夕焼け空に問う。

れーよ

第1話「叶わないってわかってるんだけど。」

私には好きな人がいた。私が通ってる夕ヶ崎高校の先生。

東 天哉 先生。

その先生は優しかった。本好きな私に沢山本を紹介してくれたり、友達がいない私と図書館に行ってくれたり。

とても優しい先生だった。

でも1年前、

とあるショッピングモールで連続殺人事件が起きた。

東先生はその事件で、私の弟を守って刺されてしまった。

数時間後、死亡が確認された。




「南ー、お弁当持った?」

「うん、持ったよ。」

「嘘。ほら。」

おばさんがお弁当をもって、呆れた顔をした。

「そういうことは、確認してから言うのよ?」

「分かった分かった。おばさんも気をつけてね、また靴下間違えてるし。行ってきます。」

「あら本当だ。ありがとう。行ってらっしゃい!」

私はおばさんと弟の大地と3人暮らし。

お母さんとお父さんはショッピングモールの事件で私をかばって亡くなった。大地は東先生に助けてもらった後、急いでショッピングモールを抜け出した。それで助かった。

でもお母さんとお父さんが亡くなったショックと、東先生が目の前で刺されたショックで大地はPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまった。

そのせいで部屋に引きこもってしまった。

私も時々思い出してパニックになる時がある。

でも、そんな時に東先生の言葉を思い出すと心が落ち着く。


2年前

私は図書館を東先生と本を読みながら歩いていた。

「この世界はできないことが沢山あるよね。

夕日に話しかけるようなこと。」

「その例えは...?」

「ほら、夕日ってさ近いようで遠いじゃん。だから話しかけても聞こえない。できない。」

「先生の例え...変わってますよね...。絶対空か夕日に例える。簡潔に言えばいいのに。」

「そう?......夕日と空が好きだからその2つに例えるんだと思う。僕にもよくわからないや。」

東先生は笑いながらそう言った。

「なる...ほど...。というかなぜ急にそのような話に?」

東先生は立ち止まって本を閉じた。

「僕はさ、悲しい事も苦しいことも乗り越えてきたんだ。」

東先生がこの学校に来た時の自己紹介でもこう言っていた。

「知ってます。」

「でもそんな時、ある事件が起きた。」

「そこら辺は初耳です。」

「今まで西野さんに変にショック受けてもらいたくなくて言ってなかった。言っていい...?」

「はい...大丈夫です...?」

「2005年のショッピングモールの事件知ってる??」

「はい、まだ犯人が捕まってないやつですよね、」

「あれ、死者2名、重症者24名だったんだ。」

「そうだったんですか...。」

「うん。でね、その死者2名っていうのが、僕の母さんと父さん、なんだ。」

東先生は俯いて言った。

「…え…?」

「父さんは元警察官で、みんなのことを逃がしているうちに、撃たれた。母さんは僕を守ってくれた。でも、刺されてしまったんだ。」

「そんなことが.....。」

東先生にそんな壮絶な過去があったなんて知らなかった。

「でも僕は泣かなかった。」

東先生は笑って言った。

「僕は、泣くのは母さんと父さんのためにならないと思った。」

「なぜですか...?」

「父さんと母さんは僕達を守ってくれた。守って死んだ。母さんと父さんにごめんねって言うのは間違ってると思った。だからありがとうって。笑った。父さんと母さんは笑顔の僕が好きだから。」

「先生は強いですね。」

「ありがとう。あ、そういえば、なんで急にあんなこと思ったかというと、明日はショッピングモール事件から十五年経つ。毎年思うんだ。生き返って欲しいなって。

本当は生き返らせたいけどできない。だから世の中って出来ないことだらけだなって。」

「先生も...色々あったんですね...。」

私は思わず泣いてしまった。

「あ、ごめん。辛いよね。僕がこんな話をしたばっかりに...。」

私はハンカチを出そうとした東先生の手を止めた。

「大丈夫です。逆に、このような話をしてくれてありがとうございます。そうですよね。ごめんって、すみませんって、簡単に使う言葉じゃないですよね。」

「西野さんが僕に謝ることはしないでね。

西野さんが楽しい時は一緒に笑いたいし、西野さんが悲しい時は寄り添いたい。西野さんは僕にとって大切だから。」

東先生は私の頭をポンポンし、微笑んだ。

私は顔が真っ赤になり、頭が真っ白になった。

「あ、あ、ありがとう...ごごございます...!」

「あと、西野さんは僕の.........」

私は東先生に何か大事なことを言われたはずだった。

でも、何故だろう。思い出せない。


現在。

改めまして、私は西野南。高校3年生になったばっかりの17歳です。

私は基本的、1人で行動してます。

「みなさん席についてください。大事な話があります。東先生が亡くなり、1年間、国語を担当する先生がいませんでしたが、新しく国語を担当する先生が来てくれました。」

東先生がいなくなって1年。国語の先生はやっぱり東先生じゃないとダメだ。

東先生のあの声で東先生のあの文字で授業がしたい。

「西野聞いてるかー?」

「え、あ、はい。聞いてます。」

みんなが私の事を見る。

そして笑う。

私は窓側の席だから、よく外を見て東先生のことを考えている。

だから話を聞いていないことが多い。


放課後。

私はいつも通り、誰もいない図書館に行く。

この学校の図書館はとても広い。だから1人は寂しい。

やっぱり東先生と一緒がいい。

「これ、借ります。」

いつも図書委員の田山くんに本を借りることを報告して借りる。

この学校の唯一の友達が田山くんだ。

1年の時からずっと図書委員をやっている。

1人で。

この学校は陽キャばかりだから田山くんと話す時は落ち着く。

「田山くん、今年で終わりだねこの図書館の委員をするのも。」

「そうだね。楽しかったよ。借りるのはほとんど東先生と西野だけど。」

「この図書館に出入りしてたのもほとんど東先生と私だよね」

「ね。西野も入ればよかったのに。図書委員。」

「えええ。私、超絶頭悪いんだよ...?これなんか冊数とか計算するんでしょ...?無理無理。」

「電卓使えば簡単だよ?」

「打ち込んでるうちに忘れちゃう。私の記憶力だったら。笑」

「それもそうだねー。笑」

「おい!そこは否定するところでしょうが!笑」

私は田山くんの頬を人差し指と親指で摘みながら言った。

「はいはい。そんな事ないです、そんな事ないですー!」

「よろしい。笑」

私はいつも田山くんから受け取った本をバッグに入れ

いつも読んでいるお気に入りの本を広い図書館の右下の端のテーブルで読んでいる。

「田山くーん!聞こえるー?ちょっといいー?」

「ちょっと待っててー!」

田山くんが走ってこちらに向かってきた。

「ごめんごめん走らせて。田山くんがおすすめしてくれたいつも私が読んでる本どこ?無いんだ。いつもはあるんだけど...。」

「や行の場所になかった?」

「うん。誰か借りたとかかな?」

「それはない。」

「ありがとう。さっき借りた本読むね。」

「ごめんね、力になれなくて」

「ううん!謝らないで!」

「というか、なんであの本だけは借りないの?」

「それはね…」


遡ること2年前。

田山くんが図書委員になった時、田山くんが「おすすめの本だから読んでみて」と東先生と私に本をおすすめしてきた。

「「夕日に問う。」?どんな本?ドロドロなやつとか残酷なやつだったら私は読めない...」

「いや、感動系!」

「どういう話?」

東先生は「夕日」という名前が入った本だったから、興味津々だった。

「主人公の女の子が死んでしまった先生をずっと好きでいるっていう話。ここからはネタバレになるから言わない。とにかく読んでみて!」

「なるほど...面白そう...!読んでみる!私、そういうの好き!」

「うん!読んでみて!」

この日からこの本がお気に入りで、東先生と読んでいた。



「私がね、この本を借りないのは、先生がいつか帰ってきそうだから。帰ってきたら、この本をここで一緒に読むの。

叶わないってわかってるんだけど。」

「そう、だったんだ…。」

「あ、ごめんね。でも、先生は弟を守ってくれたわけで。だから私が悲しんじゃいけないなって。」

「西野は強いね。」

「いや、そんなことないよ。」

そんな事ない。私は弱い。心もだけど、体も…弱い。

「あ、そうだ。西野さ…」

田山くんが何か言いかけた時、私は倒れた。

「西野!!どうした!西野!…」

私の意識はここで途切れた。


目を覚ました時には病室で寝ていた。

「あれ…どこだ…?」

「西野さん…!西野さーん!」

どこかで聞いたことのある声…

もしかしてと思い、私は目を開けた。

「あ!西野さん!」

そこにいたのは

死んだはずの東先生だった。

私は死んだんだな。天国で東先生にあってるんだな。

と思った。

「あ、東先生。私死んだんですね。ついに。」

2年前に心臓病だ。余命は3年だと宣告された。

だから、私は死んだんだな。と思った。

「あ、西野!」

ん?なぜ天国に田山くんが?

田山くん…死んだのか…?

「田山くんも…死んだの…?」

「……は?西野…頭おかしくなっちゃったか…。」

「西野さん西野さん。僕は幽霊だよ。西野さんは生きてるよ!」

「先生は何を?」

「せん、先生?ん?どこ?」

「田山くん、見えない…の…?」

「なんのことか分からないけど…見えない。」

「ね!」

東先生は満面の笑みでこちらを見てそう言った。

「え、」

私はびっくりして思考が追いつかなかった。

「え、?」

田山くんは首を傾げて眉間に皺を寄せた。

「えええええー!!!!!!!」

東先生が言っていたことが理解できた時、宇宙まで聴こえるくらいの声が出た。


ゆ、幽霊の先生が…こ、ここに…!?


つづく

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