思ってたんと違う・・・

結局フィジカル

『どうして太ももを鍛えているのですか』

「そりゃあ、太ももを鍛えている人とそうでない人では、飛び上がる際の推進力に大きな差ができる。結果、最高速度に到達するまでの時間も、最高速度も全然変わってくる。」

『どうして手首を鍛えているのですか？』

「そりゃあ、箒をしっかり持つためでもあるし、杖を素早く振るためでもある。攻撃の反動で杖を手放してしまわないためでもある。」

『どうして腹筋を鍛えているのですか？』

「そりゃあ、攻撃の反動によろめいていては、敵の反撃に対応できないからだ。杖から放たれる魔法弾の威力や反動は、杖を振る速度と比例する。手首だけ鍛えて、高威力の魔法攻撃ができるようになったとしても、その反動で隙を見せてしまっては本末転倒というものだ。もし、隙を作ってしまって敵の攻撃を体で受けることになったとしても、筋肉があればそこに蓄えられた魔力で耐えることだって可能だ。」

『……なるほど。』

「さっきから私が筋肉を鍛えることに対して疑問を抱いているようだが、私からしたら何故そんな疑問を抱くのかが疑問だ。そもそも、自身に蓄えられる魔力の総量は筋肉量に比例するってことくらい、初等魔法学校で習っただろう？これから先に習う魔術は、一度に放たれる魔力量が多くなってくる。だから、そもそも筋トレをしていないと、それだけの魔力を体内に蓄えておくことができず——」

　——なんか、思ってたんと違う。

　確かに、前世の僕はいわゆる大卒資格のために惰性で勉強する自分の生活に嫌気が刺し、魔法学校で暮らすライトノベルの主人公に心底憧れたことがある。そうは言っても……。

　僕の太ももより太く逞しい前腕で、そんな繊細そうな杖を摘まないでくれ。トレーニングだといって、重たい金属製の棒を杖代わりに使わせるのはやめてくれ。大広間に描かれた学長の壁画くらい、ヨボヨボのおじいちゃんであってくれ……。