KAC20235 Muscleに従え

@kumadagonnsaburou

第1話


「今回お呼びしたのは他でもありません。お子さんの進路希望についてです」


 とある高校の教室にて、がっしりとした筋肉質な男性教師(俺)と男子生徒、そしてその男子生徒の父親が向き合っていた。


 男子生徒の見た目はがり勉眼鏡と言った感じで、もやしの様にひょろひょろである。

 そして父親の方も、男子生徒と同じように吹けば飛んでいきそうなほどにひょろひょろであった。


「進路希望ですか? まさかウチの息子が可笑しなことを書いたのでしょうか?」


「可笑しなことなんて書くわけ無いじゃないか父さん。変な勘繰りは止めてくれよ」


「いいえ、相当可笑しなことを書いていました。どうぞこれを。お子さんが提出した進路希望です」


「拝見させてもらいます」


 男性教師からぺらりと渡された進路希望の紙。

 父親はその進路希望用紙に書かれた第一から第三までの希望欄を見て眉をひそめた。


 第一志望

銀河一のボディビルダー

 第二志望

世界一のボディビルダー

 第三志望

全国一のボディビルダー


「これは酷い・・・」


「ええ、その通りです。初めはふざけているのかと思い本人と話してみたのですが本気のようで、聞く耳を持って下さらないのです。何度か説得を試みたのですが、どうしても進路希望を変える気はないと言い張るしまつでして・・・ですから親御さんに「このバカ息子が!」!? ちょ、お父さん!」


 人など殴らなそうな見た目とは裏腹に、父親は息子を思い切り殴りつけた。


「な、なにするんだ!」


「なにするだと? ここまで育ててやったと言うのにこんなふざけたことを書きおって・・・お前は・・お前は・・・」


「お父さん落ち着いてください!」


 気持ちはわかる。

 彼は全国模試でもいつも一位を取るほど頭の良い・・いや、天才と言っていい子だ。

 将来は医者や弁護士になる。

 そんな子だ。

 親御さんも大層期待していたことだろう。


「お父さんのお怒りは十分わかり「何故第一志望に宇宙一のボディビルダーと書かなんだ! お前の志はその程度なのか!」・・・は? 今何と?」


 今とてもアホな事が聞こえた気がする。気のせいだろうか?


「お前が全国一のボディビルダーになることなど母の腹にいた時から決まっている。

 お前が世界一のボディビルダーになることなど、この世に生を受けた時から決まっている。

 銀河一のボディビルダーになるなど、高校の卒業と同時になるのだから、そんなことをいちいち進路希望に書くな馬鹿者が!」


 気のせいだろう。

 こんな弾の可笑しなことを言う親がいる何て・・・気のせいのはずだ。


「ですが父さん。銀河一にはなれても宇宙一にはなれません。宇宙には・・・宇宙には・・・僕などでは太刀打ちできないMuscle達がいるのです。そんなMuscle達と戦える自信は僕には・・・ありません」


「バカヤローーーーーッ!!」


 またも父親が息子を殴ったのだが、俺は止める気にはなれなかった。


「Muscleに大切なのはなんなのか! お前は忘れたのか! Muscle三原則を思い出してみろ!」



 Muscle三原則


第1条

我等はMuscleに危害を与えてはならない

第2条

我等はMuscleに与えられた命令に服従しなければならない

第3条

我等は前掲第1条及び第2条に反する恐れがない限り、Muscleを鍛えなければならない



「お前のMuscleはなんと言っている! たかが銀河一のボディビルダーで満足しまうMuscleだと言っているのか!」


「ぼ、僕の、僕のMuscleは・・・」


「Muscleの声を偽るな。Muscleの声に耳を塞ぐな。Muscleの・・・・己のMuscleを信じろ」


「己のMuscleを・・・信じる」


「そうだ。お前が己のMuscleを信じたならば必ず宇宙一のボディビルダーになれる。私はそう信じている」


「っ!? 父さん!!」


「息子よ!」


「・・・・・・・」


 ヒシッと抱き合う親子二人。

 俺はいったい何を見せられているのだろうか。


 というか、息子さんの頭の可笑しい進路希望を修正させるために呼んだはずなのに、もっと頭の可笑しな方向に話が進んでいるのだが。


「では先生。そう言うことで息子の第一志望は宇宙一のボディビルダーと言うことでよろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


「いや、そうではなくてですねお父さん。ここにはボディビルダーとかそう言うのを書く欄ではなく、ちゃんとした学校名などを記載して頂かないと――――」


「行くぞ息子! 宇宙一のボディビルダーになるためにMuscleを鍛えるのだ!」


「はい! 父さん!」


「聞けおぉぉ!? ちょっ!? ここは三階!?」


 人の話など聞かずに、二人共窓から飛び降りたので慌てて窓際に駆け寄ると、二人は綺麗な受け身をとり、何事もなく立ち上がると、そのままうさぎ跳びをしながら校外へと出て行った。


「いったい何だったんだ。あの親子は・・・・」


 色々と可笑しな親子であり、結局進路希望を書き換えてはもらえなかった。

 まぁ天才と変人は紙一重と言うし、凡人の俺が説得できるわけもないので、仕方が無いのかもしれない。

 ただしかし、


「・・・どうすればいいだ」


 校長から直々に東大や早稲田などの有名大学に進学させるように言われいたというのに・・・ホントどうすればいいのだろうか。

 進学させられなければ、この学校にいる間一生お小言を言われるだろう。


「転任届け出しておくか・・・・それとも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺もMuscleの声に従ってみるのもいいかもしれないな」


 そう言うと俺は胸やお尻の筋肉をぴくぴくと動かしながら教室を出て行った。


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