第4話  思い出が呑まれて仕舞った

 此の時頭を掠めた景色、昔の事だ日中に仕事で記事とフィルムの回収に向かった北茨城、取材終了迄の待機時間に見た海岸線に拡がって居た海、悲しい事では在ったが夜の波の音を聞き朝日が昇る迄其の場所に居た東金の展望台、辛い思い出の其の場所が楽しい思い出に変わった子を連れての初めての海水浴、最後にアイツと走った御宿の海岸線が波に呑まれた事を…。


 本日解散の号令と共に皆一斉に帰り支度を始める、俺と同じく幼い子を抱える者も、高齢の両親が居る者も、唯、恵まれている持つ者に逢える事、逢いたい者に逢える事、恵まれている…。


 帰る前に一報だけ入れる、本震以降も度々余震も有ったから、今から帰ると…。


 自家用車に乗り自宅へ向かう、其処で暗き一本道を横切る事に為る、その直前迄街灯も灯り、住宅の明りも見えて居る、行き成り全く灯の灯らぬ場所を通過する、幾つもの信号が消えコンビニも明かりが消え、改めて電気が来ている有難みを覚え、何処から送られていたかを実感する。


 約5分程、距離にして1.5キロ程だろうか信号が消えて居る為通常の速度での交差点の進入は出来ない、一時停止し安全確認する、同じ様に交差する側も、対向する側に一時停止は疎か減速すらせず突破する奴も居る、余程良い育ち方をしたのだろうな極々一部の者では有るが…。


 其の区間を抜けた後は信号は灯っていた、家へ帰り着き玄関を開けるとチビが駆けて来る、抱き上げ皆の無事な顔を見て帰って来た事を実感する、一人だけ不安な顔で声を掛けて来る…?


「お帰りなさい」 

 其の顔は不安とも疲れとも哀しみとも取れる何とも言えない表情…。

 一人で子らを見て居たからだろうか?

 本震、余震に対しての不安?

 被災地の方々を想ってか?


 不思議に思う、情報が必要な筈なのにTVは消えている?、新たな情報を得ようとリモコンに手を延ばし止められた、衝撃的な映像を子等に見せぬ為なのだろうか?。


 繰り返し流れる津波の映像、第一原発が波に襲われる映像、其処に人が居られる筈の走行中の車輛、海岸線を飲み込み平野を遡り建物を呑込む映像…、俺自身がショックを隠せない…、数多くの其の現場に向かい此の目にした筈なのに、今も時々夢に見て仕舞う、そう今でも…。


 当時は地震ばかりでは無く、風水害でも起きて居る其の現場へ向かって居た、同じ様に事故、事件の現場へ、其の起きた事を起きている事を皆に知って貰う為に、唯全力で全速力で走り続けた、今では全くの無価値な事の為当時は其れしか方法が無かった、狂気の沙汰としか言えぬ速度で、唯早く、唯々誰よりも速く、時間迄に確実に届けるには其れしか方法が無かったから…、伝書鳩と呼ばれ速さと確実に届ける事だけを求められたバイク乗りそんな事が頭を過って居た…。


 だが次に出て来た言葉で此の娘が思って居た事が違って居る、其れに気付かされる、そうこんなに遠い地、海まで最短でも100キロ以上離れた土地、襲われる筈の無い離れた地でも…。


「あたしが…、あたしが遊んで居た所も…、住んで居たお家の場所も…」


 本当に迂闊だった、故郷に居た時から本当に頭が悪い、要領も悪い、オマケに顔も悪い、嫌、今はもっと酷いか当時よりも、何時迄経っても変わらないよな良きに付け悪きに付け俺は…。

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