が開く。
その光の導くほうへ、俺はすすんだ。これから何が待ち受けているか、全くわからないが……なぜか右手に提げている目玉……『常闇のフラッシュブレード』といれば、もう少しはなんとかなりそうな気がした。
「なあ、腕にも、何種類か筋肉あるよね?」
「さあな?」
【KAC20235】FIGHT FIGHTER 2023【筋肉】 なみかわ @mediakisslab
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