第8話 休日
休みの日はあえて遅く起きることにしている。僕の脳内会話。楽しむことにしている。ゆっくりベットの中で昨夜見た夢の分析をする。見たい夢も見ることもできる。僕の特殊能力だ。それに、なずなと会って以来、とてもリアルな夢が多い。しかし、いつも肝心なところが欠如する。人間ではない、別の何者かの僕でもそのあたりは、普通の人間と変わらないらしい。特に休日はこの夢分析脳内会話で、すぐに昼を過ぎる。今日は久しぶりの雨だ。春の静かな雨音は心地よい。部屋がグレー色にフィールターが掛かる。僕には落ち着く色合いだ。昨夜の夢は、みすずと、もう一人、昨日と同じ、ご飯屋で楽しく食べて飲んでいた。女?いや男だったが顔が見えない。みすずと同じ境界線人のようだ。「助けてー」と若い男子が店に飛び込んで来た。「わあー食べられる」彼は、人間だ。とっさに僕は店の外に出た。おぼろの靄が立ち込めていた。靄の中に長い黒髪が、見えた気がした。時間差でみすずが、僕を追って店の外へ。靄だけが薄く残る。「ナダ、何この靄。」「さあな、何か、いたんだろう。」僕は長い黒髪を見た気がしたが、あえてみすずに言わなかった。僕の脳がそう指示した。店の中に戻り、もう一人の。もう一人は。ここで僕は目を覚ました。なんと中途半端な夢なんだろう。しかし、とてもリアルな夢だ。感覚も残っている。今日は、ここまでだ。特に脳内で解説することもない。僕は窓の外を見た。雨はまだ降っている。昼過ぎか。腹減ったなあー。コンビニにでも行くか。僕は雨は嫌いじゃない。むしろ好きなくらいだ。薄手のジャンパーを羽織、ビニールの傘。僕は部屋を出た。正面エレベータが8階、僕の階で止まっている。welcomされているようだ。物事が進むときは、すべてがつながっていく。僕は待たずに乗り込む。スムーズだ。マンション玄関一歩踏み出す。傘をさす。傘に雨音が落ちる。いつもの景色に薄い白い靄がかかる。僕はそのぼやけた中を歩いてコンビニへ。すれ違う人は、別段変わりない。いつもの雨の日だ。僕だけがこの不思議な感覚を感じながら薄い靄の中を歩いている。僕のラッキーはいつも雨の日だ。小さいときからそうだ。この不思議な感覚。何か。何かが。僕に向かってきそうな感覚。びしょぬれでもかまわない。傘にまっすぐに落ちる雨。期待したもの何も起きなかった。僕は大通りにでた。雨の休日、日曜日。意外と人は歩いている。車も小さな水しぶき上げて走っている。コンビニが見えてきた。「ナダ君。」僕を呼ぶ声。”来たー。”僕は振り返った。佐々木ユイだ。”なんでお前なんだ。”一番会っちゃいけない奴に会ってしまった。「14時間前に会ったばかりなのにね。会うなんて、もしかして、私達、気が合うのかもね。」僕はあっさり「そう?」ユイの言葉をスルーした。関わりたくない。しかし相手も僕を警戒している。人間でないことはバレていない。僕は彼らと違ってより人間に近い。彼らは気づいていないが境界線人は匂いが無い。人間はある。佐々木ユイには匂いが無い。境界線人だ。そして悪い境界線人だ。これも偶然じゃない。仕組まれている。早く離れないと。僕はコンビニの中へ。サクサク買い物を済ませ。「じゃ。」ユイは少し焦っていた。わからないが離れよう。僕の脳内が危険を点滅させる。「じゃ。」「えっ。じゃ。」短い挨拶文で僕はその場を離れた。振り返らず僕は家へ向かう。途中神田川沿いを歩いていた。雨が少し強くなる。靄が少し出てきた。濃い靄が僕をやさしく包みだし。靄の中に影が。「待って。君は誰?」言葉を発した瞬間。靄はスーッと薄くなり、消えていった。”菜”君。微かに ”黄色の春草野の匂い” がした。
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