第9話雷電国家 武蔵ノ国編 防衛大臣
防衛大臣はエリルの言ったことに少し驚きの表情を見せながらも、深く考え込んだ。そのあと、さっきまでの優しい声とは別で、厳しく、そして何かを試しているような厳格な声で「私の力では雷電当主を協力者に誘い込むのは無理です。あくまでも私の立場で持っている力は、防衛に関することのみ。それを知っての言葉ですか?」
エリルは真剣な表情と声で「はい。ですが、雷電当主を協力者に引き込ませるのは私が話し合います」
「なるほど。それでは、どのような算段で雷電当主を協力関係に引き込むつもりなのか、細かく教えなさい。話はそのあとです」
エリルはその言葉に絶望ではなく喜びを感じていた。夕方に出会った刺客の女はエリルの算段を何も聞かずに、口軽に雷電の話し合いの場所を用意するとエリルを誤魔化した。しかし、今回の防衛大臣は算段を細部まで聞いてから判断すると、信頼ある言葉と風格で語ってくれた。エリルはおばあさんを防衛大臣として認め、汽車を除くことの全てを話した。ローレン国での全てを。策略の算段を。おばあさんは真剣にエリルの話を聞き続けた。エリルが話を終えると、おばあさんは「お前さんの算段はよくわかった。しかし、勝算のある策略とは言えない。雷電当主は厳格なお方だ。雷電当主にローレン国出身のお主しか知らない情報かつローレン国に大打撃を与えるような情報を持っていないと雷電当主を協力者にするのは難しい」
おばあさんの言葉にエリルは絶望の顔をあらわにしたがおばあさんは「慌てなさんな。まだ話は終わってないよ。勝算が全くないとは言っていない。もう一度計画を練り直して。主軸となる計画は悪くない。私とほかの大臣の力を合わせたらできるでしょう。私の友人の美鈴に聞いてみるわね。彼女だったら協力者になってくれるはず」
そういうとおばあさんは電話を掛けに部屋を後にした。エリルは事の進展の速さに追いつけずに放心状態になっていたがおばあさんが協力し、ほかの協力者も集ってくれるということは分かった。そのあと2時間程度経過し、夜も深まってきた。エリルさっきまで行われていた事情聴取を終え、何とか掲示から信用を勝ち取った。くだんの刑事は警護目的でこんばんはエリルの付き添いをしてくれることになった。その時エリルがふと、窓を見てみるとエリルは顔色を失った。大層目の良いエリルが見たのは幽霊ではなく、向かいのビルの屋上からスナイパーでエリルのことを狙っている狙撃手を。エリルはベッドから落ちる勢いで物陰に隠れ、部屋の皆に「スナイパー!! 病室から逃げて!」と大声で叫んだ。
それと同時に弾丸が窓を貫通し物陰にしていた棚を貫通してエリルの頬すれすれを通過した。これで終わりかと思ったが、窓ガラスを突き破り一人の高身長で黒い服に包まれた男が入ってきて手にアタックナイフを持ちながらエリルに突進してきた。エリルは茫然としてしまい動くことができなかったが、警護目的で残っていた刑事がエリルにナイフが突き刺さる前に侵入者の腕をつかみ捻じ曲げナイフを男の手から離させた。侵入した男は腰に携帯していたナイフを取り出し刑事の腕に刺そうとしたところを刑事は避けたあと、侵入者は刑事に拳銃を向けたがそれに怯むこと無く刑事は侵入者に強烈な回し蹴りを入れて侵入者は「ぐはぁ!」と声を出しながらナイフを落とし壁に激突した。30台の男は侵入者が壁に激突したのと同時に手錠をかけ、侵入者を制圧した。そのあと、30台の男は無線で応援を呼びビルの上にいたスナイパーの追跡を要請した。
エリルは力が一気に抜けて脱力した。エリルは緊張のせいで気づかなかったが、エリルの頬をすれすれで通過したと思われた弾丸はエリルの頬を少しばかり抉っていた。今になって頬周辺がとても熱く感じ激痛が走り、頬から大量に出血していた。その様子を見て掲示たちは急いでナースコールを鳴らし、ベッドの毛布で患部を抑えた。そのときに意識を失い、次に目が覚めると、防衛大臣ともうひとりの若い女性がエリルを囲うように座って看病していた。体を起こすと同時に右頬からズキッ!!と痛み、触ってみるとガーゼが患部全体を覆っていた。その時、防衛大臣がエリルに話しかけていて、「大丈夫かい? 安心して、侵入者はもう確保したから。それと災難だたわね。あんなことが起きたなんて。安心して侵入者はもう逮捕したから」と心配そうに言った。その後、「それと、協力者を引っ張って来たわよ」と防衛大臣が言った。
「こんにちわ。私は法務省公安調査庁長官。胡桃 澄。時間が少ないから早めに話しますね」
事の成り行きの速さがロケット並である。
「これは機密情報だから絶対に他言しないこと」
エリルは少し不思議に思い「どうして、私にそんな話をするの?」
「防衛大臣、刑事さんからいろんなことを聞きました。そこから判断してあなたは信用に足る人物であると」
「今ローレン国には私の部下が3人侵入しています。指定危険国家なので。名前は伏せておきますが、それぞれ王権、貴族、労働に侵入させています。各々情報収集をしていますがアイリッシュは用心深いせいか、なかなか有益な情報は入っていません。そこで、お願いがあります。公安調査庁はあなたに全力で協力、警護します。その対価として、ローレン国に関するあなたが持っている情報をすべて提供、及び雷電国家までの脱出ルートを教えていただきたい」
エリルは公安調査の長官の最後の言葉を聞いて、心臓が波打ち、嫌な汗が流れた。ローレン国に関する情報提供は何も問題はないが、問題は脱出ルートの方だ。口が裂けても、不思議な列車で空から降りてきたなんて、言えるわけない。そんな事言ったらやばいやつだと思われて、一気に信用を失う。かと言って、存在しない脱出ルートを言おうものならそれもまた信用を失いかねない。エリルは完全に板挟み状態になりエリルは長官からの言葉を何度も頭の中で繰り返していた。エリルは長官との取引に返答する前に一つ質問をした。
「あの、私を襲った犯人は全員ローレン国の刺客ですか?」
「そうです。おそらく全員ローレン国出身で、一部の人間は元軍人でした。それが、今回逮捕した侵入者です。彼らはあなたのことを殺そうとしています。ですので、雷電国家にいる間、ずっと警護させてもらいます。して、協力を承諾していただけますでしょうか」
長官がエリルにもう一度お願いを出すとエリルは深く考え込んでしまったが、何かを決心したかのように顔を上げ、長官に条件付きで返答した。
「わかりました。協力します。ですが、一つ条件があります。私の持っている情報すべてを提供する代わりに、雷電当主との面談する際に、公安の長官であるあなたと、防衛大臣に同席していただきたいのです。私の境遇をこの国で一番理解しているあなた達に」
エリルの返答に長官は笑顔で答えた。
「ありがとうございます!」
「あ、でも、脱出経路は今は教えることは出来ません。約束があるので」
「そうですか。でも構いません。一番欲しい情報が手に入れられましたから」
その後、エリルは長官に今までの境遇を一部抜粋しながら話した。一通り話し終わると立ち上がり、エリルに一礼したあと、「私はこれで失礼します。このあと警護SP4人をすぐに派遣いたします。それでは」といい部屋を後にした。
長官が部屋を去ると防衛大臣は「後、雷電当主の訪問会は今回中止になったわ。でも、安心して。その空いた時間分、あなたとの会合の時間を設けてもらったから。時間は明日の午前8時からよ。場所は事前にその携帯に通達するわね」と机の上においてあるスマホを指さした。エリルはスマホを取ろうとしたがそのすぐ側にあった説明書が気になりまずはじめにそれに目を通した。序盤は細かい説明などが書かれていてごく普通の説明書出会ったが、終盤の説明書きには「このスマホは法務省の管理するサーバーで通信が全て行われます。くれぐれも落としたり紛失することの内容にご注意ください。そして、電話を通しての会話の際、スマホ上部にあるボタンを推してください。周囲から会話が聞き取られなくなります」と書かれていた。エリルは説明書を読み終えた後スマホの電源を起動し、あらかたの操作を習得した後、防衛大臣に話しかけた。
「あの、今回の件。ローレン国側はどんなふうに言っているのですか」
「そうね。今回の件はあなたの存在が知られている以上、私達も下手な行動には出られないの。知っているでしょう。あの国から出国することはあっちの国では死罪であると。昔、私が防衛大臣になりたての時、ローレン国の人たちが脱出してきたことがあって我々が保護していたんだけど、ある時何者かが彼らを殺してしまったの。おそらくはローレン国の人間ね」
「そんな。ローレン国はこの国にどのくらい潜伏しているのですか」
「私達が今回逮捕したのは21人ね。それを考えると1000人近く潜伏していてもそうおかしい話では無いでしょうね。それと、今回、あなたを襲った人を逮捕したことでローレン国から非難が出ているの。今回の逮捕に関する事案は不当なことであり、強く抗議する、ってね。それと、今回の事件に関することかどうかわからないけれども、同じ弾丸で撃ち抜かれた死体が2人見つかったの。警官の数を今数倍動員して、パトロールに当たってもらっているのだけれども、あなたは傷が癒えても、ここから出ないでね」
「…………ごめんなさい」
エリルは防衛大臣の話を聞いた後、黙り込んでしまい、目に薄い涙を貼った状態で言った。その様子を防衛大臣は優しく見守った。その時、電話が鳴り、エリルはビクッ!と、電話に出てみると、相手は雷電当主であった。エリルは安堵しながら防衛大臣に雷電当主が電話相手であることを告げると、防衛大臣は血眼になり、エリルのスマホの電話を切り、電話を破壊した。防衛大臣は急いで自分の携帯を取り出し、公安調査庁の長官と警察に連絡を入れ、ドアを締めた。エリルはその様子に怯えながら「ど、どうしたのですか」と聞くと、防衛大臣は真剣な顔と怯えた顔を入り混じった表情で「雷電当主は法務省のサーバーに入って電話することなんて出来ません。それかつ、雷電当主は重要な人物と話す際、絶対に電話を使いません」
エリルは防衛大臣の言葉で冷たい汗が出た。エリルは昨日のことを思い出して窓の方を急いで振り返ったが、昨日見たくスナイパーは無かった。するとその時廊下の方から足音が聞こえ、エリルは布団にくるまり身を必死に隠そうと無駄な抵抗をしながら震えていると、病室のドア方面から声がした。エリルは恐怖が限界値まで達し、失神寸前にまでなった時、防衛大臣が優しく「大丈夫ですよ。あなたの味方だったらしいです」と言い、恐る恐る布団を外しドアに立っている人を見た。
「君がエリルか。私は雷電国家第7代目当主、雷電恭二」
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