わたしのなかの筋肉像

@chauchau

いざや、赴け。それいけ、僕らはみんな筋肉だ。


 地球に巨大隕石が激突すると発表されたのが三日前のこと。予測では一ヶ月後に隕石は地球に激突し、地球は滅びる。

 すべての国のトップが集まり緊急会談が執り行われたが、一日、二日と経過しても地球を救う手立ては出ない。三日目の朝に、某大国のトップが秘密裏にロケットで地球を脱出したことが判明すると会談はますます混沌を極めた。もはや子供の喧嘩の如き罵詈雑言が飛び交うなかで、この三日間で一度も発言を行わなかった日本の首相が口を開く。


「筋肉しかあるまい」


 彼の発言に興味を示すものなど居ない。はずだった。

 彼が服を脱ぎ捨て、その肉体を披露した途端、世界が震撼した。なんと見事な上腕二頭筋、麗しきは下腿三頭筋、どこまでものびよう肛門筋。

 スーツという拘束具を放り捨て、彼の肉体は三倍にまで肥大する。ああ、筋肉。これぞ筋肉。

 世界が一つとなったのだ。あり得ないはずだった未来を、筋肉が勝ち取った。残された時間は短い。だが、ゼロでなければ筋肉を鍛えることはできよう。鍛え抜かれた筋肉に、不可能などはないのだ。


 80億の人間が筋肉を鍛える。まさに筋肉フェスティバル。いざや求めよ、筋肉を。マッスルマッスルウッハッハ。

 隕石は海に落ちることが判明した。無論、筋肉による探知筋肉だ。足場がないことなど問題ではなかった。1億の筋肉が立ち泳ぎしながら円陣を組むことで、円の内部には筋肉力場が誕生することは自明の理である。1億の筋肉が79億の筋肉を支える。これはまさしく筋肉による筋肉のための筋肉タワーであった。


 手のひらを太陽に。

 ミミズだってオケラだって筋肉だって生きている。ああ、僕らはみんな筋肉だ。いくぞ。それいけ僕らはマッスルマッスル。はい、マッソォ。


「んんんはっ! マアァァソォォォオ!!」


 首相の筋肉が吠える。共鳴していく79億の筋肉に、不可能なことなどあるまいて。さぁ、いこう。筋肉の明日へ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしのなかの筋肉像 @chauchau

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ