五日目
とぼとぼと歩いて会議室に向かう。
そっと会議室を開けると、もうみんな座っていた。
みんな、私が人狼に殺されたと思っていたのか、びっくりしたような顔をして私を見つめている。
最後に来た人の気持ち、こんなんなんだ。
いや、今は気持ち分かんないんだけどさ。
『はぁい!今日殺された人は────いませんでしたっ!』
狩人さん、まだ生き残ってるんだねぇ〜、と面白そうに言うろろ。
あ、私また役にたてたんだ。良かった───のかな。
『カイギジカンスタート(会議時間スタート)』
「なぁ。誰を占ったんだ?」
少し焦った様子で冬良くんにそう言った拓野くん。
「お前、なんでそんなに焦ってるんだよ。」
「焦ってねぇよ!」
拓野くん、怪しいなぁ。
「はいはい。言うから。昨日の夜占ったのはそいつだ。名前は忘れた。」
冬良くんが指を差した先には───私がいた。
「えっ私?!」
突然だったので、間抜けな声が出てしまった。
「そいつは人間だ。」
「そいつって呼ばないで!私の名前は明菜だよ!」
「どうでもいい」
ひ、酷っ。でも、私が人間ってこと言ってくれて良かった。これでまだ生き残れる。死んでも別に寂しさはないだろうけど。
「じゃ、人狼は柚か拓野だね。」
秋日くんがそう言って二人を睨んだ。
「私は違う。市民だよ。────と言っても信じてくれないだろうけどね。」
落胆のため息をついた柚ちゃん。しょうがないよ。命懸けだもん。
「俺も市民だ─────信じろ。」
私達を睨むようにして言った拓野くん。
「正直、言うとね。僕、拓野くんだと思うんだ。」
「同意」
秋日くんの意見にすぐさま同意する私。
「なっなんでだよっ?!」
「占い結果を聞くのはいつも拓野くんだから?」
「人狼を知りたいからだよ!」
「それだけかなあ?」
追い打ちをかけてみる。反応はどうくるか。
「───とにかく俺は市民だ。」
うつむき、聞き取れないほどの声で言った拓野くん。
───私、今日追放する人決めちゃったかも。
「じゃあ次は柚ちゃんだね。」
会話の矛先を柚ちゃんに向ける。柚ちゃんの肩が微かに震えたのが分かった。
「私も市民だよ。」
「根拠」
「───あるわけないじゃん。」
「そうだよね。」
「これじゃあ決まんなくない?」
私と柚ちゃんの会話に秋日くんが割り込む。
「じゃあどうしよっか?じゃんけんでもする?」
片手でグーをつくる。
「じょ、冗談だろ?」
拓野くんの頬を汗がなでた。
「うーん。でもさ、決まんないじゃん。半分冗談で半分本気だよ?」
拓野くんを見て私は首を傾げた。
「じゃんけんで人生決められたくないわ……。」
うつむいてボソッとつぶやいた柚ちゃん。
「……明菜。お前、本当に明菜か?」
突然、冬良くんが真剣な顔つきで変なことを言った。
「何言ってるの?私は明菜だよ?」
「いや……まだお前に会って五日目だから分からないが、こんな風に軽くなかったはずだ。ずっと暗い顔していただろ。友達が消えた時なんて泣いていたし。」
「唯愛ちゃんの時はね!由香ちゃんのアレは演技だよ。」
にこっと笑みをつくる。
私は、楽しいときに出る笑みと同じものをつくったはずだった。だが、他の人から見ると、それは歪んだ笑顔だった。
空気が重くなる。
そこで私は、演技をやめていたことに気づく。
あ、演技いつの間にかやめちゃってた!
でも、もう冬良くんが私のこと「人間」って言ってくれてるからもういっか!
「………とにかく人狼探ししよう。もう残り時間が少ないよ。」
私から目線をそらした秋日くん。何か怖いことでもあったのか、顔色が悪い。
「……明菜が人間だってことは分かってる。だけど、俺、こいつは人狼にしか見えない。」
冬良くんの刺すような目線が私に向けられた。
「それは性格からでしょ!性格は関係ないから!というか、私の職業、人狼と逆だから!」
「職業…?明菜って市民じゃないのか?」
「私は狩人だよ!」
「かり、う………?」
あ、しまった。ついポロッと口に出てしまった。
私は頭を抱えた。
あーー。これ今日人狼追放出来なかったら私死んじゃうよ!
どう弁明しようか───そう考えていた時。
『カイギジカン シュウリョウ(会議時間 終了)』
「あ、終わちゃった。」
私のそんな声で会議は終了した。
『──メイナ キテクダサイ(明菜 来てください)』
「うーい。」
演技する必要がなくなったので、軽い足取りで空中画面のところに小走りする。
「今日は……。」
ポチッ
「よし。投票完了!」
『はい!今日は接戦だったねぇ!結果を言うよ!結果は────』
私の声と被さるようにろろが喋った。
声が続く。
『────拓野くんに3票です!』
「3票?!ってことは残りの2票は柚ちゃんに……?」
『ううん。残りの2票は、明菜。君に入ったんだよ。』
「えっ。」
私は、残りの2票が私に入れられていたことに驚いた───と思う。
まぁ、結果的に拓野くんが追放されるんだし、結果オーライ?
「はっ、まさか俺が追放されるとは……。未練だらけだな。幽霊にでもなってここにいる奴ら呪うか。」
『はいはい。幽霊になれるといいね。バイバイ、拓野。』
ヒュンッ
拓野くんが消える。微かにその場に残った拓野くんの匂いは、空気に溶けて消えた。
しん、と会議室が静まり返ったのは一瞬で、直後にろろの元気な声が響いた。
『五日目の夜は───来ません!』
「え……?」
『GAME CLEAR!!おめでとう生き残った4人!じゃあ元の世界へ行ってらっしゃい!またおいでね!』
「───もう二度と人狼ゲームなんてしないわ。」
吐き捨てるように言った柚ちゃんの声を最後に、私達の体は光に包まれた。
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