第2話「幸せ」

「えええええー!!!!!!!」

「どどどどどうした!!!」

「まってね。田山くんにも見えるようにするから。」

まてまて、どう言うこと?見えるようにするとは…?

「せ、先生超人…?」

数分後。

「先生、何してるんですか…?」

「田山くんに僕のことを意識してもらうの。そしたら見える。」

「それで…手紙を?」

先生が紙を取りだして、田山くんへ。と書いていた。

いやいや、信憑性ないよ…それは…。

「あーもう!先生、私に任せてください。」

「ん?んー…まあ、お願いします…?」

「田山くん!」

「ん?どうした?」

私は東先生の過去をたくさん喋った。

「じゃあ最後にクイズ。東先生は何年生まれですか。」

「1998年生まれ…?」

「正解!」

「どうしたの?急に東先生の話ばっかり…」

「田山くん!目閉じて!」

私の作戦はこうだ。

田山くんに先生のことをたくさん考えてもらって、

目を開けたら先生が!みたいな感じ。

「え?と、閉じればいいの…?」

「先生先生、田山くんの横に来てください!」

「せ、先生?な、何の話…?怖いよ…」

田山くんが目を閉じている間に、東先生が田山くんの横に移動した。

「目開けていいよ!」

「え、なになに…?どういうこ………と…って

 先生!!!???え?なになになに!?」

目を開けた田山くんが目を丸くして驚いていた。

「田山くん!久しぶり!」

「ひひひ久しぶりです…じゃないですよ!!え?なんで先生がここに?僕死んだ…?やっぱり西野なんかした!?僕のこと殺した!?」

なぜか私が殺人の容疑をかけられたところで先生が事情を説明した。

「田山くんも西野さんも生きてるよ。西野さんは殺人者じゃないよ!僕は死んでる。でもほら、触れるよ!」

「先生…生きてるみたい…。」

その時私は初めて冷たい幽霊の腕に触れた。

冷たかったけど生きてるみたいだった。

「僕は確実に死んでるよ。」

よく見たら、先生のシャツは赤くなっていた。

「あ、このシャツなんかグロイね。ごめんね。」

先生がその場でシャツを脱ごうとした。

「いやいやいや!いや、大丈夫です。目の前で脱がないでください!…ていうか…本当に先生死んでるんですね。」

脱ごうとしたシャツを着直した。

「ごめんごめん…。うん。そうだよ!死んでる!ていうか!西野さんこそ大丈夫!?図書館でいきなり倒れたってさっき聞いて。」

先生は目を丸くさせてわたしの肩を掴んで言った。

「今頃ですか!まあ、大丈夫です。ただ、あと1年くらいしか生きれないかな。」

「西野…。」

「ちょっと御手洗に行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

私はトイレに行くふりをして、病院の屋上で1人泣いていた。

「私はもっと生きたい…のに…。先生ともっと話したかった。」

泣いていると、屋上の扉が開く音がした。

他の患者さんかと思い、隠れた。

「西野さんここにいるんでしょ?」

他の患者さんじゃなくて、先生だった。

「あのね、僕はあと数ヶ月しかこの世界にいられないんだ。西野さんの残りの1年の少しを僕と過ごそう。僕は西野さんの人生に色をつけたいんだ。」

先生は私がいることに気がついていた。

「先…生…。」

私は先生の元に走っていった。

「西野さん、今走ったら…」

「先生!先生が死んで、私、毎分毎秒先生のこと考えてた。先生がいないなんてありえないって思って、先生がいつか帰ってくるって。また先生の意味わからない例えが聞きたくて。ずっと待ってたんですよ。なのに来なかった。けど今、先生がここにいる。」

「西野さん…。西野さんに、会いたかった。

僕も西野さんにいつか会いに行きたくて。会いたいって思ってたら、いつの間にかこっちの世界に来てた。」

「相思相愛ってやつですね。」

「だね。」

2人とも、涙を沢山流した。

雨か。ってぐらい泣いた。

「先生、なんででしょうね。空に虹がかかってます。」

「僕たちの涙で虹出来ちゃったのかな。」

「そうかもしれないですね。」

2人とも、笑った。

沢山泣いて、沢山笑って。

滅多に笑わない私も沢山笑った。笑うって、生きてるな。って思う。

死んでる先生はどんな感じなんだろう。

「戻ろうか。2人とも目腫れてるけど。」

「田山くんになんて説明しよう。笑」

「軽く殴り合いになって…とか?笑」

「いいですね。それ。笑」

「まあ、普通に泣いたって言お。笑」

「ですね。笑」

田山くんに目が腫れたまま会った結果、

「殴り合いした…?」とあっちから言われた。

先生もまさかあっちからそんな返しが来るとは思ってなかったみたいで、腹を抱えて笑っていた。

なにもわかってない田山くんは首を傾げて、ずっと

「え?なに?え?なんかついてる…?」と言っていた。



翌日。

田山くんは学校。先生はみんなに会ってくる。と言っていた。

だから今日は1人きり。

病室から見える景色は綺麗だった。だから手元にあるスマホのカメラで沢山撮った。

「南!大丈夫??昨日少ししか来れなかったから今日は休み取った!今は体調大丈夫そう?」

おばさんが病室のドアを勢いよく開けて走ってきた。

「うん!大丈夫!でも入院はやっぱり嫌だな。」

「でも…もしものことを考えてさ…」

「いつ死ぬか分からないから、私は普通に学校に行きたい。」

「そう…。」

心臓病はいつ死ぬか分からない。1秒後に私が生きている保証はない。一応余命は告げられたけど、その余命が絶対ってわけでもない。

だからこそ、普通に生活をしたい。

私とおばさんが話している時、谷先生(医者)が来た。

「南ちゃん、久しぶり。」

「お久しぶりです。あの…」

「わかってる。通院を希望してるんだよね。」

「はい…。」

谷先生は笑顔でこう言った。

「南ちゃん、変わったね。ちゃんと意見言えるようになった。」

「そうですか?」

「うん。あとよく笑うようになったね。先生安心した。」「ありがとうございます。」

多分、私が変わったのは先生のおかげだ。

「退院する日はいつかまだ検討がつかないけど、近いうちに退院できるよ。」

「ありがとうございます。」




「わー…懐かしい…。」

「体育館に肋木が着きました。でもその他は特に変わってませんね。」

東先生と田山くんはその頃、学校内を周っていた。

「放課後だから全然人がいないね。」

「あ、いますよ。集めてます。」

「どこに?」

「図書館です。」

図書館には生徒たちがいた。

「田山くん、どうしたの?急に呼び出したりなんかして」

立花さん。大人しいけど、ヤンキー漫画に出てくるような ヤンキーの総長的な立ち位置だとか。

「さっき1人で話してたけどとうとう頭おかしくなった?」

八木くん。チャラい見た目なのに超絶優しい。

「みんな、東先生に会いたいって言ってたよね。」

田山くんが大きく息を吸ってそう言った。

「うん。そりゃあ会いたいよ。」

作間さん。いつも笑顔の彼女は運動神経の塊みたいな子。

いつも走り回ってバク転してる。とにかくすごい。

「あんないい先生この世にいないからな。」

笠原くん。メガネをかけた優等生。

全て先生から勉強を教えてもらっていた、先生は恩人だといつも言っている。

みんな東先生が大好きな、田山くんの幼馴染だ。

「じゃあ目を閉じて。」

「何怖い。」

作間さんが田山を睨んだ言った。

「いいから。そして、東先生の大好きなところ3つ考えてみて」

「そんな、恥ずかしいよ…!」

東先生は顔を赤くして言った。

そんな東先生を田山くんはスルーした。

「みんな考えた?」

「おう。」

八木くんが親指を立てて言った。

「じゃあ目を開けてみて!」

目を開けた時、沈黙が生まれた。

その後、みんな目をこすって「幻覚か?」と連呼していた。

「違うよ。本物。触れるよ。幽霊だけど。」

「先生…!会いたかったです…!」

笠原くんはメガネを外して涙を拭った。

「僕も…僕もみんなに会いたかった!」

東先生もみんなも全員泣いていた。

「このことは、西野と俺らだけの秘密って言うことにしてる。」

「西野って西野南?西野南さんも知ってるんだ。」

笠原くんがOKと笑顔で親指を立てた。

「うん。実は最初は西野にしか見えてなかったんだ。」

「西野、先生のこと本当に好きだったんだな。」

八木くんが微笑んでそう言った。

その時、田山くんの表情が曇った。

東先生は不思議そうに田山くんを見た。

「よし、みんな帰ろうか。東先生、一緒に病院行きましょう。」

「うん。行こう。」

下校時。

東先生と田山くんは病院に向かっていた。

「夕日綺麗ですね。」

田山くんは夕日を見てそう言った。

「そうだね。」

「はい。」

東先生はにやにやして立ち止まった。

「どうしたんですか…?」

「いや、田山くんは可愛いね。」

「急に…?」

田山くんは、東先生の突然の言動に首を傾げた。

「いや、素直じゃないなって。田山くん、西野さんのこと好きなんでしょ。」

田山くんは顔を赤くして、顔を横に振った。

「せ、先生の冗談面白いですね…笑」

「わかりやすいな。さっき不満そうな顔してたくせに。笑」「んえ!?あ!…バレて…ましたか…。でもね、先生」「ん?」

田山くんは笑みを浮かべて言った。

「僕は西野と先生の幸せしか願わないから。」

「田山くん…。」

田山くんの目には涙が浮かんでいた。

「失恋して泣くのとか、カッコ悪いですよね。

でも残り少ない人生の中であいつには好きな人を好きに好きになってもらいたい。先生が消えるまで、先生が消えても、

好きでいてもらいたい。」

東先生は田山くんをぎゅっとして言った。

「ありがとう。気を使うな。とかそういうことは言わない。その気持ちは受け取る。でも、好きって感情は無くしちゃダメだよ。人のことを思って愛を捨てるのは間違えてるからね。堂々と好きであるんだよ。」

「先生…。やっぱり西野には先生しかいないな。」

田山くんは、「西野の残りの時間を幸せで埋め尽くしてやってください。」と言って泣いた。



病室で寝ていると、こちらへ走ってくる音が聞こえた。

そして病室のドアを勢いよく開けた。

「西野さん!」

「西野!」

2人とも、全速力で走ってきてくれたのか髪がボサボサだった。

「どうしたの…!そんな急いで…」

「西野さんとの時間、一分一秒も無駄にしたくなくて…!」

「西野元気そうでよかった。」

2人とも私を心配してくれた。

髪がボサボサになって、昨日降った雨の水たまりでズボンの裾はびしょ濡れだった。ありがたかった。嬉しかった。

「ありがとう。ていうか2人ともボロボロ。笑。ありがとう!」

2人とも見合って、「うっわ、ボッサボサ。笑。」と言って笑い合っていた。

2人が笑う姿が大好きだ。

私は、2人が幸せでいてくれればそれでいい。

2人が笑う姿が見られるのなら、それでいい。

「あ、そうだ。先生、田山くん。私ね、退院できるんだ。

入院じゃなくて通院を選んだの。」

「そう、なんだ。西野さんは元気だから通院の方がいいかもね!」

東先生はそう言って笑った。笑った東先生の頬はピクピクと震えていて、目には少し涙が浮かんでいた。

「な、田山くん、おばさんよくわからないんだけどさ、田山くんの横に誰かいるの…?2人とかどういうこと…?」

おばさんは状況を理解できていなかった。

「お、おばさん!えっとね、あ!ちょっとプリン食べたいなー。買ってきてもらっていい?」

「う、うん。わかった。」

おばさんには先生のことを教えないほうがいいなと思った。

なんでだろうか。わからないけど、とにかく教えないほうがいいと思った。

「おばさんありがとう!」

「行ってきます!」

おばさんが病室から出た。私たちは集まって、これからどうするのか話し合うことにした。

「あの方が西野さんの叔母さん!お若い…」

「そう!で、おばさんにはなんて説明する?」

「普通に言って良くない?」

「おばさん、幽霊とか苦手で…。おばさんに先生のこと伝えても、先生のことイメージさせて先生を見せることができないからさ…」 

前に、叔母さんの家で怖い映画を見てから叔母さんが怖がりになった。

「なるほどね…じゃあ、西野さんの叔母さんがいない時に来ようかな!」

「ありがとうございます…」

「じゃあまた!田山くんはどうする?」

「明日提出のやつがあって、もうちょっと話したかったけど…僕も今日は…」

と、田山くんは申し訳なさそうな顔で言った

「わかった!じゃあまたね!」

二人ともまたねと言って病室から出て行った。

「あれ?田山くん帰ったんだ…あ、これプリンね」

「うん。ありがとう。おばさん、」

「ん?」

「東先生、覚えてる?」

おばさんはにっこりと笑って「覚えてるわよ」と言った。

特におばさんには東先生の話をしていなかったのに、なんでだろう。

「覚えてるかな、入学当初、南がクラスの空気に馴染めなかったとき、学校休んで部屋で泣いてたの。」

「ああ、そんな事もあったような…?」

「その時、お母さんに東先生から電話が来てね、「西野さんはクラスに馴染めてないので、おすすめしたいことがあります。」って急に言われたらしくて、「図書館に通ってほしいんです。」って言われたらしくて。南は本が好きなわけじゃなかったじゃん。それでね、南は本には興味ないのでってお母さん言っちゃってさ。そしたら「本は無理して読まなくていいんです。図書館の風と匂い。これだけで安心します。なので、西野さんに、図書館をおすすめしてあげてください。」って言われたんだって。」

「だからあの時急にお母さんが図書館に行きなさいって言ったんだ…。」

「うん。その時、おばさんは東先生と関わったことも喋ったこともなかったけど、お母さんからその話を聞いて、いい先生なんだなって。担任の先生じゃないのにそこまで気にかけてくれるなんて、大地のこともだけど、本当感謝してるんだ。」

おばさんは微笑んでそういった。

何も知らなかった。先生のこと。

残りの時間、先生への恩返しに使おう。

私はそう、決心した。

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