【掌編】真っ赤なやつら~777文字で綴る物語⑤~

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

ナイスバルクっ!

 太陽がサンサンと降り注ぐ中、僕は生まれた。

 芽吹いた。

 そしてエネルギーを吸収して、育っているところだ。


「ぅう~ん。今日も陽射しが気持ちいい!」


 生まれたばかりの僕は初めて味わう陽気に気分が上がっていた。


「よう! 新入り」


 そう声を掛けてきたのは僕の斜め上にいるオジサンだ。


「よっ、よろしくおねがいしますっ!」


 最初が肝心とばかりに元気よく挨拶をするとオジサンはニッと笑って返してくれた。

 ガッシリと大きく実った果実からだ

 パツパツにはち切れんばかりに張った果皮はだは真っ赤に色づいて太陽光を反射する。


「かっこいい~!」


「ハッハッハ~! お前――もしかして俺様に憧れているのか?」


「勿論! だけど僕は……」


「大丈夫さっ! 確かにお前はまだ生まれたばかりで硬くて青い。果実からだもまだまだ小さいが……その分、可能性は無限大だ!」


「はいっ!」


「若いって事は時間があるって事だ。だから鍛えなっ!」


「鍛える?」


「あぁ。俺様みたいになりたきゃ、とにかく鍛えるんだ! 毎日なっ!」


 そう言われ、僕は来る日も来る日も筋トレに励んだ。

 いつか真っ赤に色づいた立派な果実おとなになる為に。

 あのオジサン――いや、師匠の様になる為に。

 そして数日が経ったある日、師匠は収穫されていく。


「じゃあ……俺は先に行くぜ! 果肉きんにくが全てを解決する! それを忘れるなよっ?」


「はいっ!」


「じゃあ――頑張れよっ」


 それが別れの言葉だった……。

 しかし僕は悲しむことはなく、師匠が居なくなった後も毎日を筋トレに費やした。


 雨が降る日があろうとも、ダンベルを持ち上げ。

 風が吹く日があろうとも、腹筋をして。

 それが嵐になろうとも……。


 僕は筋トレを毎日かかさなかった。

 例え大地が干上がり、喉が渇いて苦しくなろうとも――。


 そして僕は師匠に胸を張って誇れるほどに大きく真っ赤に育った。

 果肉きんにくモリモリの甘い果実おとなに。

 ほどよく熟れ、遂に旅立ちだ。


――初めまして。トマトです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【掌編】真っ赤なやつら~777文字で綴る物語⑤~ 3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ) @blue_rose_888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ