第21話お姫様がTSっ娘のわけがないだろ!
「それで、言ってやったわけ! 学校って場所がそもそも間違っているんだから、俺たちが間違っているなんて言われる筋合いなんてないって!」
「あっはは! キョウさんは本当に独特な考え方をするんですね。規律の中で生きてきた私にとっては新鮮なことばかりです」
ソフィアとの密会もこれで三度目だろうか。
俺の話を本当に楽しそうに聞いてくれる彼女は、魅力的な女の子だった。
彼女に、俺のハーレムメンバーになってほしい。高望みなのは知っている。けれども、ほしいと思ってしまった。
彼女の瞳を独占したい。彼女の興味を惹きたい。
「そうだ、一つ大事なことを聞かないと」
「はい?」
俺の周囲に集まる女の子には、共通点がある。
まさかとは思うが、一国の姫様で聖女様なら大丈夫だと思うが、念のために俺は聞いておかなかれば。
覚悟を決めて問いかける。
「ソフィアはTSっ娘だったりしないよな。ちょっと前まで男だったとかないよな?」
急に、ソフィアの表情がピシリと固まった。中途半端な笑顔のまま微動だにしないソフィアの顔。
どうしたのだろう、と俺は彼女の顔を覗き込んだ。
やや遅れて、彼女の口が高速で動き出した。
「…………そ、そんなわけないじゃないですか! 何をおっしゃっているのですか! この体は生まれてからずっと女ですし、将来的にも女のはずですよ! はい!」
なぜか早口になるソフィア。
しかし、嘘を言えないほど生真面目な彼女の言うことだ。素直に信じていいだろう。
となると、ついに来たのだろうか。俺のモテ期が。我が世の春が。ハーレムの幕開けが。
そう思うと、彼女に色々聞きたくなってきた。
「ソフィア……突然なんだが、俺っていう男についてどう思う?」
「そうですねえ、面白い人、でしょうか」
来た! 面白い人! これは脈あり!
「他には?」
「うーん……私の常識を崩してくださった方?」
おお、好感触! 今ま箱入りで育ってきたお姫様が今まで見たことのないタイプの男に惹かれるパターンだ!
「もう一声!」
「うーん……複数の女性と関係を築くことを志す不貞者?」
「いやマイナス評価! さっきまで好感触だったのにめちゃくちゃネガティブな評価!」
俺の反応を見て、ソフィアはクスクスと笑った。
「でも、キョウさんのように魅力的な男子なら、女性だって惹かれると思うのですけどね。そんなに遠い夢でもないのでは?」
「いやあそれがさあ、ちょっと聞いてほしいんだよね」
「はい、なんでしょう」
俺は最近あった出来事についてソフィアに語ってみせた。
◇
「君たち、大丈夫かい?」
路地裏でガタイの良い男たちに絡まれている女の子を見かけてた俺は、これはチャンスだとすぐにわかった。
不良から颯爽と女の子を助けて惚れられる。これこそ王道。ハーレムへの第一歩だ。
「あ……あなたは」
女の子が潤んだ目でこちらを見てくる。怖かったのだろう、その足は震えていた。
「安心して。俺がすぐに助けてあげる」
「てめえ、急に出てきて舐めてんじゃねえぞ!」
青筋を立てた男が俺へと襲い掛かってくる。
しかし、遅い。路上のチンピラなんてこんなものだろう。自分の勝利を確信した俺は、剣を振り上げ――。
「キョウ君ー! ずるいよ、ボクも混ぜて!」
直後、突如背後から現れたシュカが男を蹴り飛ばした。
「ゴバッ!」
「アッハハ! キョウ、こいつらはあれだよね! ぶっ飛ばしても誰にも怒られない都合の良い人たちだよね! やったああ!」
シュカは合法的に人を殴れる機会に大喜びしていた。
ボコ、ボコ、と順に殴られていく男たち。
自称Sランク冒険者のシュカの攻撃は、凡人には防御すら不可能だ。
目にもとまらぬ速さで振るわれる拳が次々と男たちを捉える。
「か……かっこいい……!」
気づけば、俺が助けたはずの女の子はすっかりシュカの戦いぶりに見惚れていた。
やがて男たちがすべて倒れ込んだ後、女の子はシュカの元へと駆け寄っていった。
「あ、ありがとうございます! あの、失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「え? あっはは、僕はシュカ。助けたのは成り行きだから、気にしなくてもいいよ。楽しかったし」
「は、はい……!」
女の子はキラキラした目でシュカを見上げていた。
……シュカあああああ! それ俺がやりたかったやつ! なんで女のお前が女の子に惚れられてんだよ! くそおおおおおお!
◇
「そんな感じで、俺っていう男よりもパーティーの元男の方が惚れられて、本当になんでだよって感じだったんだよ」
「ふふ。キョウさんの仲間も面白い人なんですね」
「面白いっていうか、シュカのは戦いに飢えてるって言った方がいいな。別に悪い奴じゃないけど、頭がおかしいと思うことが多々ある」
そんな風に話していると、今日もまた日が暮れてきてしまった。ソフィアがあたりを見渡して時間の経過を確認している。
「それでは、今日はこのあたりで失礼しますね。あまり教会を空けていると、心配をかけてしまいます」
「ああ。……ソフィアは本当に忙しいんだな。休日とかないのか?」
「一日休みのことはないですね。本当なら、キョウさんともっと話していたかったのですが」
それは残念。けれども、彼女にも彼女の勤めがある。あまり邪魔しては悪いか。
「それじゃあ、また今度、ここで」
「はい、またお会いしましょう」
彼女はまた会う約束をしてくれた。その事実に、俺は心が暖かくなった気がした。
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