第10話 連休とユイ

あっけなく時間は過ぎた。明日から連休だ。僕は月、火を有給休暇申請。うまく取れた。4月29日から9連休だ。ただし5月1日、2日は平日。長崎支店に顔を出そうと思っている。デスクのPCを閉じ、「お疲れ様。」みすずだ。「ナダ、長期連休とってどこか行くの?」ついてくる気がして僕は嘘をついた。嘘ではないが「長崎。支店で、ちょっとやり残したことがあったんで。まあ、半分は仕事かな。」みすずはつまらなさそうな顔で「なーんだ。仕事か。私、暇だからついていこうかな、って思たんだけどやめた。休みの時まで仕事はごめんだわ。」僕は、すかさず、「急に転勤決まって、こっち来たからさ。」みすずは、疑いもせずにあっさり引いた。彼女は仕事ができるタイプだ。プライベートと仕事の時間をはっきりさせている。休みに仕事をするタイプではない。「じゃ、お土産ヨロシクね。ナダくん」「おう。」僕は片手を上げて会社を出た。「コツコツコツ。」足早のヒールの音。「ナダ君、待って、ナダ君。」ユイが追いかけてきた。「みすずに聞いたんだけど、長崎支店に行くの。私も行っていい?」僕は嫌だった。がしかし口から出たのは「いいよ。明日7:25羽田発。」「朝、7時か、ちょっと早いけど。じゃ、明日。」連休の初日、飛行機も予約でいっぱいのはずだ。無理かもね。僕は脳内で僕に会話した。「連休だし、これからじゃ飛行機取れないかも。」「無理な時は連絡してくれ、じゃ」僕は、どちらでもいいと思った。ユイがついてきたければ、ついてくればいいし。もし、ついてきたら長崎は僕のフィールド。時間空間もいくつもある。悪い境界線人を消滅させるには良い場所だ。僕は脳内の僕に”一つ仕事が増えたが楽しみだ。”悪い僕が僕にささやいた。翌朝、僕は羽田にいた。7:25搭乗だ。少し早いが6:45に僕は到着した。そして5分遅れで僕の携帯にメッセージ”あと5分で第一ターミナル到着です。”ユイからだった。”来るのか。”僕の手で消滅させることなく自爆タイプの境界線人だと思っていたが、まあ、いいか。悪い境界線人から引き出さるだけの情報をいただくとするか。僕の脳内の僕は、昨日から悪い僕のままだった。同僚との小旅行ではなく、”人間でも境界線人でもない僕”と”悪い境界線人”との駆け引きがはじまる。「7:25長崎行のお客様は搭乗手続きが始まります。8番ゲートよりご搭乗くださいませ。」アナウンスがはじまった。僕とユイはゲートに並んだ。予想通りに空港は混雑していた。列が長い。家族連れ、グループ。「ボン。」子供が背中にぶつかった。母親らしき声で「すいません。子供がぶつかってしまい。」僕は母親の声に「大丈夫ですよ。」と振り向かず前の列に進んだ。瞬間"黄色の春草野の匂い”僕はとっさに振り返り探した。人、人、人。”菜”君だったのか。姿が見えない。ユイが僕を呼ぶ「ナダ君、列進んでるわよ。」「おう。」僕は答えた。”菜”怒らないでくれ。僕は悪い境界線人を消滅するために長崎に向かっているだけだ。早く姿を現してくれ。”菜”君の手がかりがほしい。

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