第39話優れた人間と比べられるのはつらい
宿で荷物を置いて、冒険者ギルドの場所を確認。ついでに美味しそうな飯屋も何件か見つけておく。
「それじゃ、観光だな!」
「待て、お気楽馬鹿! ここに来た理由を忘れたのか!?」
ウキウキと街を歩こうとした俺の肩を、ヒビキがガッチリ掴んだ。
「え? 可愛い女の子を見つけるために来たんじゃないのか?」
「オーケー、お前の頭の中が空っぽな事はよくわかった。それじゃあ、ボクの言葉をもう一度聞いて、その貧相な頭の中に頑張ってとどめておけよ」
ヒビキがくい、と眼鏡を上げて説明を始める。
「魔法都市では一般人にも魔法の学術研究を公開している。これは画期的なことで、この都市が魔法と言う学問にどこまでも誠実であることを示している。道中ソフィアが頑張って説明してくれたな」
「あーうん……おう!」
「あら、キョウさん?」
ソフィアがにっこりと笑って俺を睨んだ。
こわい。いつも優しい顔をしている彼女の睨み顔怖い。
「ボクとキョウは魔法のスキルを持っているだろう。この都市の魔法研究について知れば、熟練度が上がるかもしれない」
「ええー。勉強ってことか?」
それはまた、気乗りしないな。なんで異世界に来てまで勉強しないといけないんだ。
「勉強と言えばそうだが、研究するのは魔法というファンタジーについてだぞ。そう聞くと、キョウでもやる気が出てこないか?」
「ああー、そう言われればそうかもな」
魔法。勉強すればもっと凄いこともできるようになるかもしれない。それは結果的に女の子にモテることにも繋がるかも。
「ヒビキは本当にキョウ君の扱いがうまいね。なんていうの、手のひらで転がしてる?」
「それは人聞きが悪いから嫌なんだが……これでも幼馴染だからな。コイツがどういうことにやる気を出すのかは知っている。高校でコイツが赤点を取らなかったのは半分くらいはボクのおかげだな」
シュカの問いに、ヒビキは豊満に育った胸を張った。
実際のところ、ヒビキが俺を無理やり勉強させてくれなかったら危なかった。
話を聞いていたソフィアが楽しそうに笑った。
「ヒビキさんは今までずっとキョウさんを支えていたのですね。今の二人を見れば、そんな雰囲気が伝わってきます」
「……いや、今のボクがコイツを支えているのかは正直微妙だがな」
ヒビキが言いよどむ。眼鏡を押し上げることで、彼女がどんな表情をしているのか窺い知れなくなる。
「ヒビキ……?」
彼女らしからぬ態度に違和感を覚える。
しかしヒビキがすぐに別の言葉を発するので、俺は疑問を口にする機会を失った。
「だから、ボクとキョウはしばらく大学に通うことになる。キョウが嫌だと言ってもボクが引き摺っていく。シュカとソフィアにはその間に冒険者としての依頼をこなしてランク上げに貢献してもらう。二人の実力なら造作もないことだろ?」
「まあね、僕強いし!」
「異論はありませんよ。将来のことを考えれば自己研鑽は必要でしょう。キョウさんの剣の技術については私がお教えできます。通常の魔法についてはヒビキさんにお任せしましょう」
シュカとソフィアが揃えば危険に陥ることはまずないだろう。シュカは接近戦最強だし、ソフィアは本気を出せばどんな敵にも負けない気がする。
ヒビキは胸がデカイ。
……あれ、このパーティー俺いるか?
「それじゃあキョウ、さっそく魔法大学に行くぞ」
「高校すっ飛ばして大学に行くとは思わなかったな、ヒビキ」
「なに馬鹿なこと言ってんだ。この世界に小中高の一貫教育なんてないから、ボクたちの知る大学とはちょっと違うものだぞ。どっちかっていうと研究室だな」
ヒビキのそんな言葉を聞いて、俺たちは魔法都市の中心部に存在するデカイ建物、魔法大学へと出向くことになった。
魔法大学の受付に行って、簡単に事情を説明する。受付の男は見知らぬ人間が突然訪れたにも関わらず、丁寧に接してくれた。
「なるほど、勇者様ですね。世界の闇を払わんとする皆さんへの協力を魔法大学は惜しみません。しかし、それは皆さんの実力を見てからです。失礼ながら、鑑定の魔道具を使わせていただいても?」
受付の男が何やら丸い魔道具を出す。水晶玉のようなそれは、鑑定ができるらしい。
後でヒビキに聞いたが、鑑定の水晶玉はかなりの高級品で滅多にお目にかかれないものらしい。
「それじゃあボクからやります」
ヒビキが水晶玉に手をかざすと、ガラスのような表面には文字が浮かび上がってきた。
「こ、これは……Sランクの魔法ですか……! 見事ですね、ヒビキ様。次はキョウ様もお願いします」
俺もヒビキと同じように水晶玉に手をかざす。
ヒビキがすごいのを見せた後だとやりづらい。
水晶玉に文字が浮かび上がる。受付の男はそれを見て、感嘆するわけでもなく俺に問いかけてきた。
「これは……『楽天家S』とはいったいどんなスキルなのですか?」
「俺が聞きたいです」
もっとカッコイイやつが欲しかった。
「炎魔法のランクはB。十分に優秀なものをお持ちですね」
ヒビキの時とリアクションが露骨に違う。悲しい。
「上の者に確認してまいります。そちらに腰掛けて少々お待ちください」
どこかに行く受付の男を見送って、俺とヒビキはその場で待つことになった。
「ヒビキ、やっぱりスキルを見ると俺より全然強そうだよな。『水魔法S』っていうのは聞いた奴全員驚くからすごいんだろうな」
「どれだけ強い魔法を使えても役に立たなきゃ意味ないけどな」
ヒビキの表情が少し硬い。珍しい反応だ。
「役に立つだろ。少なくとも『楽天家S』よりは」
取り換えてほしい。切実に。
俺も水魔法をぶわーって出して女の子にキャーって言われたかった。
「キョウは本当にやばい時に正解を選べる奴だろ。王城でソウルドミネーターと戦った時もそうだった。あの時ソフィアがソウルドミネーターを倒してくれたのは、きっとキョウがソフィアのことを助けたいって言ったからだ」
「……」
ああ、ヒビキの悪いところが出ているな。少し顔を下げて語る彼女に、俺はそんな風に思った。
良い方向にも悪い方向にも想像力が働く。
「シュカは普段馬鹿そうに振る舞っているけど、度胸がある奴だ。ソウルドミネーターが本気を出した時に真っ先にボクたちを逃がそうとしたのは彼女だった」
ヒビキの口調はずっと平坦だ。
「ソフィアは王都にいた頃とは違う。彼女はもう、自分の芯を持って行動している。それに彼女は特別なものをいっぱい持っている。――それじゃあ、ボクには何がある」
「……」
少し、言葉に迷う。そして、迷った俺を見たヒビキはわずかに顔を下げた。
「ヒビキは――」
俺が言いかけた時、遠くから声がした。
「お待たせいたしました。こちらにお願いします」
先ほどの受付の男の声だ。
「キョウ、行くぞ」
彼女はこれ以上俺の言葉を聞く気はないようだった。
まあ、後でじっくりと話せばいいか。そう思って、俺は彼女の後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます