第40話魔法講義
受付の人に事情を話してからの魔法大学の動きは早かった。
俺たちの求めている魔法の熟達を助けてくれる人員を見つけ出し、時間と場所の都合をつける。
俺とヒビキに簡単な魔法大学内部の見学をさせているうちにそれらの工程を終わらせ、待たせることなく俺たちを教師役の元へと案内した。
俺たちの教師は、随分と綺麗な女の人だった。
「スキルを授かった勇者の皆さんはいきなり魔法を使えるせいで魔法の基礎をおろそかにしがちです。私から簡単にそのあたりを基礎理論と共にご教授しましょう」
「うわあ、やっぱり勉強じゃないか! いやだいやだ! 俺は自由に暮らしたいー!」
「キョウ、うるさい」
隣で一緒に話を聞いているヒビキの突っ込みがそっけない。悲しい。
いやしかし……やっぱりこの教えてくれている人綺麗だぞ。茶髪にほどよく膨らんだ胸。キリッとした目は意思が強そうだ。
仲良くなったら「フフ、キョウさんには特別に『私の攻略理論』教えてあげます」とか囁いてくれそう。
おお、なんだかやる気が上がってきた。
「はいはい先生! 俺は女の子にモテる魔法が使いたいんですけどどんなのがありますか?」
「急にやる気になったな……そして質問が浅ましい」
ヒビキのジトっとした目線を受けながら俺が女性を見ていると、彼女は苦笑した。
「あっはは……私はここの一生徒ですので、先生なんて呼ばなくていいですよ。それから、モテる魔法と言いますがキョウさんの『炎魔法 B』であれば十分派手な魔法は打てると思いますよ」
「おお……聞いたかキョウ! 俺は魔法でモテることができるらしいぞ!」
「おうおう、良かったなあ。派手な魔法が撃てれば絶対モテると思ってるお前のおめでたい頭が羨ましいよ」
くそ、ヒビキの奴め。自分はSランクの魔法を使えるからって余裕ぶっこきやがって。
「あなた方は高位のスキルを持っているため、強力な魔法を最初から使えます。しかし、魔法とは使う人間の練度によって威力が規模、正確性が変わるものです」
「ああ、魔力の扱いとか、魔力変換率とかそういう話ですか?」
ヒビキが聞いたことのないような言葉を発し始めた。俺は頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
「ヒビキさんは随分詳しそうですね。どこかで教育を受けたのですか?」
「いや、王都にいた頃に本で何度か読んだんです」
「そ、それ俺に言えよー!」
こいつ、いつの間に一人で強くなろうとしていたのか。ゆるせん。
「あの頃のキョウはお姫様を口説くのに夢中だったからな。そんな暇なかったよ」
「ああー、あの頃か。たしかに忙しかったな」
というか、恋をし始めていたのかもしれない。
お姫様と、誰の目にも触れないようにひっそりと会う。みんなに慕われている彼女が、俺だけを見てくれている。そんな状況に酔っていたのかもしれない。
……まあ、結局のところソフィアの中身は男だったわけだが。
くそ、騙されたぜ……。お姫様がTSっ娘とか予想できるかよ。
「お二人の知識がどれくらい違うのか分からないので、確認がてら一つずつ話しますね。まず、私たち魔法使いは体内にある魔力を使って魔法を放ちます」
コク、と俺とヒビキが頷く。
「魔力はこの世界に生きるすべての人間が持っている生命力のようなものです。それを消費することで体力を使います。魔力が多ければ多いほど、タフな魔法使いと言えるでしょう」
「ちなみに、俺たちの魔力はどれくらいなんですか?」
「はっきり測ることはできませんが……勇者として召喚される方は総じて一般よりも魔力が高い傾向にありますね。安心していいと思いますよ」
茶髪の女性はにっこりと笑った。そんな顔もまたいいな……。
彼女の顔に見惚れる俺を、ヒビキが「真面目に勉強しろよ……」という顔で見ていた。
「初歩的な魔法を使うのにも、人によって使う魔力量は違います。魔力を無駄なく発動させていれば、より少ない魔力で魔法を行使できます。勇者の皆さんがおろそかにしがちなのはこの部分です」
その言葉に、ヒビキが納得したように頷く。
「なるほど。ボクの魔法が使っている魔力量のわりに効果が薄かったのはそういうことか」
「じ、自分の魔力量が分かるのですか?」
ヒビキの言葉に、茶髪の女性が目を大きくして問いかけた。
「はい。多分ボクのスキルの『魔力透視 S』の効果でしょう。自分も他人も、魔力を使っている際には魔力らしきものが光って見えます」
「え? なんだよそのカッコよさそうな能力!」
ヒビキの言葉を聞いて、茶髪の女性は驚いた顔を見せた。
「そのようなスキルもあるのですか……勇者の授かるスキルとはすごいものですね」
「なあなあ、シュカとか魔力を纏って戦ってるんだろ? どんな風に見えるんだ? ソフィアは? 俺は?」
隠していたなんて水臭いじゃないか。そう思ってヒビキに根掘り葉掘り聞いてみる。
「シュカのは薄いベールを纏っているようなイメージだな。量は決して多くないのに、体をびっちり覆っていてとても硬い」
体を覆う薄いベール……なんだろう、ちょっとエッチだな。
「ソフィアが聖魔法を使う時は神々しい光がぶわっって出る感じだ。魔力量自体がボクらより全然上。才能をフル活用して聖魔法を使っているという印象を受けた」
「じゃあ俺は?」
期待を込めて聞くと、ヒビキは少しだけ唸った。
「お前あんまり魔力使わないんだよな……」
「え、そうなの?」
「ああ。剣振ってる時は全然感じない。それにお前はなかなか魔法を使わないし」
「ああ、どうしても斬った方が早いと思えてな」
『炎魔法B』より『剣術B』の方がなんとなく手になじむ。俺の気質に合っているのかもしれない。
俺たちの話を聞いていた茶髪の女性が口を開いた。
「魔法と剣の両方を扱う方は剣術にも魔力を乗せる方が多いですね。もっとも、魔力切れに陥りやすくなるので一長一短ですが」
「へえ……」
そう言えばシュカもそんなこと話してたっけ。高位の剣士は剣に魔力を籠めるとかなんとか。
本気を出したソフィアも、なんかすごい力纏っていたしな。本人は『剣気』と言っていたが、あれも魔力の一瞬なのだろう。
「それじゃあキョウさん。魔法と剣の両方に魔力を使えるように、訓練を頑張りましょう!」
グッ、と手を握る茶髪の女性。
可愛い、と見惚れる。心なしか心臓の動きが早い。
つ、ついに見つかっちまったか。俺の女性との初めての出会い……! この知的な女性と、理屈を超えた愛をしちまうのか!?
そんなことを考えていると、ヒビキちょっとだけ冷たい声で口を挟んだ。
「キョウ、顔がにやけててキモい」
「なんだとお前!?」
お前だけ綺麗な顔に生まれ変わったからって調子に乗るなよ!?
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