第2話 魔王と呼ばれる女
私の数少ない休日の過ごし方は様々だ。とにかくなんでもしたいから
丈夫な葉は布生地とさして変わりはしないが風には弱い。それでも立派な葉の大きさは肌を隠せるので現時点では上々。茎を硬く結んで袖部を作り、木にとぐろ巻く謎の植物の蔦を使って胸と背を隠すように茎を通し結んでいく。上半身はこれでなんとか隠れるのでこの要領で
こんなものだが無風状態なら服として差し支えない。
「さて…………。移動するか」
何処に移動するかもあてはないが周りの動物達は私が近づく度に怖がって逃げてしまう。人間を恐れるという事は人間社会が発展し出来ているのだろう。ならば動物のいない方角へ行けば人間の住む地域に近づけるのではないか。そう信じて私は動物達に
足に疲労を感じるのが
「うわあああああぁぁ!」
近くで叫び声が聞こえた。高い声から少女か子供のものだろう。私が声のする方へ移動すればすぐに状況がわかる。
茶髪で綺麗な瞳の少年が麻袋を大事そうに抱えながら横を走っていくのだ。そしてそのすぐ後を猪が一心不乱にと駆けるのだ。
その光景を理解した私は少年と並走できるように全力で走る。
「助けてえぇええぇええ!」
少年も充分反省しているだろう。神よもし存在するなら少年の命を助けたまえ。そんな祈りを唱えて一か八か少年の前に飛び出して抱き止める。少年が息を止める間に体を転がして緑の
「…………もう大丈夫だよ」
腕を解いて少年から体を離してやると少年は怯えた様子で綺麗な青い瞳を私に向ける。安心させるよう優しく言葉をかけたつもりだったがどうも様子がおかしい。私の顔が怖かったのかどんどん足が私から離れるよう動いていく。そりゃそうか、急に助けた相手が赤の他人で怖かったら距離を一度置きたいだろう。
「大丈夫、おばさんは何もしないよ」
少年は私の言葉を聞いても怯えておりしまいにはポロリと涙を流した。
「ま、魔王……」
どうやら私を魔王という恐ろしい存在と勘違いをしているらしい。ならば仕方ないと立ち上がる。少年は私が何かするのではと
足の疲労に耐えながら少年を追いかける。少年は怖い怖いと叫び泣きながらずっと走る。このまま
近くに湖がある道を過ぎたのを確認してもう少し走れば土が整備された道が見えたので少年を恐怖から解放した。
随分と走ったが足は止めない。息を整えながら少年を暫く見守って湖の見えた場所へ戻る。
「はあ、……疲れた……」
湖の水面に顔を覗かせる。透明度が高く飲めそうな青をしているがよその国、ましてや異世界の飲料水には非常に警戒しておかないといけない。だが一番初めに内心で思った言葉を口に出した。
「顔面変わったなあ」
顔が過去の私よりも綺麗になっている。黒髪はそのままに長く伸びており、目もツリ目はそのままに瞳の色が赤かった。アニメ調な顔面に
「懐かしい。プールに入っているみたい」
太陽で温かくなった水が草と泥で汚れたものを取っていく。肌色が見えるようになると手を陸地に上げて空を見上げる。綺麗に見える青空だがしっかりと時間をかけて眺めてみれば雲が動いているのが分かる。私の見ている世界には時間が存在しているらしい。
「はあ、もしこのまま夕方を待って夜を過ごして朝を迎えたらどうなるのだろう。どう話せば無断欠勤したっていう理由になるだろう。もしこのままこの世界から出られなかったら、……親不孝者になるのだろうか」
次第に独り言の声が大きくなって話す。
「私はどういう扱いを受けてここにいるんだろう。死んだのかな……三十路になってから遺書を書こうとも思ったけど、それ以前に書くべきだったな…………。異世界から帰りたくない理由が少し分かったかも。皆現実に生きたくないからなんだろうな……。私もそうだよ」
足は水に浸けて癒し、それより上の体は地面に仰向けで寝かせる。
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