四日目

私って、本当に運良いみたい。

四日目の今日も生き残ってる。

「あ、おはよう。冬良くん。」

冬良くんが無言で私の横を通り去っていく。

そういえば、私昨日由香ちゃんを守ってたな。占い師の冬良くんを守ったほうが良かったかも。殺されてなくて良かった。

冬良くんと一緒に会議室へ入る。

私はかなり早く来てたようだ。誰もいない。

もしかして、冬良くんっていつも一番に会議室に来てたのかも。

二人で席に座る。

一人一人会議室に足を運んできた。その中には、辛そうな顔で来る人もいれば、冷静な顔をして来る人もいた。


みんな席に座った。残るはあと一人だ。

でも、数分たってもくる気配がしない。

「殺されたんだ。」確信に近いほどそう思った。


『今日殺されたのは、晴也くんで〜す。』


「……………」

全員、苦しそうな申し訳無さそうな顔をして、黙りこくっている。

私も、この雰囲気が苦しくてうつむく。

そのとき、私は、少し違和感を感じた。

気のせいかな?と思うことにする。

「…なぁ冬良。昨日は誰を占ったんだ?」

みんなの沈黙を破ったのは拓野くん。

「秋日…とかいうやつ。」

「えっ僕?」

「こいつは……」

ごくり、とつばを飲み込む音がする。


「人間だ。」


ふわっと、空気が軽くなった気がした。

信じられそうな味方ができたからだろうか。

「じゃあ、僕はもう追放されることないよね。良かったぁ〜。」

ホッと胸を撫で下ろす秋日くん。

「まず、占い師自体が嘘かもしれないけどね。」

直後に釘をさすように言った柚ちゃん。

「秋日くんは人間じゃない?私、冬良くんは占い師だと思う。」

秋日くんをフォローするように私が言う。

「うん!ってか、僕人間ですけど。」

こんなに会議が騒がしくなったのは初めてだ。

「騒がしい」といっても、人数が少ないのでうるさいほどではないけど。

みんな、もうこの「人狼ゲーム」に慣れたのかもしれない。

私も、死んでも別にいいや、って半分諦めかけてる。

「なぁなぁ。お前らって今んとこ誰を疑ってんだ?」

拓野くんの声。

「誰を、疑っているか…?」

私はそうつぶやいて首を傾げた。

「なんだ、その質問。お前、人狼なのかよ。」

「は?!そんなわけないだろ。別に答えたくないなら答えなくていいんだぞ。」

「僕は……言ったらその人に殺されそうだから言わないことにしとくよ。」

秋日くんの言ったことに、私はうなずき、

「私も、言わない。」

と言った。

確かにここで言ってしまったら、投票のとき、あるいは夜に殺される恐れがある。

さすがに死にたくない気持ちも少しはあるし、ここは言わないでおいたほうが安全だ。

「じゃあ私も言わなーい。」

柚ちゃんもそう答える。

「…で、逆に拓野は誰を疑ってんの?」

柚ちゃんが拓野くんに声を低くして聞いた。

柚ちゃんは拓野くんを疑っているのだろうか。

「俺…も言わねぇ。」

「なにそれ。結局誰も言わないの?」

「まだ答えてないやついるじゃねぇか。ほら、そこの…由香?ってやつ」

拓野くんが私の隣に座っていた由香ちゃんに指をさした。

あっ。そういえば、今日由香ちゃん一言も喋ってないな。

チラッと由香ちゃんに視線を向ける。

「私はみんなを疑ってるから、1人に特定とかはできない。」

そっけなく口にした。

…全員疑ってる、かぁ……

相変わらず私は信用ないなぁ……

ガクッと肩を落とす。

『カイギジカン シュウリョウ(会議時間 終了)』



『──メイナ キテクダサイ(明菜 来てください)』

一番嫌いなのはこの投票する時間。

みんな雰囲気が無意識にピリピリしてくるし、誰かがいなくなってしまうから。

ここでも違和感を感じた。

気にしないことにして、投票する人を誰にするか考える。

───今回の会議では、人狼が誰か、とか絞ることはあまりできていない。だから予想で投票するしかない。

冬良くんは占い師だから違う。

秋日くんは冬良くん(占い師)が「市民」って言ってたから違う。

───残っているのは、由香ちゃん、柚ちゃん、拓野くんの3人。

一番怪しいのは───由香ちゃんだ。

ほとんど喋っていないし、「私はみんなを疑ってるから」と、言っていた。

たぶん、今回追放されるのは由香ちゃんだろう。

───って、こんなに冷静に予想できるの、なんでだろう。やっぱ、慣れ、なのかなぁ。ちょっと自分が怖いよ。

はぁぁ、と深いため息をついて、なんの感情もうつしていない目で、そっと「由香」を押す。

罪悪感というのも、だんだん薄れてきたような気がした。

私って、唯愛ちゃんや由香ちゃんのこと、どう思っていたんだろう。心から親しい友達、と思っていたのなら、こんなになんにも感じないわけがない。

唯愛ちゃんのときは、さすがに泣きそうになったし、後悔もたくさんしたが、今はそのことが何年も前のことのように感じている。

思い出すと悲しくなる、なんてことは全くなくなった。まるで、唯愛ちゃんが知らない人で、唯愛ちゃんが死んだとかいうニュースがテレビで流れているような感じだ。

私って、だいぶヤバい奴だったんだな……

うなだれて、わざとらしいため息をついた。そのとき、今日ずっと感じていた違和感が何か分かった。

「つらい」「悲しい」「絶望」などの感情が、消え去ってしまっているのだ。

普通はここで驚くものだが、「驚く」という感情も消えてしまっていたのか、何も感じなかった。

『君たちってさ!実は結構仲がいいのかな?今回も一人に投票が集中してるよ!』

楽しんでいるかのような声が聞こえてきて、私は視線をロボに向けた。

『今回追放されちゃうのはねー。由香ちゃんです!』

予想通りの言葉だ。

やっぱり。

「わ、私……が追放されちゃうの……」

真っ青な顔で立ち尽くす由香ちゃん。

瞳には、微かに諦めの色が浮かんでいる。

そんな由香ちゃんを見ていても、何も感じなかった。

でも、このまま何にも反応しなかったら疑われちゃうから、嘘でも悲しい態度をとらなきゃ。唯愛ちゃんのときを思い出せば、演技なんて簡単にできる。

よろよろっとふらつく足で由香ちゃんに歩み寄る。

「由香ちゃ……由香ちゃんもいなくなっちゃうの…?」

涙を流して由香ちゃんに抱きついた。

『由香。さようなら。唯愛に会いにいっておいで。』

「明菜…明菜は生き残ってね。」

その言葉を残して由香ちゃんは消えた。



その後も、涙を流す演技は続けた。

自分の部屋に逃げるように走ってドアを閉める。

すると、今さっきまで泣いていたのが嘘のように涙が引っ込んだ。

私って、あんなに演技上手かったっけ?

「心が空っぽになったみたい。」

ぽつり、とつぶやいた。


『あなたは狩人です。誰を守りますか?』

「んー。誰でもいいんだよなぁ〜。」

でもやっぱ占い師は守らないとダメか。

『冬良』

空中画面が消えるのを見届けたあと、いつものようにベットに飛び込む。

「感情がなくなったら、「人狼ゲーム」簡単に攻略できそうだなっ。」

楽しそうに言ったが、「楽しい」という感情も消えてしまっていたのか、本当は何にも感じていなかった。

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