第5話 魔女は少年を魅了する
少年の体は予想通り逃げ腰だった。また逃げられてしまっては今度こそ私の外面が悪印象となるだろう。それはなるべく避けたいのでやむを得ずにもう一つの固有スキルとやらを使用した。【魅了】の効果がどれほどなのか確かめる間もなく少年を実験体にしてしまったことを悔やみ目の前の少年の反応が変わっていく過程を眺める。
脱力した身体を引き起こした少年は私の顔ばかり凝視して何も話さなくなってしまう。
「まずはじめに解ってほしいことがひとつ、私は君と君の大切な友人、家族、ある程度の知人に危害を加えるつもりは毛頭無い。友好関係を築きたいと思っている。それは理解してくれるかな?」
「うん……分かった」
「それじゃあ自己紹介をしよう、私の名前はヨメタニ。一応魔女と呼ばれる人間だ。少年の名前はなんていうの?」
「僕の名前はラルゴ……、孤児院に住んでいるよ……」
孤児院の少年ラルゴは麻袋を抱え直した。
「今日は何をしに森へ来たの?」
「今日は……ブルーヒールキノコと回復薬に使う薬草を探しに来たんだ。でも途中お腹が空いたからここのタレアカボウを食べに来たんだ」
成程この実のなる木は少年にとってお気に入りの場所だったらしい。ならば勝手に実を頬張り食料に頂く私はきっと悪い人間に見られてしまうだろう。それを回避しなければいけないな。
「いつも探しに歩くの?」
「うん。じいちゃんがケイエイナンってやつで働ける子には簡単な採取クエストを受けてお金に換えるんだ」
「だから……、まだ帰れない」
「ほう……。それじゃあ臨時クエストしてくれたら、私から特別に報酬をあげよう」
握られた手がキュッと強く力が籠る。少年はカクンと人形のように頷いた。
「それじゃあラルゴくんが探しているキノコと薬草を探しながらクエストをしてもらおうか。じゃあ……そうだな、人が少ない採取ポイントとかあれば案内してくれるかな」
少年は黙って私の手を引いて移動する。足を進める前に幹に接着したハルを呼んで胸めがけてジャンプした子をキャッチする。頭には沢山タレアカボウの折れた枝と実をぶら下げていたので大量収穫した子の肌を撫でてよくできました、と褒める。
ハルはフルフルと胸の中で喜んだ。
しかし邪魔な枝もあることだしと未だ使用していない【アイテムボックス】の四次元空間に持ってきた枝と木の実を乱雑に放りこんだ。
ラルゴが案内してくれる間に私は知りたいことを彼に尋ねる。
「ラルゴくんが今いる国は何処ですか?」
「僕がいる国は新国のスノフラーズ。そこのスノウズの街の孤児院で暮らしてる」
新国のスノフラーズ。新しく出来た国らしいがこの少年は歴史を知っているのだろうか。
「どうして新国なのか分かるかな」
「うん、じいちゃんが言ってた。魔王に昔王都を奪われて、それで逃げた王様が平和な場所に国を再建したからここは新国なんだって」
魔王の存在がここで出てきた。だから私を一度魔王と言って逃げたのか。ならばだ。
「魔王の見た目ってどんな風に聞いているのかな?」
「黒い髪の色で赤い目をしているんだって。だから魔女様のことを魔王だと最初思った……」
魔王と容姿が似ているは今後対人交流に影響が出る事が予想される。着る服を一度考えるか。
「そうなんだ、答えてくれてありがとう。じゃあそうだなー……、今度また私の為にお願いきいてくれるかな?」
「うん」
そう答えてくれた少年は私を空の見える野原に連れてきてくれた。
「ここがキノコと薬草のある場所なんだね」
握られた手は離されコクリと頷いた。
「それじゃあ教えてくれた報酬に私がラルゴくんのお手伝いをします」
そう言うと少年はありがとうと答えて仕事であろう薬草探しに早速取りかかる。
「どんな名前の薬草とキノコを採ればいいんだっけ?」
ラルゴは少しの間沈黙してから麻袋を開けて私にキノコと薬草を見せる。
「
知らない名前のキノコの名前が出たがようはそれくらい多く食べられているキノコだろう。
「ありがとう」
私は辺り一面に【鑑定】スキルを使用し必要な薬花草とブルーヒールキノコを探す。するとあらま簡単に薬花草とブルーヒールキノコの単語がヒットする地点を見つける。
「ハル、おいで」
スライムのハルを呼んで薬花草に腰を下ろす。
「最初の一つ目だね、うん。白い蕾も残ってるから少年に好い貢献が出来るよ」
採った茎をスライムの頭にプツンと活けて待機してもらい次のブルーヒールキノコのポイントへ行く。
「へー、本当に青く発光しているみたい。売れたものは加工されるのかな、それとも生食してもいけるのかな」
キノコに対して再度【鑑定】を行えば生で食べてもイケるらしい。これもいくつか貰っておこうか。
「群生地を見つけられたらどんなにいいものかねーハル」
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