SECTION:2 『へいわ』に捧げる戦争神話<新興宗教ではありません>
第九話:つかの間の休息
※※ 9 ※※
どーでもいいといえば、さっきから周囲の視線がやたら痛い。
少なくとも
どちらかというと
そう、好奇心に満ち溢れた視線の類なのね。
「ねえ、見て。あそこに『RS-7
その小声で、ふと、ノートに走り書きしていたあたしのペンがピクリと止まった。が、何も聞こえなかったふうに、もくもくと作業を続けることに専念する。それでも、やっぱり会話が耳についてしょうがない。
それもそのはず。彼らが噂しているのは誰であろう、あたしのことだからだ。
「どこ、どこ?」
「ほらぁ~、あそこ。窓の近くよ」
「えぇぇ、あの英雄って女の子かよっ! なかなか可愛いじゃん」
「……あなたって、ああいう子が好みなんだぁ」
「バカだなぁ、俺はお前が一番さ」
「もぉ、あなたもバカぁ……」
あの、もしもし。全部聞こえているんですけど。
でも、これで何度目かしら……。『RS-7
死ぬ思いをしながら
「ふう……」
溜息をひとつ
(この間の
テーブルのアイスココアをストローでつつく。カランッと
「あら、トウノ少尉も後方作戦本部に出頭してたの?」
あたしは声が発せられた方向へ振り向く。声の主は顔を見なくてもすぐに分かるのだ。
「はい。マナ少佐はどうしてここへ?」
「このたび、後方作戦本部長付首席補佐官の辞令が下りたの。ほら、その受け取り」
あたしに薄い紙きれを一枚渡して、反対側の椅子に座り、コーヒーを注文する。
「……へえ、内地勤務と中佐に昇進ですかぁ。おめでとうございます」
あたしは丁寧に三つ折りにして、辞令公布書を返した。
「ありがと。それよりトウノ少尉にこそ……あ、何か書いてる?」
さり気なく、マナ少佐が机の上のノートを
「……軍人にとって戦争とは……、って随分難しいこと考えているのねぇ」
「あ、いや、これはあたしのメモというか、日記みたいなものですので……」
しどろもどろに弁明しながら、
「え、えーと、何か新しい作戦に召集されるらしく、その辞令が
あたしが急に妙なアクセントを語尾につけたもんだから、マナ少佐は「おやっ?」という顔を見せる。しかし、すぐに謎を
「おい、あれ。『RS-7
「お、ホントだ。彼女、けっこう可愛いよな……。彼氏いるのかな?」
あたしのぶすっとした顔にマナ少佐がくすくす、笑い出す。
「トウノ少尉も、今やちょっとした有名人だもんね」
「笑うことないじゃないですかぁ。あたし、英雄とか、そういうの好きじゃないし……。それに敗けちゃって英雄もないじゃないですか? 敗軍の将って詰られるのなら、まだしも……」
あたしの非難を静かにコーヒーを
「……敗けたからこそ、英雄が必要なのよ。士気に影響するから……。わたしたち人類が宇宙歴305年に地球外生命体と接触して、今年で4年。それらと戦争を始めて3年。それなのにわたしたちは敵がどんな形態をしていて、どんな種族で、そんな
ただ、わかってることは、明らかに敵の意図は太陽系周辺宙域と地球の侵略……。飛んでくる火の粉はふり払わないといけないとはいえ、誰も得体の知れないものと戦うのは気味が悪いというのが本音だけに、何が何でも士気を上げないといけないのよ」
「だからって何もあたしを英雄にしなくてもいいじゃあないですかぁ」
あたしは勢いよく、残りのアイスココアをストローで吸い込んだ。
「まあ、英雄かどうかはともかく、トウノ少尉は大きな功績を上げたのは事実よ。それに対しては自信を持ってもいいと思う。あの戦況の中で撤退作戦を実行してから帰還率八十パーセント以上、誰にでも出来ることじゃないわ」
「そうでしょうか……?」
「そうよ。ほら、そろそろ時間でしょ」
マナ少佐が自分の腕時計を指差す。
「あ、そうだった! マナ少佐はこれからどうなさるつもりですか?」
「ヒクマ提督とトクノ参謀長をお
「それでは、ご一緒させていただいてもいいですか?」
「そうね。だったら、一階ロビーの時計塔の前で待ってるわ」
「了解しましたっ」
あたしは素早く敬礼して、足早に
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