ラブちゃんは超人気アイドルだった ③

 024



 遅れ馳せながら一時限目の授業中に教室内へ入ると、教科担任と何人かの生徒の視線を貰ってバツが悪かった。

 しかし、今の俺が何かを考えるのならば、逆に授業中が安全だと結論付けたのだから仕方ない。



 俺は、先生に少しばかりの事情説明をしてから大人しく席についた。一限目は現代文。数学や物理に比べて時間が余るので助かる。



「……ふぅ」



 さて。



 今、俺がすべき事はなんだろうか。間違いなく、今日中にすべてを解決するべきだが、それならば放課後までに解決策を編み出すしか無い。



 俺への物理的なダメージを受ける機会は増やしたくないし、これ以上噂が表面化してラブや切羽や星雲にも悪評が及ぶのも望むところではない。

 


 生徒間の民意の操作の仕組み自体は簡単だ。何者かが俺の悪い噂を流して俺を悪にしてるだけ。ならば、解決策もシンプルで、そいつに『情報は間違っていた』と流布させるだけでいい。



 もちろん、そいつを見つけ出すのが難しいという話なのだが。後述する連中に比べれば、まだ何とかなるレベルだと言えるだろう。



 問題は、花見よりも前からちょっかいをかけてきていた過激派の連中だ。



 こいつらは、ラブに男の影があるという根本的な事柄から俺を憎んでいる。

 きっと、話し合いや譲り合いで妥協点を折り合うというのは不可能で、俺が潰れるまで行動を止めないに違いない。



 俺が、往生際悪く学び続けたように、目的が遂げられるか、或いは失われるまで連中は進み続けるだろう。



 しかし、譲れないのは俺がコイケンを辞める事だ。いや、辞める事自体はいいのだが、連中に負けて辞めさせられるというのが許せないのだ。



 俺は争いが嫌いだが、それ以上に負けることが大嫌いだ。ここまでコケにされて、黙って泣き寝入りなんてあり得ない。

 何より、せっかく彼女たちが手に入れた場所を俺が壊すなんて、そんなのあんまりだろう。



 ……戦おう。もう、それしかない。



 しかし、情報源を探し出すヒントはこの写真とワープロで打たれた筆跡鑑定不能のメッセージのみ。おまけに、過激派は存在すら朧気なまま。



 敵は何人だ?下野の話では一枚岩ではないようだが、逆に言えば一枚の岩になれないくらい巨大な組織であるという事だ。



 そもそも、盗撮写真の準備や、花見の件を知っているというのはどういう事だ?



 コイケン部員の誰かが話しているのを聞いたのか?それとも、たまたま見かけただけなのか?ラブとの写真だけでなく、なぜ切羽や星雲や夕のまで撮影出来たんだ?それは、最初から俺を追っていたという事になるんじゃないのか?なら、それはいつからだったんだ?



 何も分からない。本当に、ヘビィな状況だ。



「……三島先輩」



 思い付いた瞬間、俺は恥も外聞もなく三島先輩へラインをした。今の俺に考えられる、問題と可能性の全てを記述して現状を伝えた。余すことなく、ただ事実と考察だけを聞いてもらった。



 他の何者をも被害から遠ざけようとしても、あの人にだけは100%の信頼を寄せて助けを求められる。

 それ自体が、当然の事だと確信できる。何故なら、それがあの人の凄さだからだ。



「待ちくたびれたよ、上月。次の中休み、文芸部室へ来たまえ」



 ……この人には、本当にすべてがお見通しらしい。言われた通り、文芸部室へ向かうとしよう。



 そして、中休み。



 俺は、何者かから廊下を歩く途中に絵の具の溶けた水をぶっ掛けられたから、職員室へ向かって先生に「次の授業は遅れます」と一言添えて人の来ないトイレでジャージに着替え、文芸部室へと向かった。



「どうした、上月。シャワーでも浴びてきたのか?」

「先輩に会うのに、汗臭いと失礼ですから」

「はっはっは。まだ余裕そうじゃあないか。しかし、酷い事をする奴らがいたモノだな。寒くないか?」

「えぇ、大丈夫です」



 三島先輩は、魔法瓶からお茶を出して俺に出してくれた。もしかして、この人が水を掛けろと指示したんじゃないかってくらい周到な用意だ。



 もちろん、この人を疑うくらいなら俺は俺の頭の方を疑うけどな。

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