第八話:苦悩の果てに
※※ 8 ※※
「ご両名とも重傷ですが、今なら助かります」
軍医の診断にホッと胸を
「それでは軍医殿、宜しくお願いします」
あたしは軍医と敬礼を交わすと、担架で運ばれるヒクマ提督とトクノ参謀長を見送った。
これで司令部に残ったのは、あたしとマナ少佐と後方主席参謀の三人。だけど、さっきの被弾で後方次席参謀を失った後方主席参謀殿は、現場で医療班の直接指揮と、医薬・弾薬の補給指揮を
結局、司令部首脳と呼ばれるのは、あたしとマナ少佐。事実上、司令部は崩壊したと言ってもいい。
(これで、やっていけるのかなぁ)
何とも言えぬ不安感で
「ダメね、下も
「……そうですか」
絶体絶命または四面楚歌。まさに、今この状況のためだけに存在するのではと思うくらい、ドンピシャリな言葉。ついてないときは、とことんついてないのね。
「これで、
「そうですね」
あたしもマナ少佐の意見に頷いて見せる。それからバルコニー状の第三層の端に手を
「現状報告では、戦術コンピュータおよび端末、管理機能は全部生きてるから作戦続行には支障がないけど、人員がこれではねぇ……」
マナ少佐が、あたしの横で嘆息する。
「増員しますか?」
「う~ん、それは無理ね。どこの部署も人手不足だから、
「それに?」
「それに、増援したくても余剰な
「はあ、……」
溜息ともつかぬあたしの生返事に、マナ少佐は少々不安を感じたらしい。その語気に少しばかり
「気のない返事をするのねぇ、トウノ少尉。あなたが司令官代理なんだからしっかりしなさい」
「えっ、あたしが司令官代理? そんなの無理ですよ」
あたしの抗議に対して、マナ少佐は何処までも冷静だ。
「そうはいっても提督が不在である以上、現場責任者のトウノ少尉が艦隊を指揮するのが当然でしょう」
全く、いくら切羽詰った戦況でも、一介のぺーぺー少尉が艦隊指揮だなんて、冗談にもほどがあるわっ。あたしが
「大丈夫、トウノ少尉ならうまくやれるわよ」
「そんなぁ……あたし自信ないですよ」
大きく脱力しているあたしの脇で、通信オペレーターが状況報告する。
「艦内の応急修理、全て完了しました。ただ、被弾箇所が悪く、左舷のサブエンジンが使用不能とのことです」
(え? 左舷サブエンジンが使用不能? ということは……)
素に戻った、あたしは端末を開いて、機関部用艦内管制システムを立ち上がらせる。ホントは機関長のする仕事だけど、艦レベルの司令部は全滅だから仕方ない。
そこに、通信オペレーターが更なる報告を追加した。
「メインエンジンに故障発生っ! 出力さらに15%ダウン」
「ちょ、まっ! 今、亜光速航行のエンジン臨界チェックしてたとこなのにっ!」
まあ、とにかく今はエンジンの修復をするのが先ね。
「エネルギーライン、バイパス接続正常。ダメージコントロール班はメインエンジン破損エリアへ急いで」
あたしは、機関部各所に下命して、再び亜光速航行管理システムを立ち上げる。不幸中の幸いか、バイパスに切り
しかし、ホッとするのもつかの間、今度は
「本艦、正面に敵、高速戦艦、来ます」
「主砲、斉射っ!」
間髪入れず、あたしは命令を下す。言うまでもないが砲術長の職分も兼任せざるを得ないのだ。前部主砲から打ち出された何筋かの粒子の束が敵艦の外壁を
「
「右舷後部、光粒子魚雷発射っ!」
「右舷後部、光粒子魚雷発射管は既に大破してますが……」
オペレータの
「じゃ、じゃあ……右舷後部光子砲斉射っ!」
言い訳するようだけど、今のあたしには、やることが多すぎて昔の報告なんていちいち
「トウノ少尉、そろそろじゃ、ない?」
「え? あ、はいっ!」
マナ少佐の助言で機関部ジェネレータ・システムと亜光速航行管理システムを閉じて、戦術コンピュータに情報部から送られる戦況布陣図をリンクさせる。みた感じでは、敵の
おそらく現時点で、敵は自軍の勝利を確信しているだろう。まあ、そう思い込ませるのが、この作戦の基本戦略なのだが。
「そろそろですね。敵がこのまま気づいてくれなけばいいんですけど……」
「ここまでくれば大丈夫よ。でも……」
「でも、油断は禁物ですね」
あたしの言葉に、マナ少佐はにっこりほほ笑んだ。
「敵軍、我が軍の後衛部隊を突破っ! 完全に分断されるまで、あと10秒っ!」
あたしとマナ少佐が同時に頷く。
「各艦、亜光速航行用意、カウント12秒前」
命令を下すとともに右腕を
「敵軍、完全に我が軍を分断しましたっ!」
通信オペレーターに呼応して、マナ少佐が亜光速航行座標軸の最終確認をする。
「艦隊の亜光速航行軸線上、オールグリーンッ! いけるわよ」
「全艦、亜光速航行開始っ! 逐次RS-7
あたしは
そして、前衛部隊から次々と青白い光粒子に包まれて消えていく同胞を
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