第9話かちこみじゃあ!
『宵闇の蝙蝠』の本拠地は、共和国のはずれ、スラム街にあるそうだ。俺とヒビキは、二人でそこに乗り込むことにした。
「キョウ、本当に二人で犯罪組織とやりあうんだな」
「ああ。ヒビキも見ただろ。冒険者ギルドの依頼では、『宵闇の蝙蝠』の討伐はランクBで報酬も多い。ここらで名声をあげて、ハーレムメンバーゲットといかないとな!」
「お前は本当に楽天家だな。まあいいさ。ボクだってあんな目に遭わせてくれたあの組織には腹が立っていたんだ」
ヒビキも気合が入っている。眼鏡の奥の目は鋭い。
「あったな。あの家だ」
その建物は、スラム街には不似合いなほどに豪華だった。二階建てで、外壁も窓もきれい。しかし玄関先には強面の男が立っていて、ただならぬ雰囲気を醸し出している。
俺はそこに、自然な足取りで近づいていった。
「お兄さんこんにちはー」
「……なんだお前は。ここを誰の場所だと思っている?」
「――ここをぶっ潰しに来ました!」
無防備な男の顔面に拳を叩き込む。壁に頭を打ち付けて気絶する男を横目に、俺たちは建物に侵入した。
「ヒビキ!」
「おう! 『稲妻よ ライトニング』」
玄関の騒ぎを聞きつけてこちらに向かってきた男たちに向かって電撃が走ったかと思うと、一斉に敵がバタバタと倒れだした。
ドジしていると忘れそうになるが、ヒビキの魔法のランクはA以上。普通の人間なら対処できないほどの高威力だ。
さらに彼女の強みは、精密な魔法の操作だ。狙いが正確で、確実に敵を捉える。
「クソ……また侵入者だ!一階に二人!」
「はあ!? 敵の増援か? マズいぞ! 能力簒奪スキルスティーラー様はまだなのか!?」
人間と戦うのは初めてだったが、案外魔物と戦うのと変わらないという印象だ。剣術のスキルのランクが高いからだろう。アウトローな見た目をした男たちはナイフや槍を振り回して襲い掛かってくるが、動きが簡単に見切れる。
「ハッ!」
突きをお見舞いして男を吹き飛ばす。その隙にヒビキの放った電撃が他の女を気絶させた。
優勢で戦いを繰り広げているが、入り口から存在感のある男が入ってきた。
「騒がしいな。何事だ」
「お、お前は……」
ヒビキが驚いた顔で男のことを見ている。
「ヒビキ、見たことあるやつか」
「ああ。あれが能力簒奪スキルスティーラー。『宵闇の蝙蝠』のリーダーだ」
不気味な雰囲気を纏った男だった。顔にびっしり刻まれた刺青。やや猫背の立ち姿。
「お前は……いつか奴隷商に売った女か」
「ッ……」
ヒビキが動揺しているので、俺は前に出た。
どんな相手なのか確認するために、俺は鑑定を使った。
名前 マイク
職業 盗賊
【ユニークスキル】
能力簒奪 A
【スキル】
剣術 D
刀術 D
石化の魔眼 C
闇魔法 D
スキルを見る感じ、たくさんスキルを持っているがランクが高くない。察するに、能力簒奪でたくさんスキルを奪ったのだろう。ただ、ランクはせいぜいCどまりになる。
俺が鑑定をしていると、能力簒奪スキルスティーラーは、目を見開いた。
「お前……『驕傲きょうごうの主』? 面白そうなスキル持ってるな。――よこせ」
コイツ、相手のスキルが見えるのか?
能力簒奪スキルスティーラーが剣を持ちこちらに走ってくる。スキルを奪う相手。どんな強さなのかと疑っていたが――
「なんだ、意外と遅いな」
大振りな一撃を剣で弾くと、あっさりとたたらを踏む。踏み込んだ剣を振ると、浅く腹を斬った。
「グッ……これだから勇者とかいう人種は嫌いだなんだ。大した経験もないくせに強いスキルばっかり持ちやがって……!」
男がこちらを鋭い目で見る。
「ちょうどいい、この前奪ったスキルを試してやる……! 『石化の魔眼』!」
能力簒奪スキルスティーラーが左目を見開くと、瞳が赤く光る。
その瞬間、体に一瞬違和感を覚えた。動きがとれなくなるような、体が重くなるような感覚だ。しかしそれも一瞬のことで、すぐに調子が戻ってくる。
「……なんだ?」
「なっ!? なぜ『石化の魔眼』が効かない!?」
「……あー、あれか。なんかチート、みたいな?」
「ッ……ふざけやがって! おおおおお!」
不格好に剣を構えてこちらに走ってくる能力簒奪スキルスティーラーに、俺は軽く身をかがめると一度剣を振るった。
「ぐ、あああああ!」
血を流しながら倒れ込む能力簒奪スキルスティーラー。
「く、クソッ、クソッ、クソッ! こうなったら、スキルの複合発動を――」
「あれ、君がボス?」
ふいに、上から聞き覚えのない声がした。
破壊音。動揺する能力簒奪スキルスティーラーの頭上の天井に、突然穴が空いた。
降ってきた少女が、重力の力を借りて膝蹴りを能力簒奪スキルスティーラーに食らわせた。視覚外からの一撃を食らった男は、ぴくりとも動かなくなってしまった。
「おいおい、これはどういうイベントだ?」
降ってきたのは、可愛らしい見た目をした少女だった。活発な印象を受ける明るい顔。上半身にはサラシを巻いているだけ。健康的に引き締まった体が剝き出しだ。栗色の髪の上には、犬の耳がぴょこんと飛び出ている。
「あれ、こっちの方が強そう。君がボスだった?」
違う、と答える前に、俺は激しい衝撃に吹き飛ばされた。
顔面に拳を一発。それだけで、俺は建物の壁を突き破って外の通りまで飛んでいったのだった。
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