第46話理屈と直感
俺がヒビキと一緒に魔法の練習に励んでいた間も、シュカとソフィアは何度か冒険者としての依頼を受けていたらしい。
俺たちが魔法大学で研鑽しているうちに、パーティーの資金は増えていた。
お金自体は召喚された時にいっぱいもらったが、ずっと働かずに暮らせるほどではないので非常にありがたい。
ヒモ、という言葉が一瞬頭をよぎった。
大丈夫、今から稼げばセーフ。まだヒモじゃない。
とにかく。冒険者ギルドでも重用されるようになり、彼女たち二人は凄腕冒険者として名前を挙げていた。
そもそも、元Sランク冒険者であるシュカがいれた大抵の依頼はどうにかなる。彼女にタイマンで勝てる存在などなかなか存在しないだろう。
加えて回復役のソフィアは聖女であり、おそらくこの世界で最も優秀な治癒術師だ。動けなくなるというデメリットのある騎士の力を使わなくてもシュカなら十分彼女を守れるだろう。
……改めて、コイツらなんで俺と一緒にいるんだ?
俺は自他共に認めるポジティブな人間だが自分の実力を過信しているわけではない。
勇者としての加護があるとはいえ、実績と経験が全然足りてない。
対してシュカとソフィアは、経験も実績も十分な強者だ。
……まあ、いいか! 心強い彼女たちが俺のハーレムパーティー作りを手伝ってくれるって言うんだから喜んでおこう!
◇
さっそく、俺たちは4人で冒険者ギルドに来ていた。
「それじゃあソフィア、連携の練習のために、ちょっと手ごわくて練習になりそうな依頼を見繕ってくれないか?」
「ええ、お任せください」
ソフィアは穏やかに笑うと、さっそく依頼書の貼られた掲示板と睨めっこを始めた。
俺たちのやり取りを見ていたシュカが、不満そうに俺に話しかけてきた。
「冒険者のことなら僕に聞いてよ。なんでソフィアに頼んだの?」
「お前にこういうことやらせるとトラブル持ち込んでくるだろ。俺はもう知ってんだよ」
「ええー。信用ないなー」
当たり前だろ。短い付き合いでお前の馬鹿さはよく分かってる。
「いや、信用してるよ。お前は絶対物事をややこしくして俺に面倒事を持ち込むって信じてる」
「キョウ君ひどいなー。そんなんじゃ女の子にモテないよ?」
「グッ……女の子と接する時はもっと優しくするから大丈夫だ」
「知らないの? 裏表のある男は嫌われるんだよ?」
「……」
こ、コイツ普段馬鹿なくせに舌はよく回りやがる……!
言い負かした、と確信したのかシュカはニマニマと笑って俺の顔を見ていた。
「キョウさん、これなんかはいかがでしょうか?」
ソフィアが掴んできた依頼書を四人で覗き込む。
パッと見た感じ、森から出てきてしまった魔物の討伐依頼のようだ。
「ダイヤモンドエイプ? なんとも大仰な名前だな」
「ええ。強い魔物として知られています。王都の騎士団でもこれを倒すのはそれなりに苦労するでしょう」
「へえ、ソフィアが言うんなら本当に強いんだね」
シュカがキラキラと目を輝かせた。まだ見ぬ強敵との戦いにワクワクしているようだ。
「シュカ、忘れたのか? 俺たちは連携の練習をするんだ」
「覚えてるよ。僕が最初にぶん殴って、みんなにおこぼれを上げればいいんでしょ」
「全然分かってないじゃねえか! 協調性の話をしてんだよ!」
チームワークを、という話をしたはずなのに彼女は都合の良い曲解をしていた。
「強敵はこっちの足並みが揃うのなんていちいち待たないじゃん! 各々が思う最適な行動を取ればそれが連携になるでしょ!」
シュカは強情だった。これだけは譲れない、という意思が見える。
言葉を聞いていると、どうやら考えなしに言っているわけではないようだった。
多分これは、シュカが多くの経験から出した結論なのだろう。
「キョウ君の理屈は戦いの中では通じないよ。そんなことやってたら死ぬだけだ」
彼女は強い。
己の直感に従って今まで生き抜いてきたから、独自の結論を持っている。
「シュカさんの言う理屈は完全に間違いとは言えませんね。騎士団でも、個人技に優れ我が強い騎士は遊撃として単独行動をさせたりしていました」
ソフィアは規律正しさを重んじるかと思ったが、意外にもシュカに同意しているようだ。
強さを極めた者同士、通じ合うものがあるのかもしれない。
「どうするんだキョウ」
ヒビキに言われるまでもなく、分かっている。
シュカを無理やり規律の中に入れ込むのは間違っている。彼女はきっと、自由の中でこそ輝く人間だ。
それでも。
「でも、ソウルドミネーターと戦った時は、シュカは自分を犠牲にしようとしただろ」
「……それは、そうだけど」
「俺は、ああいうのは嫌だ」
「ッ……」
彼女は大きく目を開いて俺を見つめた。
「俺が嫌だ。俺は自分勝手だから、俺のために誰かが死んでいくのは絶対に嫌だ。だから、俺が本当にヤバいと思ったら俺に従って欲しい。俺は俺が嫌だと思う結末を絶対に認めたくない」
シュカはしばらくじっと俺を見つめたかと思うと、やがておずおずと頷いた。
「分かったら練習だ。いざという時のためだ。シュカには自由が似合うと思うし、好きに振る舞って欲しい。ただ、本気でヤバい時に力を貸して欲しいってだけだ。分かったか?」
こくこく、と頷くシュカは、なんだかいつもの覇気がない。もっとこう、反発されるかと思ったんだが……。
「ソフィアも、それでいいか?」
「キョウさんがそう判断したのなら、私に異論はありませんよ」
ソフィアは優しく笑ってそう言ってくれた。
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