第48話観光しようぜ!
魔法都市は比較的平和な場所だ。魔物の出現率は高くなく、近辺に強大な魔王の姿もない。
もともと優れた魔法使いが集う場所だけあって、防衛能力はかなり高い。
魔法大学は多くの優秀な魔法使いを抱えている。
研究職の魔法使い、前途有望な学生たち。魔法関係のスキルランクを平均すればB程度。
実戦経験がほとんどないのが玉に瑕だが、彼らが固まって高火力の魔法を繰り出すだけでも相当な脅威となるだろう。
魔物や魔王の蔓延るこの大陸において、魔法都市は比較的平和で栄えている場所と言えよう。
そんな都市に来たのだから、一日くらいかけてじっくり見て回りたいだろう。
異世界観光ツアーとかワクワクするし。
俺は事あるごとにヒビキにそう訴えていた。
「それじゃあ、そろそろキョウがうるさいし観光ツアーでもするか」
「よっしゃ! カタブツが折れた!」
「おい、調子乗ってるとぶん殴るぞ」
実際ヒビキはカタブツなので、こういった言動は珍しい。
もしかしてちょっと元気出たか?
「観光……そうなると私の出番ですね!」
横で聞いていたソフィアがなぜか気合を入れてフンフン言い始めた。
「魔法都市については王女としての勉強の際にひとしきり勉強しております! 観光ツアーとなれば、私が完璧なガイド役を演じてみせましょう!」
「……お、おう」
彼女の目があまりにもキラキラしているので、俺は余計なことを言うのをやめた。
彼女が何かやりたい、と言ってくれるだけでも嬉しいし。
張り切るソフィアに先導されて、俺たち四人は宿から出た。
◇
「魔法都市最大の特徴と言えば、やはり中央にそびえ立つ魔法大学でしょう。ただしあそこは無許可で立ち入れるような場所ではないので、直接見学はできません。キョウさんとヒビキさんはよく出入りしていましたが、それはあくまで勉学のため。観光をしたいと言っても聞き入れてもらえないでしょう」
「ああ、あんまり自由に移動とかはさせてもらえなかったな。機密情報とか多いんだろう」
ヒビキが納得するように頷く。
「しかし、その研究結果は都市内に還元されているのです。あれを見てください」
ソフィアが指刺したのは、路上に設置された何かの露店だった。店主がニコニコと何かを手に取り、子どもに手渡している。
「アイスクリームという食べ物は転生者の皆さんの知識から作られました。そして、冷やして保存する技術は魔法大学の研究の賜物です」
よく見れば、店主の後ろには小さな冷蔵庫のようなものが置いてあった。
当然電気が通っているわけがないので、俺たちの知る冷蔵庫のわけがない。
「アイスクリームを保存する箱は魔法大学の開発した氷魔法『フリージングブレス』の魔法陣が刻まれています。それによって内部を冷えたままにしているのです」
「魔法陣……魔法大学で名前だけは聞いたな。最近研究されている技術で、スキルを持たない人でも魔法の恩恵を受けられる研究だったか」
「さすがヒビキさん、よく学んだおりますね。まだ研究段階のため王都でもほとんど知られていないですね」
話の内容はあまり理解できなかったが、何やらすごいことなのは伝わってきた。
ちなみにシュカは俺の隣で「ぽけーっ」としている。馬鹿仲間がいて俺も一安心だ。
「なるほどな。女の人が可愛いだけじゃなかったのか、魔法大学」
「お前は大学で何を学んだんだ?」
ヒビキの呆れた目が俺に突き刺さった。
「ねえねえ! そんなことよりそのアイスって言うの食べてみようよ! なんか美味しそうな匂いがする!」
難しい話に飽きたらしい。アホの子であるシュカはワクワクとした口調で露店を指さした。
「そうですね。ここで話をしているよりも味わった方が分かりやすいかもしれません。食べてみましょうか」
店主の元に走って行ったシュカが金を出すと、アイスクリームが4つ出てくる。
小さなカップの中に入っているそれは、久しぶりに見たこともあってかなり美味しそうに見えた。
露店の前には小さなテーブルとイスが置いてある。ちょっとおしゃれな喫茶店みたいだ。この辺のデザインも転生者の知識だろうか。
席に着くと、待ちきれないと言った様子でシュカがさっそくかぶりついた。
「いただきまーす! ……つめたっ!?」
驚いたシュカは口を抑えてオロオロし始めた。
「こ、氷を丸飲みした時みたいだね……でも、信じられないくらい甘い!」
慌てるシュカに、俺は不敵な笑みを浮かべた。
「ククク、田舎者がうろたえやがって。舌が肥えた日本人にとってこれくらいありふれたもんだぜ? ……うまっ! 想像以上に美味いな!」
「お前もたいがい田舎者だろ」
「いやヒビキも食ってみろって。美味いから」
「……本当だ」
「露店で食べるのは不思議な趣がありますね。王城での豪華な食事とはまた違った美味しさです」
おそらく高級料理にも慣れているだろうソフィアも満足顔だった。
「スキルってこういう使い方もあるんだな」
多分、俺が氷魔法のスキルをもらったところでこんな使い方は思いつかなかっただろう。
「ええ。スキルを授かって、自分のためだけではなく他人のために活かそうと思った優しい方がこういった発想をできるのでしょう。王国が誇るべき人材ですね」
ソフィアが嬉しそうに笑った。
彼女は偽物のお姫様かもしれないが、国を想う気持ちは本物だった。
カップの中のアイスクリームが消えてみんなが満足した顔になると、観光ガイドのソフィアがニッコリ笑って言った。
「さて、それでは次のおすすめスポットに行きましょうか」
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