四葉ラブリの恋バナ ①(ヒロイン視点)
×××
「というワケで、副部長。今日の議題をお願いします」
「じゃあ、逆に『苦手なタイプ』」
「苦手なタイプ! それでは! シンキングタイムは一分です!」
さて、今日も楽しく活動していこっか。
それにしても、毎日こんなに色んなパターンの議題を思いつくなんて感心しちゃう。そんなことを思いながら、あたしはトラちゃんの顔をチラと見た。
普段は適当でやる気が無いように見えるのに、答えを考えるこの時だけは凄く真剣な顔をしている。男の子のこういう表情って、何だかカッコよく見えてしまうから不思議だ。
ドキドキ。
とりあえず、答えを書かなきゃ。あたしの嫌いなタイプは。えっと、あれ?意外と、嫌いなタイプって分からないなぁ。
もちろん、『この人イヤ!』って思う瞬間は時々あるけど、その人について考えることはないんだもん。
……ダメ!思いつかない!でも無回答は嫌だから、『♡すっごいナルシスト』って書いておこう。うん、無理に褒めるのって疲れるし!
「はい! 一分経ちました! それでは、回答オープンです!」
ジャン!
キリちゃんが『・ネガティブ過ぎる男』、コハちゃんが『☆強引過ぎる人』、ユウちゃんが『①プライドが高過ぎる人』、トラちゃんが『束縛女』。
そうだよね。やっぱり、自己中っていうのは致命的だよね。
「それじゃ、星雲の『強引過ぎる人』から行こうか」
言われ、コハちゃんはスムーズに口を開いた。
トラちゃんは、トップバッターを指名するときに何となく答えが決まってそうな人を選んでくれている気がする。
意外と、私たちのことをよく見てる。自分じゃ気づいてないかもしれないけどね。
「最近、クラスも馴染んできたみたいで結構みんなでお話したりするんですよ」
「おぉ! 仲良くなれたんだ! いいね!」
「えへへ。ありがとうございます、四葉先輩。けど、だからみんなの性格が少しずつ分かってきたと言いますか。初対面で穏やかだったので、馴れ馴れしいとちょっと怖いんです」
「ほう、怖いってのは?」
促され、コハちゃんは困ったように首を傾げた。本当は、嫌な人のことでも陰口を言いたくないんだろうなって思った。
「大きい声で意見を通そうとするっていうか、他の人のお話を聞こうとしないというか。そういう感じです。萎縮しちゃいます」
「あぁ! 分かるよ、それ! ちゃんと話し合いで決めたいのに、無理やり意見を押し通そうとするのって普通に怖いよね!」
「うむ。何を考えてるか分からないのは不気味だが、分かりすぎるのもまた不気味という事だな」
キリちゃんは、男の子ばかりの環境で育ってきたからか臆さずズバッと切り込んだ意見を言ってくれる。
そういうふうに考えられて羨ましい!あたしも、カッコいい意見を言って出来る女だって思われたい!
無理だけど!
「夕の、『プライドが高過ぎる人』にも通ずるモノがあるな。お前、なんで嫌いなの?」
「店員さんに横暴な態度取るとか、他人のいいところを素直に褒められないとか。そういうのって、普通にカッコ悪いからかな」
「ほん……っ! それ! それだよ、ユウちゃん! それそれ!」
あぁ、なんで思い出さなかったんだろ!この前、クラスの友達と出掛けたときにタメ口使う男の子がいて嫌な気持ちになったじゃん!
そもそも、お笑い芸人さんとか男の子のアイドルがスタッフさんに悪い態度取ってるのを見てすっごく嫌になってたじゃん!それで言い合いになった事だって何回もあったじゃん!
嫌なことだから忘れちゃってた!私もそれ嫌い!
「嫌だよね。普段誰にも相手にされてないのか、それとも普段からそれが許される立場にいるのか分からないけど。そういう人って、ちっとも魅力ないよ」
「凄く分かります。どうしてそんなに酷い事が出来るんだろうって、日常でも感じる事ありますね」
「反面教師には感謝する気なんて起こらないのにな、まったく」
気が付くと、更にヒートアップした女の子たちのボロクソな言い草にトラちゃんは困ったような表情で八の字眉を浮かべていた。
なるほど、女の子同士だと陰口も盛り上がっちゃうから気が付かないけど、男の子ってこういう目であたしたちを見てるんだ。
……うぅ。
「ところで、切羽のネガティブってのはどういう意味だ? もしかして、俺のこと嫌いだったのか!?」
「あ……っ」
思わず、あたしは声を漏らしてしまった。今のは、明らかに自虐して場の空気を流そうとしたって分かっちゃったからだ。
やっぱり、みんなも気が付いてた。その問いに合わせて、一斉に咳払いで誤魔化している。
あたしもしておこう。
「べ、別に、虎生といて気分が暗くなることはないよ。私が言いたいのは、必ず「でも」とか「だって」から始まる男だから。『言い訳がましい』、の方が正しいかもしれないな」
「なんだ、ビックリさせるなよ。今日の議事録がメンヘラのリスカ日記みたいになるところだったぞ」
「ふふ、何だそれは。逆に見てみたいな」
……なんかズルいけど、今日だけはあたしの意見を取り上げないでほしいって思った。
「それで、ラブ。お前、アイドルだったのにナルシストが嫌いなのか。アイドルなんて、ナルシストじゃなきゃ出来ないだろ」
ぎゃあ!
「あ、あたしの事は関係ないでしょ! それに、あたしのパフォーマンスでみんなが笑顔になってくれるのが嬉しかっただけだもん!」
「トラ、四葉さんはそういう業界にいたから過剰なナルシストが嫌いになったんじゃないかな」
「そ、そうそう! そうだよユウちゃん! それに、普通は多少なりとも自分の事が好きで、誰かにお話聞いてもらいたいって思っちゃうでしょ!?」
キリちゃんとコハちゃんは顔を赤くしながら頷き、トラちゃんとユウちゃんはキョトンとしながら首を傾げていた。
ダメだ!暗い組はちっとも分かってくれてない!
「大体! トラちゃんの束縛女ってなに!? どれくらいの束縛が嫌なの!?」
恥ずかしくてどうしようもなかったから、私の番はさっさと流すことにした。もう、顔が熱くてヤだ!
「毎日会わなきゃダメとか言われると困る」
「……え? 男の人って、そういう感じなんですか?」
コハちゃんが、悲しそうな声で呟く。確かに、それはあたしもちょっと悲しいかもしれない。
「いや、これは女だってそうだろ。ミラボー曰く『短い不在は恋を活気つける』らしいし、長続きさせる為にも束縛はよくない」
……これは、どうなんだろう。相手が嫌なら合わせてあげなきゃダメな気がするし、会えない時間は大切っていう意見もわかっちゃう。
でもでも、もしも本気で好きになったら我慢出来る気がしないよ。
「まぁ、それは性別じゃなくて人柄に由来するだろうし、明日の議題にしたらいいんじゃないかな」
「そうだな。じゃあ、明日の議題は『束縛するか否か』でよろしく」
そして、今日の恋バナは終わった。なるべく、嫌なところを議題にあげるのは止めて欲しいって、そんなワガママを思ってしまう日だった。
もちろん、翌日の恋バナであたしが『束縛はよくない』と答えたのは言うまでもないと思うけど。
問題は、当事者になったあたしが本当に束縛しないでいられるかが分からない、ということだよね。
……はぁ。
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