第10話 魔女は嵐の如く街を去る
彼等は私の言葉の重みを理解したようでその後は言い返す事もなく私をスノウズの街へと案内してくれた。ハルを抱いて
無事にスノウズの街の門前までやって来た偵察パーティーと私は門番兵に早速目を付けられる。門番兵の目は驚きに見開いてどういう事だとリーダーの男を問い詰める。彼は事情があるの一点張りで訳を話さない。私の要求が効いているのだ。
訳を聴けぬまま魔王と認識している私をチラりと見やるので睨んでやる。それに恐怖して中々通してくれなかった方も顔を俯かせて通行を許可した。口外せぬようにと【金生成】の金貨を渡した。
街に入れば開口一番に魔王という言葉が飛び交い女子供は逃げ出し、働く男は適当な木棒を構えて武者震いしている。皆私に手を出す事はなく、勇んだ男達には無防備の偵察パーティーの方々が情けない顔をしてその場を収めた。
私の目的はただ一つで
周りの様子を見ていた男性店主は魔物を抱く女を非常に気味悪がった。だが客として丁重に接客をしてくれたのだ。
「本日はどのようなお召し物をお探しで?」
「金貨三枚以内で服を貰います」
前払いにと三枚の金貨を店主が立つ会計机に置いた。店主は目の色を変えると太客に接客する態度にこの世界の商人というのは強欲的だと感じる。
「アナタ様のような美麗な方にはこちらの商品はどうでしょう!どれも丈夫な布ですよ」
そんなに自慢なのか生地の手触りを勧められる。試しに触ってみれば確かに今着ている葉衣よりも遙かにしっかりとしており、より丈夫な繊維を指で感じる。
「この服が欲しいですね、これはいくらですか?」
「はい、銀貨2枚と銅貨3枚です」
金貨はやはり価値のあるものだというのは理解していたが、どれくらいの価値なのかまでは分からなかった。欲しいと思った服でさえ安いのだと思えてしまう値段に頬が引きつりそうになる。
「……では、この服をあと数着と靴を一足分、合わせて金貨三枚分頂きたいのですがよろしいですか?」
「はい!ありがとうございますう!」
店主は奥から店頭に並んでいる民族系の刺繡があしらわれたワンピースを十着と残金で靴底の高いシンプルなデザインの革靴を揃えて貰う。購入した物は麻袋に入れてもらい一時的に自分の手で持つ。
用が済んだ私は待機してもらった無防備な男達と別れる為に誰も使わないような空き家もしくは陰間はないかと言えば冒険者ギルドが直接卸す解体業者の作業場倉庫を間借りする事にした。
先程通り彼等を扉前に待機させておきその間に【アイテムボックス】にて回収した彼等の武器装備、アイテム等全てを取り出して作業机の上に置いていく。
『ハル、ここにはもう用は無くなったから森に帰ろうか』
『かえル、うん』
誰も居ない事を良い事に私は葉衣を脱ぎ捨て購入した赤がベースの長袖ワンピースに袖を通して窓を開ける。
『ハル行くよ』
『うん』
開いた窓から飛び出して倉庫から逃げ出す。靴を手に入れた分しっかりと大地を蹴って駆けることが出来る様になった。こんなに本気になって走ったのは十何年ぶりだろうか。こんなに清々しくて気持ちいいのか。
これが悪い事をしたことによる背徳感と興奮と負かしてやったことに対する悦びなのか。嗚呼楽しい!
『あるじ、タのしい?』
『うん、すごく楽しいよハル!』
服装が周りと溶け込んだことにより住民の反応は前よりも大分収まったが、どうしても黒髪を見られては息を呑む人達の顔が良く分かる。
『このあとは一度水浴びをしてから遠くの森へ移動しよう』
『どうして?』
『この街では悪事を愉しんだから色んな人に嫌われてしまったからね、今居る
場所よりも遠く離れれば街の人達にも迷惑がかからないからだよ』
事態が薄々と明るみになったらしい。門番兵士は私の姿を見てぎょっとして門を大急ぎで閉じ始めた。そちらが魔女狩りに出たのならこちらはただ逃げるのみである。【水魔法】を遊び半分に使用して手から足裏に水が流れ出るようにイメージを沸かせる。それも勢いよく。
いつの日かやってみたかった水上アクティビティの様に両足から水を放出しスノウズの街の外壁を優に越えて舗装された道に着地して再び駆ける。
足が疲れる頃には途中休憩ポイントの湖に着いた。
「はっ、はぁ……はぁ、はっはは、ハハハ」
『あるじ笑うね』
「楽しかったからだよ。ヨシ、汗を流すのに一度水浴びをしてからまた移動しようかハル」
『うん』
購入したばかりの衣服を木の枝に掛け、革靴を根本に置いて湖に全裸で飛び込む。汗を落としたら私はハルの捕食で水分だけ吸い取ってもらって移動場所を考える。
「ここから離れられるならば何処でも良いんだが、ハルは何処へ行きたいかある?」
『……うんー、わからない』
「そっか、なら適当に歩こうか」
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