第8話 雷電国家 武蔵ノ国編 脱出

上条は優しく、「じゃあね」と言い、引き金に手を当てた。エリルの頭の中にはこの危機的状況を回避するために、走馬灯が浮かび上がっていた。しかし、無惨にもそこから得られた回避方法は無く、刻一刻と死への秒針が進んでいった。仮にエリルが上条だった女からの初弾を回避できたとしても、周囲にいる刺客から打たれて終わり。助けを呼ぼうにも、入り口までは遠く、真っ直ぐな通路しか無く、弾丸を回避しながら行くのはほぼ無理。エリルは死を一瞬覚悟したが、ローレン国に待たせている家族のことを思いだし、銃を前にしても、決して死んだ目をしなかった。


しかし、そんな抵抗も虚しく刺客の女が引き金に力を入れた。その瞬間、エリルは無意識にも(助けて!!!)と強く願った。


それと同時に、エリルのつけていた指輪が光ると、閃光手榴弾と同じように、強い光と鼓膜を破るような音が響き渡ったが、エリルには害がなく、刺客たちが目を覆っている者もいれば倒れている者もいて、女はモロに喰らったが、意識は保っており、目を塞いでいた。


エリルは一瞬のことで呆然としていたが、(チャンス!)と思い、刺客たちが起き上がる前に、助けを求めるために一本通路となっている廊下を駆け、道後温泉の入り口へと走った。入り口まで死ぬ気で行き外の光が見えた時、エリルは希望に満ち溢れた矢先、刺客の元上条が起き上がりエリルの後ろまで恐ろしい速さで追いつき、エリルの後頭部に銃口を突きつけ「いや〜 びっくりだよ。まさか、あんな小道具があるなんてね」と軽い口調で言った後、低い声で、憎悪のこもった声で「死ね」と言うと同時に引き金に力を入れた。


その時、入り口方面から「その子から離れろ!!」と警察と思わしき服を着た人物3人が刺客に銃に向けていた。刺客は舌打ちしながらそのままエリルを撃とうとしたが、それよりも速く警官が刺客の両肩を打ち抜き、刺客の手から銃が落ちギリギリのところでエリルは一命をとりとめた。


その後、刺客はその場から逃走し身柄を確保するために警官3人は刺客の女を二人が追いかけ、残りの一人はエリルの保護をした。エリルはあまりの出来事に困惑していたが、警官に「中にまだ。銃を持った人たちがいます。助けてください」と弱った声で必死に助けを求めた。警官は救急車と応援を無線を通じて呼び応援が来るまで、周囲の人達を避難させた。応援が来るとすぐ警官が大勢降りてきて、縦を掲げながら建物に突入していった。


エリルはどっと、疲れが出てその場に座り込んだ。座っている間以上に頭がクラクラし救急隊が来た頃にはエリルは気を失ってしまっていた。









次にエリルが目を覚ますと病院のベッドの上にいて、辺りはすっかり暗くなっていた。時間を見ると23時。6時間程度気絶していた。起きるとすぐに警察手帳を掲げながら二人の男がエリルに近づいてきた。片方は年齢が50代前半でコートを羽織っている男。そしてもう一方は30代後半くらいのスーツを着た男性だった。


「単刀直入に申します。あなたはローレン国の人間ですね」


エリルはギョッとした。自分がローレン国ということがバレてしまったらこの国から退く必要がある可能性があるため、エリルはとても怯え始め、何も答えず下をうつむいたままであった。


「沈黙ということはそういうことでいいんですね」と男が言うとエリルの怯えた様子を見かねた30代半ばの男性は「先輩! 威圧感出しすぎです!! 相手さんが怖がっていますよ」と50代の男性に叱りつけた。


「あぁ、すまん。言葉を柔らかくしたつもりなのだが」


「もう、先輩は黙っていてください!」その男は一息置いた後、エリルにやさしい口調で言った。


「怯えないでください。何も、あなたを国に強制送還するわけでも、逮捕するわけでもありません。ただ、事情聴取をしたいだけなんです。武蔵ノ国の国外入出記録を見たのですが、どこにもあなたに関する情報はありませんでした。しかも、あなたが最初に発見されたときの状況は女性に銃口を突き付けられた状態。そして、あなたの髪色。それを含めて考えるとあなたはローレン国の人間ではないかと我々は考えました。普通ならあなたは強制退去ですが特別措置としてビザを発行してもらおうとしましたが、名前がわからないので発行するにもできない状態が続いていたんです。ですのでまず、お名前を聞かせてもいいですか」


優しい問いかけに誰もが安堵するだろうがエリルは疑問しか持てなかった。無理もなく、優しく近寄り善良なエリルの心に付け入られた挙げ句、命まで消されそうになったのだから。そのせいでエリルは彼らの質問に口を開くことは出来なかった。男たちは顔を向かい合わせて難しい顔をした時、病室のドアを開ける人影が一つあった。


その音に気づき50代の男はドアに近づいた。そこにいいたのはスーツ姿を来ていた60後半のおばあさんであった。50代の男は不思議に思い「ばあさん。ここは人の病室だぞ。なにかあったのか?」と聞いた時、おばあさんの後ろの方から「防衛大臣!! また勝手に行動して!! どこかに行くときは必ず私を介してください!!」と走りながら風貌の若い女性が走ってきた。50代の男は驚き「え、防衛大臣? 防衛大臣がここに何の用だ」と聞くとおばあさんは「ローレン国の人間がいるって情報を聞いてね。一度話を聞いてみたかったところだから来たのだよ」


50代の男は「どっからそんな情報を…… いつもだがお偉方の情報源はわからん」と呆れるように言った。おばあさんは「さぁ、通してくれるかい?」と尋ねたが50代の男は「防衛大臣と証明できるものは? 彼女をまた危険な目に合わせるわけにはいかない」といった後、防衛大臣の秘書と思わしきズボンを着たスーツ姿の女性が男性に防衛省の身分証明書を渡した後男は彼女らを通した。


エリルの目の前におばあさんが映ると、エリルは驚き「あ―――!!!!」とおばあさんに指差しながらアイツだ!という感じで大声を上げた。おばあさんの方はと言うと「おやまあ」と口に手をかざしながら驚きの表情を見せた。30代の男性は「どうしたんですか」と聞くとエリルは「あ、あのときの!!!」と言った。おばあさんは「あなたがローレン国の人だったのね。今朝喫茶店であったばかりだけれども、改めて。こんにちはお嬢さん。私は山田 永 と申します。生業として雷電国家、防衛大臣を務めさせているわ。よろしくね」とさらりと言った。エリルは驚きながらも自分の名前と出身国を言った。その後、エリルは真剣な顔に戻りあばあさんではなく、防衛大臣としての永に全てを打ち明けた。


「私はローレン国からやって参りました。ローレン国の階級制度撤廃のために、雷電当主を協力者にしたいのです。どうか、お力を貸してください」と、真剣に言った。


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