第11話もとい閑話休題 魅了された少年

 魔女様と初めて出会ったことの日をよく覚えている。

 いつまでもいつまでも昨日今日の出来事の様に色濃くて衝撃的な出会いだった。

 ブルーヒールキノコは陰間で栄養のある場所になら何処にでも生える。特に多湿で樹木の近くなら大きく成長する。

 木の上に生えるブルーヒールキノコは誰も手を伸ばさないので大きくなるばかり、なので僕が手を伸ばせばたくさんお金に変わる。けれど体勢を崩して木の根本で食事をしていた猪に着地してしまいずっと逃げ回る事を覚悟して足をめいいっぱいに動かした。

 猪に襲われた子どもの末路を孤児院を経営しているじいちゃんから聞いた。悪戯した子どもに怒った猪が子どもを襲って牙で腹を割いて内臓と肉を食べたんだと。そんな結末を迎えたくなかったので死に物狂いで走った。少し走って足が地面から離れた時は猪に吹き飛ばされたと思い死んだ気でいた。

 痛みを感じる事もなく、柔らかい緑と見慣れた木々が反転した世界に後から誰かに助けられたんだと分かった。助けてくれた人にはお礼を言わないといけない、それはじいちゃんとシスターから教わった。だから助けてくれた人が魔王によく似た黒い髪に赤い瞳の女の人だったから何も言えずに走って逃げてしまった。猪と違ってその人は僕を捕まえて食べたりしなかったけれど僕が街に続く道まで追いかけるものだからものスゴく恐ろしかった。

 一度街に帰って採ってきた薬草とキノコをギルドに渡したら数が足りなくて追い出されてしまった。もう一度猪と、魔王によく似たあの人のいる森に行かないといけない。そう思うと泣きたくなったが、早く孤児院に帰りたい気持ちの方が強かったので頑張って森に入った。自分を元気づけようとお気に入りのタレアカボウが実る木に行けばまたあの人が居た。

 魔女様の顔を見て全てが変わった。この人は悪い人なんかではないと。魔女様の目的はただ僕とお話がしたかったんだけなんだと。

 この人の瞳は何一つ恐ろしくなかった。魔女様の言う通り麻袋を抱えてスノウズの街に帰って来た。ギルドの受付に立つお姉さんは僕が渡した麻袋の中身を見て少し驚いた。僕も少し驚いた。だって魔女様が探してくれた薬草とキノコの量が大人と子ども二人で探したにしては物スゴク多い数だったから。

 孤児院に帰った僕をシスターやじいちゃんが褒めてくれた。このお金で肉が買えた。肉の並ぶ食卓は初めてでとても幸せだった。このご飯をもう一度食べたい、そう考えたら魔女様から頂いた一枚の金貨をポケットから取り出していた。この金貨一枚で夜の食事にあと八回は肉が並ぶ。けれど魔女様はこれを自分のためにと言っていた。皆のためにこの金貨を肉にするのは魔女様の意に反する行為になるのだろうか。

 魔女様がくれた金貨を自分の為に使いたいからまだこれは使いどころではないのだろう。ならその日まで金貨を大事にするまで。僕はその日からずっと今日と明日が楽しみになった。

 採取クエストがないかじいちゃんとシスターに話かけ、仕事をサボって独りで金貨の事で色んなことを想像する。周りからはおかしくなったと言われたが僕は何も変になっていない。

 ただ魔女様に会いたくなるだけだ。

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